赤髪の白雪姫2次小説
2.白雪の悩み事

「雷のあとに」の続きです。白雪の悩みと二人の会話がR18です。

***

「白雪さん……、白雪さん!」
 ぼうっとしていた白雪は、リュウの呼ぶ声に気付かなかった。
「あ、リュウ。なんでしょう?」
 びっくりして返事をする。ガラクとリュウは顔を見合わせる。
「白雪君、最近ぼうっとしてることが多いけど大丈夫? 体調悪いの?」
「すみません。大丈夫です。ちょっと考え事しちゃって……本当にすみません」
 白雪は椅子から立ち上がり、上司に丁寧に謝る。
「白雪さん」
 リュウが呼ぶ。
「はい?」
「前にも言ったけど、悩み事があるなら……紙に書いた方がいいよ」
 リュウとしては真剣にアドバイスしたつもりである。
「いや……、私の悩みは紙に書くほどの事ではないというか、なんというか……」
 なんとか笑ってごまかそうと白雪は作り笑いをする。
「フフフ」
 薬室長の笑う声に二人は振り向く。ガラクが笑いをこらえきれず、お腹を抱えていた。
「リュウ、人にはね、紙に書けない悩み事もあるのよ。ねえ、白雪君」
「そ、そうですね。そんな悩みがある時もありますね」
 白雪は見透かされたのかと思いドキッとした。
 しばらくの沈黙は3人の間に流れる。沈黙をなんとか破ったのは白雪だった。
「あの……私、調べものがあるので、ちょっと図書室に行ってきていいですか? 
何か借りてくる本がありましたら一緒に借りてきますけど」
「じゃあ、このタイトルの本を借りてきてくれないかな」
 リュウはメモ用紙に本のタイトルを書き白雪に渡す。
「借りてくる本はないけど、この本を一緒に返してきてくれる? 白雪君」
「はい、わかりました」
 リュウからタイトルが書かれた紙と、ガラクから返す本をもらい白雪は図書室へ向かった。



「紙になんて……書けるわけないよ!」
 本を胸に抱き、図書室へ向かいながら怒る。怒っているのはリュウに対してではない。
自分に対して怒っているのだ。
 雷のせいで王宮に帰れなくなって、ゼンと一夜を過ごしてから1か月が経っていた。
あのときから、ずっと心に引っかかっていることがあった。
 果たして、ゼンはあの夜、満足してくれたのだろうか。そう考えると不安でたまらなかった。
 初めてだったこともあり、痛くてなかなか入らなかった。なんとか挿入はしたが、
圧迫感はあったけど、気持ちいいとかはあまりよくわからなかった。
こんな自分に、ゼンは満足してくれたのだろうか? 嫌われていないだろうか? 
王宮内で会えば今まで通りゼンはやさしく接してくれる。だが、もう愛想をつかされて
今後、ああいうことがなくなったらどうしよう……。様々な考えが駆け巡り、仕事中も、ぼうっとしてしまう始末だった。
こんなこと人に聞けないし、ましてや紙に書くなんて……。誰かにその紙を拾われたらどうするんだ!
明後日の方向に怒りをぶつける白雪であった。
 悶々と悩む中、白雪はある一つの方法を思いついた。
それが今の時間、図書室へ行く理由である。図書室には薬草の本を始め、歴史や小説、
生活に関する本など様々な本が置いてある。よく図書室を利用する白雪であったが、
図書室の蔵書の中に男女のことに関する本が置いてある書棚があったのを思い出した。
時々、その書棚の前で真剣に本を読んでいる人を見かけたことがある。
今回、図書室へ行く一番の理由は、その男女のことに関する本を借りることが目的である。
ちょうど今の時間、午前中のお昼少し前くらいが一番図書室に人がいない。こんな赤髪である。
もしその書棚の前で本を読んでいる姿を見られたら、すぐに自分だとわかってしまう。それだけは避けたかった。
 白雪は図書室に着くと、別の本を探すふりをして、何気なくその書棚の近くまで行く。
タイトルをチラ見して借りたい本の目星をつける。とりあえず、一度通り過ぎる。
別の書棚を回って薬草に関する本を数冊抱え、もう一度その書棚の前を何気なく通る。
辺りには誰もいないことを確認し、借りたいと思った本をすっと抜き、薬学書の本と本の間に入れる。
今、図書室の職員はちょうどお昼休憩の時間。本の貸し出しを自分でできることも好都合であった。
白雪はその本を薬学書の間に大切に挟み、図書室を後にした。


「そうか、初めての時は痛くていいのか」
 仕事が終わった白雪は、自分の部屋で図書室から借りてきた本を真剣に読んでいた。
部屋には一人であったが、念のため、タイトルが見えないよう薬学書を重ねて読んでいる。
 王宮にいるとこんなことは誰にも相談できない。ましてや相手が王子なのだから、
同じ王宮勤めの人間に相談できるわけがない。図書室の本は、白雪にとって本当に救いだった。
痛みは人それぞれで、回を増すごとに気持ちよくなっていくとも書いてあった。
 雷の日から1か月が経っていた。あの夜のことを思い出すと、ゼンに触られた感触がまだ全身に残っている。
また触れて欲しいとも思う。ゼンはどう思っているのだろう? 
今の自分と同じように思っていてくれるのか? それとも……。
 あの夜の話は、この1か月一度も二人の間で出ていない。こんな自分で嫌われていないか。
ゼンは満足してくれていたのか? 本を読んで少し気持ちは軽くなったが、不安は消えなかった。


