夢の雫、薔薇色の烏龍
(ゆめのしずく、ばらいろのウーロン)
2016年1月号サイドパロ
アルヴィーゼとハディージェ皇女の駆け落ちは失敗に終わった。
ハディージェは夜遅く後宮に戻ってきた。
数日後、夜の礼拝が終わった後、イブラヒムとヒュッレムはアヤソフィアで会う約束をしたようだ。
イブラヒムからは一人で行くからついてくるなと言われたが、ラムセスとメフメトはこっそりついて行った。
アヤソフィアの中二階に隠し部屋があり、メフメトと二人待っていた。
アヤソフィアは大聖堂。広いので声は聞こえないかもしれないと思っていたが、
天井が高く逆に声が響いた。イブラヒムはハディージェを娶り、ヒュッレムとは添い遂げられないと
伝えると、ヒュッレムは涙を流した。
叶わぬ恋だったという結論が出てしまった。
イブラヒムの性格と身分、ヒュッレムの環境からして二人が添い遂げられることは
かなり難しいのではないかと思っていた。だが、こんな風に現実を突きつけられると、
他人事ながらやはりショックだ。当人たちのショックは計り知れないものだろう。
ラムセスは二人をみていられなく俯いた。
ふと、隣のメフメトを見るとソバカスの上の目に涙をいっぱいにためていた。
(やばい、このままではメフメトが泣き出しまう。ついてきたことがイブラヒムにバレてしまう!)
そう思い、ラムセスはそっとメフメトの手を引きアヤソフィアを出た。
「ほら、もういいぞ、メフメト。思う存分泣け」
「うっ、うっ……ひっく」
メフメトは大粒の涙を流し始めた。
「二人は、二人は……どうして想いあっているのに結ばれないんでしょう。ひっく」
「仕方ないだろ。スルタンの寵姫と大宰相だ。無理なものはやっぱり無理なんだ」
ラムセスは心を鬼にして言う。
「ううっ……ハディージェ様もお心が痛むでしょうね。アルヴィーゼ様もどうなっちゃうんでしょう……」
「ほら、もう泣きやめ。イブラヒムに後をつけていたのがバレるぞ」
メフメトは袖口で涙を拭う。咳を一つして深呼吸した。
「やはり身分の高い方って、自由な恋愛はできないんですかね」
「そうだな……」
「あ、でも。ラムセスは元の世界では貴族ですよね。そしていつかファラオになるんだし、
ラムセスは好きな人と添い遂げられましたか?」
まだ涙声のメフメトがラムセスに聞く。
「ははっ、俺の方にきたか。俺はだな〜、好きな女はいたが結局は片思いだったから、
添い遂げるとかそういう以前の問題だな」
「ええっ!こんなイケメン振る女がいるんですか! 信じられない!」
メフメトはラムセスを見つめて驚く。
「まだ俺は現在進行形だけどな。しかし、片思いもつらいなぁ〜と感じたけど
こういうのもホントに辛いな」
「はい……」
メフメトはまた瞳を潤ませる。
「人間、自分の思うようにはいかないよな。運命と思って受け入れるしかない……
苦しいけどそう思うしかないのかもしれないな」
ラムセスは夜空を見上げる。月がモスクのミナレットの隣にあった。
真っ暗な夜の月の明かりはいつも心がホッとするのだが、今日はその明るさが少し眩しすぎた。