***注文の多い料理店編****
身も凍る寒い冬の日、二人の若い男が 雪山に狩へ行った。
この日は 鳥や獣も一匹たりとも取れず 持って行った猟銃が
ただの鉄の固まりのお荷物と化していた。小1時間ほど前から降り始めた雪は
風が強くなり 吹雪となっていた。
「都筑さん、これはそろそろ 引き上げたほうがいいですよ。
吹雪になってきましたし。」
「そうだな巽、もう 十王丁に帰ろう。獲物が一匹も取れなかったが仕方ない。」
都筑と巽は 吹雪も強くなってきたので 引き返すことにした。
するとどうであろう、来た道の足跡も 吹雪で消え
目印の星も見えず 2人は迷ってしまった。
「うう、巽ィ〜お腹空いたよ〜。暖かいミルクティーが飲みたいよう。」
「都筑さん そんなことを言っても こんな山奥にはお店なんてありません。
しっかりしてください。」
「うう、ダメだよう。巽ィ〜。」
都筑はその場に座りこんでしまった。するとどうであろう 前方にほのかな
明かりが・・・。山小屋かなにかかもしれない!そう巽は思い
都筑を引きずって 明かりのほうへ行った。
明かりに近づくと 山小屋なんて小さなものじゃなかった。
『西洋料理店 パープル』
こう看板に書いてあり とても立派な料理店だった。
料理店が見つかったと分かった都筑はたちまち元気になり、
都筑と巽は 西洋料理店 パープルで一休みすることにした。
厚い扉を開け料理店に 都筑と巽は入っていった。扉をあけるとすぐ注意書きがあった。
『こちらの料理店は 大変注文の多い料理店です。お客様のご協力をお願いします。』
注意書きにはこう書いてあった。
「巽、こんな山奥だけど結構流行っているんだな。注文が多いそうだ。」
「そうですね。この辺には料理店は一軒しかないのでお客さんが
集まってしまうのかもしれませんね。」
部屋の奥へ行くともう一つドアがあった。
「なんでこんなにドアがあるんだ?巽???」
「これはロシア式だろう。外が寒いからこうやって何枚もドアをつけて
暖かい空気を逃がさないようにしているのさ。」
「そうか 巽は物知りだなぁ。」
ドアを開けようとすると ドアの前にはこんな張り紙がしてあった。
『どうぞ 靴の泥をはらってから このドアの向こうにお進みください。』
「ああ、そうだな。泥だらけでこんな立派な料理店に足を踏み入れるわけに
はいかないもんな。きっと高級レストランなんだな、巽。」
「そのようですね。都筑さん。」
2人は靴の泥をはらって ドアの向こうへ足を踏み入れた。
するとドアの向こうには またドアがあった。このドアにも張り紙があり こう書いてあった。
『鉄砲、刃物等 武器となるものはここに置いて行って下さい。』
「ああ、そりゃそうだな。食事をするのに鉄砲なんていらないもんな。」
2人は素直に 鉄砲をおいてドアをあけた。次のドアにも張り紙がしてあった。
『眼鏡をかけた方は とりあえずここでお待ち下さい。』
「眼鏡・・・というと私か・・・眼鏡をかけていると不都合な料理でも
でてくるのか?」
「分かった!巽!!!ラーメンとか 鍋とか温かい湯気の出てくる料理なんだよ。
きっと眼鏡にくもり止めを塗るために待っていろといっているのさ。
なんて親切な料理店なんだ。」
「そう・・・ですかね、都筑さん。まあ 待てというなら私はここで待っています。」
都筑は巽を残して 次のドアへと進んだ。
次のドアにも張り紙がしてあり こう書いてあった。
『店内は大変温かくなっております。帽子、上着、靴等をお脱ぎください。
全部脱いで下さっても結構です。』
「うん、確かに暖房がガンガンだ。これなら素っ裸でも大丈夫そうだ。
さっきまでの外の寒さがまるで 嘘のようだ。」
都筑は張り紙に書いてあったとうり 帽子、上着、靴・・・ついでに
ズボンも脱ぎ 青と白のシマシマ模様のトランクス1枚の姿となった。
都筑は次のドアへ進んだ。
『この香水をつけてください。顔や手足 からだ中に満遍なく塗ってください。』
「ほうほう、香水か。」
都筑は 側に置いてあった香水の瓶をあけ匂いを嗅いだ。
「薔薇の香りだな。瓶にもROSEとかいてある。いい匂いだ。」
都筑は張り紙に書かれたとうり 香水を 体中につけた。
薔薇の匂いを漂わせた都筑は 次の扉に進んだ。
『香水はちゃんちつけましたか?うなじや耳にも よくつけましたか?』
「おお、なんて親切なんだ。うなじや耳など すっかり忘れていた。」
都筑はしっかりとうなじや耳にも 薔薇の香水をつけた。
次のドアに進むと
『お待たせ致しました。いよいよお食事です。心構えはいいですか?』
と書かれていた。
「やった!やっとありつける。こんなにいろいろな注文をされたんだ。
さぞかしウマイものが食える事だろう。」
都筑はウキウキして 薔薇の香りを漂わせトランクス1枚の姿で
最後のドアを空けた。
「いらっしゃい。都筑さん。ようこそ 西洋料理店 パープルへ。
お待ちしておりましたよ。」
ドアの向こうには フォークとナイフを持った 邑輝が 嬉しそうに都筑の
ほうをみていた。
「む、邑輝!!!なぜお前がここに!」
「何故って 都筑さん。あなたを食べるためです。私の注文どうり 薔薇の匂いを
漂わせ下着姿ではないですか。」
「注文どうり・・・、まさか注文されていたのは 俺達の方だったのか!!!
西洋料理店 パープル。パープル=むらさき むらさきーむらき!
そういうことだったのか!!!」
「さあ、都筑さん。私がおいしく食べてあげますよ。さあ、いらっしゃぁ〜い。」
「いやだあああ。」
都筑は 入ってきたドアののほうへ向かった。だがドアは全くあかなかった。
後から 邑輝が追ってくる!もうダメだ!!!と都筑は 目を瞑った。
『バン!!!』
突然ドアが空いた。
「うちの大事な職員に何をする!!!」
ずっと向こうのドアで待っていたはずの巽が ドアを蹴破って入ってきたのだった。
「た、巽ィィィィィィ。」
都筑はすがるように巽に飛びついた。
「おかしいと思ったんですよ。こんな辺鄙な所に料理店なんて。
これは何かの罠かと思ったら やっぱりそのとうり!さあ、都筑さん服を着て帰りますよ。」
「せっかくここまで 都筑を調理したんだ。簡単に逃がして溜まるか!!!」
邑輝が 負けずと襲いかかってきた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・そうですね。
せっかくここまで調理されたんだから 都筑さんをさしあげます。」
ちらっと 巽は都筑の方を見た。都筑は情けない顔で 巽に助けを求めている。
「しかし タダで差し上げると言うわけにはいきません。これでも都筑は十王丁の
大事な職員。それも 建物崩壊、器物破損等 これから300年ほど十王丁で
タダ働きしてもらわなければなりません。その300年分の給料に匹敵する金品を
いただけるなら どうぞ都筑さんを召し上がってください。」
巽はよどみなく 邑輝に向かって言った。
「うっ、そう来たか。仕方ない、今度はもっと巧妙な手口で都筑さんを頂きますよ。
それまで都筑さん 元気で働いていてくださいよ。」
不気味な笑いを浮かべ 邑輝は吹雪の中に消えて行った。
賢い巽のおかげで 今日も都筑の貞操は守られましたとさ♪