10周年記念パロディ
もしもラムセスが猫になったら……?
ある朝、ラムセスは目覚めると猫になっていました。
金とセピアのオッドアイの瞳をしたブロンズの猫です。
体には豹柄に似た黒い斑点模様があります。つやつやとした良い毛並みです。
ラムセスの狭い額には、うららかな春の日差しが降り注いでいました。
それはそれは気持ちの良い太陽の光でした。
(なんだ〜ここはどこだ? エジプトじゃないようだが……、貴族の屋敷か?
随分とでかい屋敷だなぁ〜)
ラムセスは小さな瞳で360度見回しました。彼が驚くのも無理もありません。
貴族の屋敷ではなく、国一番の大きな屋敷。ヒッタイトの王宮だったからです。
「あ、こんなところに猫がいる!」
黒い瞳に黒い髪をした見覚えのある人間が近づいてきました。後ろには
女官が3人仕えています。
(おお! ユーリじゃないか! そうするとここはヒッタイトの王宮か!)
「かわいい〜」
ユーリはラムセスを抱き上げラムセスに頬擦りしました。
(ユーリが頬擦りしてくれるなんて! お〜なんという幸せ!)
ラムセスはニャーと一声鳴きながら心の中で笑いました。
「エジプシャンマウって種類の猫ですわね。『マウ』っていうのはエジプト語で
猫って意味ですわ。まあ、珍しい! 金とセピアのオッドアイの猫ですのね」
ハディが猫について説明しました。エジプシャンマウという猫は古代エジプトの
壁画に描かれている猫とも言われます。
「王宮の外からの迷い猫かしら? ちょっと部屋に連れて帰っちゃおう!」
「ユーリさま! どこから来たかもわからない動物を後宮の中に入れるなんて
いけません! ユーリさま、聞いていますか?」
ハディの止める声も聞かず、そのままラムセスを抱きかかえて後宮の中に入っていきました。
***
「今日の元老院会議は疲れたよ。ん? なんだその猫?」
仕事から帰ってきたヒッタイト皇帝は、妃が抱きかかえている猫を見ました。
「後宮の庭にいた迷い猫なの。かわいいでしょ!」
ユーリは無邪気に答えます。
「ふ〜ん」
「この子男の子みたいなの。ね〜猫ちゃん」
ユーリはラムセスに笑いかけ、オッドアイを見つめながら顔を近づけました。
(これはチャンス!)
ラムセスはすかさずユーリの唇にチュッとキスをしました。
そばにいた皇帝陛下はおかんむり。カイルはユーリから猫を引き剥がしました。
「むむむ、ユーリの唇を奪うなど許せん!」
「シャーッ!(なにするんだよ!)」
ラムセスはヒッタイト皇帝の頬をひっかき、カイルの腕から離れて宙返りをして
絨毯の上に着地しました。
「な、なんて猫だ! ますます許せん!」
カイルはラムセスを捕まえようとします。
「やめてよ、カイル。かわいそうじゃない。突然乱暴なことをするから猫ちゃんも
驚いたのよ」
ユーリがラムセスをやさしく抱きかかえます。
(そーだそーだ!)
ラムセスはカイルに向かって、あかんべをしました。
カイルはすっかり不機嫌になりました。
「……その猫。名前はなんて言うんだ?」
カイルは低い声で妻に質問しました。
「名前か……考えてなかったな。う〜ん、どうしよ」
ユーリはラムセスの顔が見えるように持ちなおして、彼のオッドアイをじっと見つめました。
しばらくの沈黙の後、彼女はこう言いました。
「ラムセス!」
猫の彼の心臓がドキンと一回大きく鼓動しました。
(な、なんでわかるんだ……?)
「なんでラムセスなんだ! そんな名前つけるんじゃない!」
カイルが大慌てで否定しました。
「そお〜、なんとなく直感で浮かんだんだけどな……。じゃあね、ラムちゃんにしよう。
今日からこの猫の名前はラムちゃん!」
(だっちゃ!)
ラムセスは心の中でいいました。
***
「なんなんだ! この猫は!」
よく朝、カイルの大きな声が王宮に響きました。
無理もありません。ラムセスはカイルの着物で爪をとぎ、おしっこをして
ひっかきまわしていたのです。
(ふふん、仕返しだ!)
ラムセスはカイルの怒声もそっちのけで優雅に後宮を歩いていました。
「ごめんね〜カイル。まだしつけがなっていなくて。ラムちゃん、だめよ。メッ!」
ユーリはラムセスを捕まえて彼の額をコツンとしました。
「でもどうしてカイルの服ばっかり犠牲になったのかしら? 他の人のは
ぜんぜん平気なのに……」
ユーリは首を傾げました。
その日の夜、どうせこの姿だったらユーリと一緒に寝てみたいと思い、
みんなが寝静まったころ、彼女の寝室に忍び込みました。
ユーリの部屋ですが、案の定、隣にはカイルが寝息を立ててすやすやと気持ち良さそうに
眠っています。
(ユーリの側で寝たいが、ムルシリが邪魔だ!)
ラムセスはそう思い、カイルをベッドから落とそうとしました。
ですが、今の彼の姿は非力な猫。小さな手足でカイルを押してもびくともしません。
(こいつをなんとかベッドの下に落とす手はないだろうか……?)
ラムセスは考えました。
しばらくすると、彼は毛布の中にもぐっていきました。辿り着いたのはカイルの足です。
ラムセスは小さな猫の手でカイルの足の裏をこちょこちょとくすぐりました。
すると……、カイルの足がどんどん彼の手から遠ざかっていくではありませんか。
カイルの顔を見ると少し笑っていてとってもくすぐったそうです。
ラムセスはそのままカイルの足をくすぐってベッドの端まで追いやりました。
『ドン!』
カイルがベッドから落ちました。床に寝ているヒッタイト皇帝はむにゃむにゃ
寝言を言っています。
(やった! ムルシリを追いやったぞ!)
ラムセスはガッツポーズをしました。さっそくユーリの首元に近寄り
彼女と一緒に眠りました。
「あら、カイル? なんで床で寝てるの?」
翌朝、目を覚ましたユーリが不思議そうに言いました。
***
ヒッタイト王宮の昼下がり。ラムセスはユーリの膝の上に乗って
頭を優しくなでてもらっています。あたたかな日の光がラムセスと
ユーリの後頭部を照らし、のどかな時間が流れています。
(いやぁ〜、猫も悪くないなぁ〜。ユーリの膝枕は最高だ!)
ラムセスはゴロゴロとのどを鳴らしてユーリに甘えます。
(もう少し、もう少しだけ猫の姿のままでいようかな……)
ラムセスの幸せはまだまだこのまま続くようです。
♪おわり
ほのぼの系を書いて見ました。あんまりに日常が忙しいと
ネコになりたいなぁ〜と思うときありませんか?