赤髪の白雪姫2次小説
ゼン、コミケに行く




ゼンがオタクになってコミケに行きます。設定は現代です。
でもちょっとクラリネスな感じで読んで頂くと嬉しいです。


1.ゼンの行きたい場所 
2.ビックサイトへ 
3.みんなでコミケ 



1.ゼンの行きたい場所

「ミツヒデ! 今度の土曜日、お忍びである場所に行きたいんだ。付き合ってくれ!」
 ゼンは側近に向かって機嫌よく命令した。小脇には5、6cm以上はある厚い冊子を抱えている。
「行きたい場所ってどこだ? 夕方から会議があるからあまり遠出はできないぞ」
 次の土曜日は午後4時から会議があった。
 イザナ陛下も出席する会議で、ゼンは必ず出席しなければならない大事な会議である。
「時間は大丈夫。一般参加は10時からだ。午前中で用事を済ませて、午後の早い時間には王宮に戻って来られるはずだ」
 ゼンは分厚い冊子を抱えたまま自信ありげに頷いた。
「一般参加? なんだそれは? 一体どこに行きたいんだ? ゼン?」
 聞きなれない単語にミツヒデは首を傾げる。
「ふふふ。よく聞いてくれたな。ミツヒデ……今回、お忍びで行きたい場所。それは……
コミケだ!」
 ゼンは小脇に抱えていた分厚い冊子をミツヒデの前に出す。
 冊子には『コミックマーケット』と書かれており、目が大きく髪の長い美少女のイラストが描かれていた。
 絵の中の美少女が笑顔でミツヒデを見つめている。
「コミックマーケット? なんだそりゃ?」
 コミケを知らないミツヒデが高い声を上げる。
「コミックマーケット。通称コミケ。夏と冬に東京ビックサイトで3日間ずつ開催される同人誌即売会のことよ、ミツヒデ。
ゼンは今回、夏コミに行きたいのよね」
 二人の会話をすぐそばで黙って聞いていた木々がコミケについて説明した。
「よく知っているな、木々。そのとおりだ。俺は同人誌が買いたいんだ!」
 ゼンが満足そうに頷いた。
「ど、同人誌ってなんだ?」
 コミケを全く知らないミツヒデが再びたずねる。
「主に個人が実費で作った漫画や小説のこと。
オリジナルや二次創作の個人で作った本を販売する大きな会場がコミックマーケットよ」
 木々が更に説明する。
「よく知っているなぁ〜木々。コミケに行ったことあるのか?」
 ゼンの問いに木々は無言で首を横に振る。
「そのコミケとやらは3日間あるんだろう。わざわざ会議のある土曜日に行かないで、翌日の日曜日に行かないか? ゼン」
「ダメだ、ミツヒデ。土曜日に……二日目の土曜日に行かないとダメなんだ! 
一日目と三日目では俺の好きなジャンルは……サークルは参加していないんだ!」
 ゼンは拳を握り、半分怒りながらミツヒデに強く言った。
「三日間、すべて違うサークルが配置しているの。もちろんジャンルも違うから、違う日だとお目当ての同人誌がないのよね」
「そうだ。木々の言うとおりだ。二日目でないとダメなんだ!」
「そ、そういうものなのか……」
 コミケがまったく理解できないミツヒデは苦笑いしながら頷く。
「当日は同人誌をたくさん買う予定だから、荷物が増えると思うんだ。
王宮の馬車で行こうと思うのだが、馬車の手配はできるか?」
「馬車を使うなんて珍しいな、ゼン。じゃあ、手配して置くよ……」
 ミツヒデが言いかけたところで木々が制止した。
「ちょっとゼン、カタログかして」
「いいぞ」
 ゼンは木々にカタログを渡した。木々はカタログの最初のほうのページを数ページめくり、目を皿のようにして読む。
「ほら、ここ読んで、ゼン。コミケの会場には駐車場がないから、
公共の交通機関を使って開場まで来るように書いてある。馬車で行くのはダメみたいよ」
 木々にコミケについての注意のページを見せられる。
「そうなのか。馬車はダメなのか……じゃあ、公共の交通機関を使っていくしかないな」
「ゼンが珍しく馬車を使うっていうのに……残念だな。護衛と荷物持ちを兼ねてオビも誘おうか」
 ミツヒデが荷物持ちにオビを誘おうとした。
「オビはコミケのある三日間、ちょうど休暇願いが出ているんだ。
白雪は薬室の仕事でどこかへ買い出しに行くと言っていたから、今回はミツヒデと木々と俺の3人でコミケに行くしかない!」
「そうなのか。じゃあ仕方ないな3人で行こう」
「わはは、行こう行こう!」
 夏コミに行くことが決まり、とっても上機嫌なゼン。
 そんなご機嫌な王子様を見て、ミツヒデと木々も笑顔であった。
 のん気にカタログを見ながら笑い合うゼンとミツヒデと木々。
 3人はまだコミケの恐ろしさを知らない……。