***

「あの……」
「なんだ? 白雪?」
 話があるから二人きりになれる場所に行きたいと白雪に言われ、宮廷から離れた森の中へ来ていた。
白雪は俯いたままなかなか喋ろうとしない。多分話しにくいことなのだろう。
話しにくいことと言ったら、ゼンには一つしか思いつかなかった。
「あの、雷の日の夜のことか?」
 ゼンの言葉に白雪は顔を赤らめる。静かにうんと頷く。
 もうしばらくの沈黙の後、やっと白雪は口を開いた。
「あの……、私のこと……嫌いになった?」
 白雪は俯いたまま聞く。とてもじゃないけど、顔を見る勇気はない。
「はあ?」
 ゼンはいつもより1オクターブ高い声をあげる。
「な、何で嫌いにならないといけないんだ。おい、どうしたんだ?」
 白雪に駆け寄り、俯いている白雪の肩に手を置く。
「あの日の夜。私からいいって言ったのに……全然うまくいかないし、ゼンのこと困らせたし、
私なんかで満足したのか不思議で……、もしかしたら嫌われたんじゃないかと思って……」
 俯く白雪の表情は真剣であった。あの夜からずっと悩んでいたのだろう。
 ゼンは深くため息をつく。
「嫌いになんてなるわけないだろう。逆だよ、余計好きになった」
 白雪は顔を上げる。
「な、なんで?」
「なんでって……、嫌いになる理由なんて一つもないからな。
第一、俺のほうから白雪を嫌いになることなんて絶対にありえない」
「そうなの?」
 まだ不思議そうな顔をしている。
「ああ」
 ゼンは穏やかに笑いながら頷く。
「じゃあ、私で満足してくれたの……その……気持ちよかった?」
 白雪の最後の言葉はものすごく小さい声であった。ストレートに聞かれると少々面食らったが、
ここはしっかり返事をしないと、また白雪の悩む原因になりかねない。
「ああ、満足した。気持ちよかったぞ」
「そうなんだ……よかった!」
 白雪は顔を両手で覆う。泣いてしまったのではないかと思ってゼンは再び顔を覗き込む。
泣いてはいないようだ。恥ずかしいことを聞いたと思っているのか少々、顔が赤い。
「白雪はどうだ?」
「は?」
 両手を顔から外し、ゼンを見つめる。
「白雪はどうだった? 満足したか?」
 先ほどの安堵の表情から一転、硬直している。白雪のその先の言葉が出てこないのがわかった。
ああ、もう答えは聞かなくともわかる。ゼンは即座に感じ取った。
「ごめん、よくわからなかった」
 しばらくの沈黙の後、ようやく言葉を発した。
ああ、やっぱり。ゼンは予想していたとおりの返答に少々落ち込む。
「初めてだったし、すごく緊張したし、どうしたらいいかわからなくて、
気持ちよかったとかそういうことはわからなかった。ごめんなさい」
 また俯いてしまう。今度は本当に泣きそうな顔をしている。なんと言葉をかければいいのかわからない。
確かに痛がっていたし、緊張していたのもわかる。多分、白雪本人が辛かったから、
ゼンが満足したかどうか知りたかったのだ。これは自分のせいでもある……
ゼンは今ある状況に青くならざるを得なかった。
「でも、でもね!」
 白雪が顔を上げて、ゼンの瞳をまっすぐに見つめる。
「気持ちいいとかよくわからなかったけど、あんなことゼン以外の人とは絶対に嫌だし、
もしゼンが自分以外の他の人とするのは絶対に絶対に嫌なの。だから…だから…」
 白雪が流れるように早口でいう。真剣であった。
「あの……またよろしくお願いします」
 白雪はゼンに赤い髪を下げてお辞儀をした。
「ぶっ、わははははは」
 ゼンは声をあげて笑う。まさかこの状況でよろしくお願いしますと言われるとは想像もしなかったからだ。
笑いながら白雪を抱き寄せる。そして赤い髪のかかる耳元にそっと囁く。
「じゃあ、今晩はどうだ?」
「え?」
 抱き寄せている白雪の肩がぴくっと動く。
「夜、抜け出して白雪の部屋に行く。嫌か?」
 少々の沈黙の後、「よろしくお願いします」という小さな声が聞こえた。


続く♪


***
あとがき

白雪の今回のような悩みがある時って、今ならネットでいくらでも調べられるけど、
きっと昔はHOW TO本みたいなものが頼りだったと思います。
そういう本って需要があるから真面目な図書室にも置いてあるレベルなのではないかと……。
実はこのシリーズの中で、このお話が一番気に入ってるかも。






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