赤髪の白雪姫2次小説
5.これから進むこの道
シリーズ最終話です。白雪の部屋に通っていることがばれてしまったゼンは、側近たちに色々注意されます。R18ではありません。
この話だけでも読めると思います。白雪がゼンの名前で王宮内に部屋をもらう前の話になります。
***
「ゼン、こんなに遅くにどこに行っていた。説明してもらおうか」
ミツヒデがいつになく険しい口調を主人に向ける。
ゼンは何からこの側近たちに説明したらいいか言葉に詰まる。
「散歩にしては時間が長いですよね、主。それも随分長距離だ。薬室の宿舎までなんて」
ゼンがどこへ行っていたか、説明しなくともこの側近たちにはお見通しのようだ。わかっていて質問しているのである。
「白雪のところへいっていたのだろう?」
ゼンはミツヒデの言葉に静かに頷く。
「これじゃあ、白雪は第二王子の愛妾止まりだぞ。最初のラジ王子と変わらない。
白雪を本当の后にしたいんだったら、もう彼女の部屋に隠れて通うのはやめることだな」
ゼンは押し黙る。今まで、この側近たちに隠れて白雪の部屋へ通っていたことは後ろめたさがなかったわけではない。
「白雪を……愛妾でいいなら、今のままでもいいと思う。でも違うだろ? ゼン?」
ゼンは静かに頷く。
「第二王子が宮廷薬剤師の部屋に通っているなんて噂が立ったら、付け込まれる隙を作るようなものだ。
今は順番が大事だ。わかるよな?」
「それに……もし、もしもだよ」
ずっと黙っていた木々が口を開く。
「このままゼンが白雪のところに通って……、万が一、白雪が身籠ったりしたらどうするの?
恋愛感情抜きで、ゼンの后になりたい姫なんて沢山いるんだ。必ず白雪を邪魔と思う貴族が出てくる。今は白雪を守れる状況じゃないよ」
木々の言葉にゼンはハッとする。
「ゼン、お前何回毒を盛られたことがあるかわかってるよな?」
ミツヒデの言葉に俯く。
「最悪の場合、白雪は王宮にいられなくなる。宮廷薬剤師の職だって失う。白雪はこの国に一人で来たんだ。
身寄りだってない。だから……、白雪の運命はゼンにかかってる。今はちゃんと順番を守ってほしい」
木々がまっすぐに主人を見つめる。
「今の白雪を守れるのはゼンしかいないんだ。あんなに頑張っている白雪を、喜ばせるのも悲しませるのもゼンなんだ。わかるよな?」
ミツヒデはなだめるように主人に言う。ゼンは静かに頷く。
「わかった。勝手な行動して俺が悪かった。もう白雪の部屋には通わないよ。
自分のためにも白雪のためにもならないことはよくわかった。皆に心配かけて悪かった」
ゼンは側近たちに素直に詫びた。
「しかし、あーるじ♪ やりましたね。いつからお嬢さんとそういう関係になったんですか?」
オビが興味ありげに聞く。
「え、3カ月くらい前からかな?」
素直にゼンは答える。
「そうか、そうだよな。ゼンも男になったんだよな。よかったな!」
ミツヒデがゼンに肩を組んで涙して喜ぶ。
「これは祝いと行きましょうよ! 主の部屋の一番上等な酒をあけてちょっと飲みませんか?」
「いいな、オビ。そうしよう」
「おい、もうこんな時間だぞ。これから飲むのか」
「こんな時間になったのは主のせいでしょ。とりあえず祝い酒ということで飲みましょ飲みましょ」
男3人はゼンの部屋に入っていった。それを木々は白い眼で見つめる。
「私は寝るわ。あんまり……うるさくしないでよね」
木々は自分の部屋に下がっていった。
「ゼンが男になったということで、かんぱ〜い!」
「かんぱ〜い!」
ゼンの部屋の一番上等な酒を開けて、ミツヒデとオビは嬉しそうに乾杯した。
「主、はじめてはあの時でしょ。あの雷で帰れなくなった日!」
オビがいきなり直球を投げつけてきた。
「な、なんで分かるんだよ」
ゼンはたじろぐ。
「だって、翌日のお嬢さん、馬から降りて立てなかったじゃないですか。なんかその後もやけに二人は密着度高いし……。
これは何かあったな……と」
「泊まった宿が……一部屋しか空いてなかったんだ。なんとか我慢していたんだが白雪のほうから我慢しなくていいと……」
ゼンは言葉を濁す。
「好きな子と同じ部屋か! そりゃキツイな」
ミツヒデの言葉にオビも同意を示す。
「まあ、いいじゃないですか。もう一回かんぱ〜い!」
3人は再び乾杯する。
「まあ、俺にとったら祝い酒兼ヤケ酒なんですけどねぇ〜」
オビが小さな声でいう。
「何か言ったか?オビ?」
「いいえ、な〜んにも」
オビは上等な酒を一気に飲み干した。
「ゼン、ここでちょっと提案なんだけどな」
ミツヒデが急にかしこまる。
「なんだミツヒデ?」
「白雪にゼンの名で王宮内に部屋を与えるというのはどうだ? そう陛下に申し出るんだ。
白雪は宮廷の薬剤師だけど、ゼンの側近の一人でもあるというアピールにはならないだろうか?」
「なるほど、それはいいかもしれないな」
ゼンはミツヒデの提案に納得する。
「ミツヒデの旦那。主にお嬢さんの部屋に行くなと言って、部屋を与えろってだいぶ矛盾してるんじゃありません?