2.ビックサイトへ

 ゼン、ミツヒデ、木々の3人は朝早くから夏コミへ行く準備をしていた。
 3人ともいつもより軽装であった。
 真夏の炎天下で何時間も待つことを想定して、風通しがよく動きやすい服装でビックサイトへ向かうことにした。
「ゼン、準備はできた?」
 金髪を一つに束ねた木々が主人にたずねた。
「もちろんだ。軍資金……お金もちゃんと千円札を用意したぞ。あと小銭の準備もバッチリだ」
 ゼンは木々に千円の札束と小銭がじゃらじゃら入った財布を見せる。
「そうだね、一万円札はおつりに困るサークルもあるからね」
「木々、日焼け止めは塗ったか? 外で待たされることもあるらしいぞ。日焼けはお肌の敵だろう」
「もちろん、顔も首もばっちりつけてきたよ。ゼンは?」
「俺は男だから日焼けしても構わない……」
 言い終わらないうちにミツヒデは難しい顔をしてゼンの前に立っていた。
「よくないぞ。ゼンも日焼け止め塗ってくれ。夕方から会議があるんだ。
日焼けした顔では何処へ行ったかイザナ陛下に聞かれると困るだろう」
 ミツヒデが日焼け止めクリームを出し、ゼンの顔に塗り付けた。
「な、なにひゅるんだ……ミツヒデ……だいひょおぶら……」
「ふふふ、子供みたい……」
 木々が笑った。
「王宮からビックサイトまで40〜50分あれば着くだろう。ゆりかもめで行くぞ!」
「はい!」
 マントを翻し、嬉々として進むゼン。
念願のコミケへ行くことができて嬉しくてたまらない。足取りは軽かった。
そんな主人の後に、木々とミツヒデは着いて行った。


