***白雪姫編***

「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは誰だ?」
 マットドクター邑輝は銀髪をかき分けながら、『鏡の巽』(都の巽の親戚? 笑)に話しかけた。
「それは邑輝様、あなたです。…と言いたい所ですが、私の趣味としましては、
森の奥に、7人の小人と住んでいる住んでいる都筑麻人さんです。
まあ、美しいと言うより目が離せないと言うか、かわいいと言うか……、
とにかく、あなたなんかより、ず―――っと身も心も綺麗です」
「なんだとっ!」
 ―――ガッシャン!
 邑輝は怒りのあまり、『鏡の巽』を割った。
 ―――哀れ…鏡の巽は帰らぬ鏡に…。今度はお茶に生まれ変わってください♪(笑)
「この私より綺麗なものがあるなんて許せない! 私が日本一、世界一、閻魔庁一の
美徳をそなえてなければいけない! ……こうなったら、都筑麻人とやらを殺さねば!
なぁに、簡単なこと、フフフ……」
 邑輝は不気味な笑みを浮かべた。
 白衣を羽織って研究室に入った。情報によると、都筑とやらはアップルパイが好きなようだ。
毒入りアップルパイを作るなんてお茶の子さいさい。ここでは言えない化学物質を寄せ集めて
さあ、できあがり。おいしいおいしい、邑輝の毒入りアップルパイ!
 早速、森へ売りに行った。白衣を脱いで、変わりに黒いマントを羽織って…。
マントからは銀色の髪と眼鏡がキラリと光っていた。
「アップパイはいらんかねー。おいしいおいしいアップルパイだよー!」
 ちょうど留守番していた都筑の耳に飛びこんで来た。
「アップルパイ!!!」
 都筑は小人のお家の窓から顔を出した。
「おおおおおおおおっ! これはなんと可愛らしいお嬢さん…じゃなかった。
なんと可愛らしい方なんだ! どうです? アップルパイはいりませんか?」
 邑輝は都筑にアップルパイを薦めた。
「うーん。今はこの小人のお家に居候の身だからなぁ。あんまり無駄使いはしないようにって
言われてるんだ。どうしようかなぁ……」
「小人? 今、その小人さんたちはいるんですか?」
「ううん。仕事に出かけていないよ。でも、無駄使いするなってうるさいんだ。
とくに巽って小人が…。他にも、巽・密・亘理・近衛・弓真・さや・ワトソン(←本当に小人だ・笑)
っていうのがいるんだ! なっ、うるさそうなメンバーだろ?」
 都筑は不満そうに言った。もし、このアップルパイを買ってしまったら、
巽に怒られるのは必須だろう。巽の怒った顏は見たくないし、密や亘理もバカにするに決まってる。
 しかし、人参を目の前にした馬のように、ダラダラとヨダレが流れていた
 ヨダレを見て、邑輝はにやりと笑う。
「なぁに、一つくらいタダであげますよ。可愛いあなたのためだ!」
「タダ!」
 都筑の、もとからクリクリしている目はもっと大きく開き、キラキラと輝いていた。
「はい、あげますよ」
「本当? 嬉しいなぁ。でも……、巽が昔、『タダより高いものはない…』
って言っていたことあるなぁ。どうしようかなぁ……」
 タダで貰うのも少し気の引ける都筑。だが、みんなが帰って来る前に
お腹に収めてしまえば、アップルパイを食べたことなんてバレやない……。
 都筑の中の天使より悪魔が勝ってしまったようだ。
「ありがとう! アップルパイ売りのおじさん! 貰うよ!!!」
 邑輝はつやのいいアップルパイを都筑に渡した。
「さあ、どうぞ、一口味見せてくださいな。腕によりをかけて作ったアップルパイです。
ヒヒヒヒヒ……」
「うん」
 ―――ガブリ。
 アップルパイに噛み付いた。
「おひしひ」
 口をモグモグさせながら嬉しそうに言う都筑を、邑輝は眼鏡越しにじーっと見ていた。
「うっ!」
 ―――バタン。
 都筑は倒れた。どうやら、アップルパイに入っている毒が効いたようだ。
「フフフ、これで私がこの世で一番美しい」
 邑輝は満足気だった。
 しかし……
「この世で一番美しいのは私ですが……、あの『鏡の巽』の言うように、
この世で一番可愛らしいのは、都筑さん、あなたかもしれません。さあっ!」
 そう言って倒れている都筑を抱きかかえた。
「アップルパイに入っていた毒は、確かに致死毒ですが、いまから処置すれば間に合います。
私と一緒に暮らしましょう! あなたに不自由はさせません!」
 邑輝は彼が気に入ってしまったようである。殺すためにアップルパイを
食べさせたのではなく、連れ去るためにアップルパイを食べさせたのである。
 哀れ、白雪都筑は邑輝の餌食に……。

 一方……、
 お家に帰ってきた、巽・密・亘理・近衛・弓真・さや・ワトソンは……。
「白雪都筑がいない! 私達の出番がない!」
 そう叫び、あっけにとられていた。
 もちろん……、王子様伯爵の出番なんてあるわけがありません。

♪おわり