そしてそれに納得している主って……」
オビの言葉にゼンは我に返る。確かにそうだ。でもいい案かもしれないとも思った。
***
翌朝、白雪は薬室で仕事をしていると、窓枠に第二王子の頭が見えた。
今度はリュウやガラクよりも早く気づくことができたはずだ。白雪はすぐに席を外し、ゼンの元へ向かった。
「ゼン、どうしたのその顔!」
目の下にはクマはでき、顔もやつれている。昨日、部屋で別れたときのゼンとは別人のようであった。
「ま、まさか昨日の私のしたことが……」
昨日の行為を心配する白雪。
「いや、そうじゃない。実は昨日、部屋に戻ったらミツヒデたちが待ち伏せしていて……
実は殆ど一睡もしていないんだ」
ゼンは事情を白雪に話した。
白雪は青くなり、事情を飲み込む。自分達が想像した以上に、ミツヒデ、木々、オビは二人の事を考えてくれていてくれている
ということを教えられた。白雪は、午前中の仕事が終わると、3人の側近の元へ向かった。
「私がいけないんです。ゼンは我慢してくれるって言ったのに……私のせいなんです。本当にすみません」
ミツヒデたちに必死に謝る白雪。
「嘘、本当にお嬢さんからだったんだ。主……もう、地獄に落ちればいいのに」
オビの大きな独り言はとりあえず皆に無視された。
「白雪、ごめんな。二人の仲を裂くようで本当に申し訳ない」
ミツヒデが白雪に詫びる。
「いいえ、いいんです。本当にご心配おかけして申し訳ありませんでした」
白雪は深々と頭を下げる。
「白雪…」
木々は穏やかに笑い、白雪の瞳をまっすぐに見つめる。
「はい、木々さん」
白雪も同じく木々を見つめる。
「想いあう二人がそうなることは自然なことだと思うよ。だけど、今のゼンと白雪には順番が大事。
今はその時じゃないし、色々なリスクもあると思うんだ……。万が一、白雪が身籠ってしまったりしたら、
今の私たちだと白雪を守れないんだ。最悪、王宮にいられなくなる」
木々の言葉に白雪はハッとする。自分の事とゼンの事で精一杯になってしまい、今まで考えたことなかった。
そうだ、そういう可能性だってあるのだ。そこまで考えて、言ってくれているのだ。
「ゼンは白雪みたいな娘に出会うのが夢だったんだもんな。その夢を応援してあげたいんだよ」
ミツヒデはゼンの背中を叩きながら続ける。
「本当に、二人には幸せになってほしい。決して邪魔をしようと思って言ってるわけじゃない」
ミツヒデが二人に穏やかに笑いかける。
「そうそう、いつでも味方ですよ。主、お嬢さん」
オビが軽くウインクして笑う。
「わかった。わかったよ。皆に心配かけて悪かった。白雪も……すまなかった」
ゼンが居たたまれなくなって皆に謝る。
ゼンと彼をとりまく側近たちを目の前にして、白雪は息が詰まった。
今まで……ゼンの力になりたいと思ってやってきた。
でも、今は――、ゼンのために集まってきた、この仲間たちを悲しませたくない。
そんな思いでいっぱいになった。私たちの幸せを一身に願ってくれるこの人たちを絶対に悲しませたくない。
そしてずっとずっと共にありたいと……、そんな気持ちでいっぱいになった。
白雪の瞳から一筋の涙が落ちる。「ありがとう」そう言いたかったけど、胸がいっぱいになって言葉が出てこなかった。
木々が白雪の肩にやさしく手を置く。
「うっ、ううっ」
木々の手から優しさが流れ込んでくるようだった。我慢しきれなくなり、嗚咽をもらす。
もはや涙は次から次へと流れて手の甲で拭いきれないほど溢れ出てきた。ミツヒデがそっと目の前にハンカチを出す。
「ありが…ありがとう……うっ、ううっ……ひっく」
ハンカチを受け取り、なんとか気持ちを言葉にする。
涙が少し止まったところで白雪は宣言する。
「わかりました。清く正しく美しく、これからは品行方正に行きます!」
白雪は背中を正し、そう言った。
「うわー、こりゃ本当に地獄だね、あーるじ♪」
オビがゼンをからかう。
「さっきからうるさいぞ! オビ!」
5人は笑い声に包まれる。
「やっぱり、ゼンのいる国っていいね。私、この国に来て本当によかったと思うよ」
白雪はミツヒデにもらったハンカチで涙をぬぐいながらゼンに笑いかけた。
そんな白雪に思わずもらい泣きしそうなゼンであったが、奥歯をぐっとかみしめ堪えた。
これから進むこの道は、きっと平坦なものではないだろう。
自分の願いとは違う方向へ進むかもしれない。ゼンとずっと一緒にいられないかもしれない。
でも、せっかく開かれたこの道――。
行けるところまで行ってみたい。この素敵な仲間と共に歩んでいきたいと……。
白雪は涙をふきながら、王宮の遠くの緑を見つめた。
♪おわり
***
あとがき
今回のお話ですが、やっぱりこれが現実かな〜なんて思って書きました。
主人がこっそり隠れて女の子の所に通っていたりしたら、そりゃあ心配しますよね。
放っておかないですよね。登場人物をゼンと白雪だけにするんだったら
R18でそのまま突っ走りますが、側近方も登場させてみようと思ったらこうなっちゃいました。
当初はシリーズで続ける気はなかったので、ここまで書けてよかったと思っています。
お読みくださった方には本当に頭が下がります。ありがとうございます。
これからも少しづつ赤髪で書いていきたいと思いますので、pixiv、HPどちらもよろしくお願い致します。