「なんじゃこりゃあああ!」
 乗り換えの新橋駅に到着したゼンは、目の前の光景に唖然とした。
 駅のホームは人人人。
 ビックサイトのある国際展示場駅へ向かう人の列でごった返していた。3人は人の多さに呆然とした。
 みんな大きめのバッグを抱え、ホームに入って来る電車を待っていた。
アニメ絵柄のTシャツにリュックやキャスター付きのバックを引きずった人たちもいる。
 所々にかぶり物やコスプレをしている人もいた。もうここからコミケは始まっているのだ。
 3人は静かに列に並ぶ。電車に乗るまでに数十分かかってしまった。
 混雑した電車に揺られ、国際展示場の駅に着いたときには10時半を過ぎていた。
 開場の10時までには着く予定だったのにとんだ誤算だ。歩いて数分。ビックサイトに着くとまたゼンは大きな声を上げた。
 人人人人人……。
 入口まで数十メートル。すべて人だと思いたくないが人だった。
 ゼンの目の前に長蛇の列が広がる。
 地球上の全人口はここに集結してしまったのではないかと思うくらいの人込みだった。
 3人は仕方なく入口に続く列の最後尾に並んだ。
 並んでいると、ジリジリと真夏の太陽が容赦なく照り付ていた。気温も高くなってきている。
 木々のうなじを見ると、一筋の汗が伝わっていた。顔を見ると目を細めて少々不機嫌そうだった。
「疲れたか? 木々?」
 ゼンが心配して聞いた。
「ううん、別に。ただ暑いだけ……」
 そう言うと木々は鞄の中からペットボトルを出し、清涼飲料水をゴクリと飲み込んだ。
 いつもあまり表情のない木々なので、機嫌が悪いのかどうかよくわからなかった。
 機嫌が悪くなっていないことを祈るばかりだ。
 彼女の横でミツヒデが「暑い暑い」を連呼していた。
 列は少しずつ進み、一時間ほどたってようやく建物の中に入ることができた。時計の針は12時を少し過ぎていた。
「とんだ誤算だ。もうこんな時間になってしまった! 木々、ミツヒデ! ま〇か☆マギカの売り場まで急ぐぞ。走れ!」
「あ、待って! ゼン…」
 木々が止めるのも聞かずにゼンは廊下を走りだした。人込みの中をすり抜け、全速力で走って行く。
「あーーー! そこ! 走らないでっ!」
 腕に腕章をつけたコミケスタッフがゼンの前に立ちはだかる。ゼンは仕方なく止まった。
「廊下を走るのは危ないから禁止。これだけの人込みでわかるでしょう……って、ああっ!」
 腕章をつけたスタッフがゼンの顔を見て大きな声を上げた。
「あっ!」
 ゼンも短く声を上げる。
「主じゃないですか! こんなところで何を!」
「オ、オビこそ……」
 お互い顔を見合わせる。ゼンの後ろから木々とミツヒデが追いついた。
「木々嬢とミツヒデの旦那も……」
「オビじゃない! こんなところで何してるの? 三日間里帰りするんじゃなかったの?」
 木々が目を見開き高い声を上げる。
「あっ、えっと……これはですね、少々事情があり、ここが里というかなんというか……」
 4人の間に沈黙が走る。オビが気まずそうにその沈黙を破った。
「里帰りなんて嘘ついてすみません。俺、コミケが好きで、
毎年、このビックサイトでスタッフをしているんです。どうもすみません、主……」
 オビは頭をかきながらゼンに謝罪する。
「そうか、そうなのか……オビは毎年この時期に休むと思っていたらコミケスタッフをしていたんだな。そうなのか……」
 ゼンは何度も頷き納得していた。
「いいんじゃない。お休みに好きなことしても」
「うんうん」
 木々とミツヒデも頷く。
「よかった。主、木々嬢、ミツヒデの旦那、もしよかったら、会場案内しますよ」
「本当か? オビ! 俺はま〇か☆マギカの同人誌が欲しいんだ! サークルはどこだっ!」
 ゼンは再び駆けだそうとした。
「あーーー! だから走ったらダメですってば、主! こっちです。歩いてついてきてください」
 オビは東ホールの方を指さし、後ろからついてくるように言った。
「わ、わかった。すまないオビ、気が急いてしまって……」
 ゼン、木々、ミツヒデはオビの後ろに続く。
「あれ? あの後姿……」
 オビの後ろに着いて歩いていると、ゼンの視界に気になる後姿が目についた。
「どうしたの? ゼン」
「ほら、少し前にいる赤い頭をした女の子……あれ、白雪に似てないか?」
「えっ! どこ?」
 木々が背伸びをして人込みを見回す。オビとミツヒデもその姿を追う。
「ほら、今、柱の横にいる赤い頭の……ああ、いなくなっちゃった……」
 ゼンが必死にみんなに教えようとしたが、赤い頭の影は人込みの中に消えて行ってしまった。


3.みんなでコミケ

「さあ、主。こちらがま〇か☆マギカのサークルです。
走ったり、王子だからって無理やり列に横入りしてはいけませよ!」
「わかっているよ、オビ。もう走らないよ……」
 オビに釘を刺され、静かにサークル巡りをするゼンであった。後ろから木々とミツヒデがついてくる。
 いくつかサークルを回ったところで、オビがゼンの肩を叩いた。
「主、そろそろ会場を出た方がいいですよ。夕方から会議があるんでしょう?」
「え? まだ会議までずいぶん時間があるぞ」
 ゼンは時計を見る。会議まで3時間以上あった。
「念のためです。帰りの電車も混んでいる可能性があります。そろそろ出口に向かったほうがいいです」
「そうだよ、ゼン。オビの言うとおり、そろそろ会場を出よう」
「そうしたほうがいいね」
 側近の二人もオビの言うことに賛成であった。
「うぐぐ、もう少しサークルを回りたかったのに……。じゃあ、あともう一つだけ! 
ここのサークルだったら出口に向かうついでに寄ることができるから、ここだけ寄らせてくれ!」
 ゼンは自分で作成したサークルリストを見せて懇願する。
「最後の一つだぞ、ゼン!」
「ああ、ミツヒデ。ここで終わりにするから頼む」
 オビがゼンの作成したサークルリストを覗きこむ。
「あっ、ここのサークル。大手だから並ぶかもしれませんよ……」
「えっ! そうなのか?」
「はい。壁サークルといって、壁側に配置される大手のサークルになります。
壁側だから列ができてもあまり邪魔にならないし、在庫も多く置ける人気のあるサークルが配置される場所です」
「そうか、並ぶかもしれないのか……まあ、とりあえず行ってみよう」
 最後の壁サークルまで行くと、オビの言った通り列を成していた。ゼンは仕方なく最後尾に並ぶ。
 列は少しずつ進んでいたが、ゼンは同人誌の在庫が気になった。
 サークルのテーブルを見ると、どんどん同人誌が減っている。
 並んでいる人数と同人誌の数を確認すると、自分の分までないような気がしてきた。
「あー早く列が進まないかな……」
 ゼンは時計を見る。帰りの時間も迫っていたし、同人誌の売り切れも不安になってきた。
 少々イライラしながら列に並んでいると、前の人を見て固まった。
 それはとてもとても見覚えのある背中であった。
 頭には同じく見覚えのあるフードを被り、フードの端から赤い髪がはみ出していた。
 先ほど、人込みの中に消えた白雪にそっくりな人物が目の前に並んでいたのである。
 白雪は今日、薬室の買い出しに行くと言っていた。仕事なのだから、コミケ会場にいるんなんておかしい。
 ゼンは心の中でそう言い聞かせたが、見れば見るほど後姿が白雪そっくりだった。
 顔が見たいと思い、後ろからそうっと覗こうとしたところで、声をかけられた。
「すみません。売り切れになります」
 いつのまにか順番がきていた。壁サークルの売り子がゼンに申し訳なさそうに頭を下げる。
「な、なんだって! せっかく並んだのに! 一冊もないのか?」
 ゼンは顔面蒼白になる。せっかく並んだのに1冊も同人誌を手に入れられないと思うと動揺した。
「はい、前のお客さんですべて売り切れになりました」
 ゼンは前に並んでいた人物を見る。両手にしっかりと本を抱えていた。興奮のあまり気づいた時には声をかけていた。
「すまない。1冊でいいから本を譲ってくれないか?」
「ちょっと、主。やめてください。みっともない」
「そうだよ、ゼンやめなさい」
 オビと木々がみっともない王子を止めようとする。
「え?」
 ゼンの前に並んでいた人物が短い声を発した。
 白雪に後姿がそっくりの人物がゆっくりと振り向く。振り向いた拍子に被っていたフードがとれる。
「し、白雪!?」
「お、お嬢さん!」
 ゼンとオビが高い声を上げる。
 白雪に後姿がそっくりな人物は、前を向いても白雪に瓜二つで……というか白雪その人であったのである。髪もしっかりと赤い。
「…………ち、違います。私はそのような名前ではありません」
 赤い髪の人物は大きく目を見開き、首を高速で横に振っていた。
「だ、だって髪が赤いぞ。白雪だろう?」
 ミツヒデが落ち着いて言う。
「ち、違います! これはコスプレです。赤い髪はカツラです。
……そう! 私、赤ずきんのコスプレしているんです。だからフードを被って、さようなら……ああっ!」
 フードを被ろうとした表紙に、白雪そっくりの人物は手に持っている本を床に落としてしまった。数十冊の同人誌が床に広がる。
「きゃーーーー!」
 落とした同人誌を慌てて拾う白雪。ゼン、オビ、木々、ミツヒデも一緒に本を拾ってくれた。
 その中にはBL(ボーイズラブ)系同人誌も含んでいた。
「本を拾わないでー! 見ないでー! やめてぇ!」
 拾ってくれた同人誌を必死に回収する白雪。目は涙目になっていた。
「白雪は白雪だ。俺が間違えるわけない」
「そうですよ、お嬢さんを見間違えるわけありません」
 同人誌を抱えた白雪が俯く。しばらくすると、小さな声で「ごめんなさい」と言い、ボロボロと泣き始めた。
「ど、どうした? 白雪」
「どうしたの? 白雪!」
 突然の白雪の涙に、みんな動揺する。
「だって、仕事だって嘘ついたし……何よりも私がオタクだってバレちゃった……」
 鼻をすすりながら白雪は言った。
「いいんじゃない? 趣味なんだし、別に白雪がオタクでも嫌いになったりしないわよね、ゼン」
「ああ、別に嫌いになったりしないぞ。むしろ同じ趣味があってますます好きになりそうだ」
「うんうん、オタクは悪いことじゃないですよ、お嬢さん」
「俺もいいと思う」
 ゼン、オビ、木々、ミツヒデ。みんなオタクに肯定的であった。白雪の涙はピタリと止まる。
「え……」
「それよりも俺が買えなかった本を見せてくれ。それで十分だ」
「う、うん……」
 白雪は赤い目で頷く。
「主、そろそろ時間が危ないです。今すぐ会場を出ないと会議に間に合いません!」
「そうか! もう帰らなくては!」
 最後のサークルで予想外の出来事があったため、時間が潰れてしまった。
 急いで帰らないと王宮での会議に間に合わない。
「急ぐぞ! ゼン!」
 ミツヒデは出口に向かおうとしていた。
「白雪はどうする?」
「私も帰ります。急いでいるなら東京駅行きのバスで帰りましょう。その方が早いです」
 白雪は大量の同人誌をサブバッグに詰めながら言った。
「そうか、バスという手があるのか!」
 ゼンは感心して頷く。
「じゃあ、お嬢さん。主たちは頼みました。俺はもう少しスタッフとしての仕事があるので……」
 オビが4人を手を振って見送った。
 会場を後にして、ゼン達はバス乗り場に向かう。
「そうかぁ〜、白雪もオタクだったのかぁ。言ってくれればいいのに!」
 ゼンはニコニコしながら白雪の顔を見る。
「そ、そんな……言えないよ。恥ずかしいもの」
 白雪はゼンから目をそらし赤い髪を横に振った。
 
 東京駅行きのバス乗り場に着くと、2種類の列があった。
「何で2種類列があるんだ?」
「バスに座って帰りたい人と立って帰ってもいい人の列。私達は急いでいるから、立って帰る列に並びましょう」
「ああ」
 バスで帰ると聞いて、白雪の隣に座って仲良く話をしながら帰れると思ったが、現実はそう甘くないらしい。
 白雪に誘導され、バスで立って帰る方の列に並ぶ。
 1本バスを見送った後、4人はなんとかバスに乗ることができた。
 バスに座っている人は、ほぼ全員戦利品の同人誌を広げて読んでいるか、スマホをいじっていた。
 その異様な光景にゼンは圧倒される。
 白雪の隣に並んでいたかったが、バスにどんどん人が乗ってきて白雪と離ればなれになってしまった。
 白雪と木々はゼンから1メートルほど離れた場所にいる。
 かろうじてミツヒデが隣にいたが、満員のため、ミツヒデの体が密着して、汗がじわりと伝わってくる。
 男の汗なんて、なんだか気持ち悪い。
 人込みとは、コミケとはこういうものなのか。
 そう、ゼンは悟る。
 バスの中で離ればなれになってしまったが、せめて白雪と目が合うことができれば……。
 そう思い、彼女の方を見ると、戦利品の同人誌を夢中になって読んでいる姿があった。
 ゼンの方など見向きもしない。白雪は全神経を同人誌に集中させていた。
「おっとっと!」
 バスが信号で止まった。
 公共のバスに乗り慣れていない王子様はよろめき、隣のミツヒデに支えられる。
「大丈夫か? ゼン」
「ああ、すまない」
 ゼンは吊革につかまり、姿勢を立て直す。
「この時間なら会議に十分間に合うぞ。よかったな、ゼン」
「ああ……」
 生返事をしながら再び白雪の方を見たが、こちらを振り向いてくれる気配はなかった。
 隣の木々が同人誌を覗き込み、楽しそうに話している。
 ちょっと寂しい気持ちがしたが、売り切れの同人誌も白雪のおかげで読むことができる。
 好きな子と共通の趣味を見つけることができて嬉しい気持ちになった。
 次の冬コミは白雪と休みを合わせて一緒に行こう。

 バスに揺られながら、そう、ウキウキするゼンであった。


♪終わり


【あとがき】
私がコミケに参加したのは10年以上前のため、今のコミケとはちょっと違うかも知れません。
東京駅に向かうバスは、「立って帰る人」「座って帰る人」の列に今でも分かれているのかな? 
またコミケに行けたらいいなぁ〜。今までずっと天河で出ていたので、
一回でいいから赤髪で参加してみたいかなという気持ちはあります。
縁があったら……ということで(^-^)




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