赤髪の白雪姫2次小説

みんなにハート



 今日はみんなに感謝の気持ちを込めて、白雪は昼食を作ることになっていた。
約束の時間まであと数十分。順調に料理の支度は進んでいた。
「あとは仕上げだけ……あっ!」
 白雪は自分の服を見つめる。仕上げの調味料が胸元にかかり服が汚れてしまった。
「あーやっちゃった。どうしよう、これじゃみんなの前に出られないな……」
 白雪はチラリと時計を見る。
「まだ時間があるから、ちょっと着替えてこよう。みんな、まだ来ないよね……」
 調味料の飛び散ったテーブルをサッと拭いて、着替えに部屋を出た。


***


 昼食の準備してある部屋へ向かって、王宮の廊下をゼン、ミツヒデ、木々、オビの4人は歩いていた。
「今日のお嬢さんの料理楽しみですね、主」
「ああ、オビの料理と違って辛くないから安心だな」
「ひどいですよ、主。男の料理をわからないんですか!」
 オビがゼンに詰め寄る。
「まあまあ、二人とも。今日は白雪の料理を楽しみにしようじゃないか…」
 ミツヒデが二人をなだめる。
 昼食の準備してある部屋に着き、木々がドアを開ける。
 ゼン、オビ、ミツヒデの順に部屋に入ってゆく。
 中央にあるテーブルにはもう昼食の準備が整っていた。
 温かく湯気のあがっている出来立ての料理が並んでいたが、白雪の姿はなかった。
 おいしそうな料理だが、皆の視線は一点に釘づけになる。
「あっ!」
 オビが真っ先に叫んだ。
 全員の視線はゼンの席に集中する。

 ゼンのオムレツにだけケチャップでハートマークが書いてあったのである。



「うわっ! いーなー主だけ」
 オビがハートマークのオムレツとゼンの顔を見る。
 ゼンは少々顔を赤らめる。
「ずるいですよ。主だけハートマークなんて」
 オビが頬を膨らませて怒る。
「まあ、細かいこと気にするな! とりあえず席につけ」
 ゼンはみんなに座るように促す。
「ところで白雪はどこに行ったんだろうね?」
 木々が部屋を見回す。料理はあたたかい。きっと今さっきまで準備をしていたはずだ。
「そうだな。どこへ行ったんだろう?」
 ゼンも首をかしげて心配そうに部屋を見回す。
「う゛〜、主。ずーるーいー。お嬢さんのハートマーク……」
 オビは背後霊のようにゼンに肩にのしかかる。
「オビ俺の事、実は好きだろ? 俺がハートマークを書いてやるよ」
 ゼンはテーブルに置いてあったケチャップを手に持ち、オビの席のオムレツにハートマークを描く。
「どうだ? 上手くかけたぞ。オビ嬉しいだろう」
「……」
 無言でゼンを見つめるオビ。
「そうだ! ミツヒデの旦那は木々嬢にハートマーク書いてもらったらどうです?」
 オビとミツヒデが木々を見つめる。木々は表情を変えず無言のままである。
「いや……、いいよ。木々はそういうこと嫌いだろうし……」
 ミツヒデは木々の機嫌を損ねないよう、冷汗をかきながら言う。
「いいよ。別に書いても」
 さらりと答える木々。
「えっ! 本当に!?」
 ミツヒデ、オビ、ゼンの3人が驚く。
「うん。ちょっと、そこどいてミツヒデ」
 席についているミツヒデをどけて木々はケチャップを手にする。
 真剣なまなざしでオムレツの前に立ち、ケチャップを握る。
「うわ…、木々嬢、本格的だね……」
 木々がミツヒデのオムレツに文字を書き出す。

「バ……カ……」

 オビがその文字を読み上げる。

「ふう、できた……」
 無表情のまま木々はケチャップを置く。
「ぎゃはははは! 旦那! バカだって!」
「ミツヒデ……、木々にやられたな」
 オビとゼンはお腹を抱えて大笑いする。
「そんな……ひどい木々……」
 ミツヒデは泣きそうな顔で木々を見つめる。木々はもう一度ケチャップを手に取り、溜息つく。
「これでいい?」
 木々はバカと文字を書いた上から、ハートマークを書いた。
「いーなー、俺も主じゃなくって木々嬢にハートマーク書いてもらえばよかったなぁ…」
 ゼンが描いたハートマークのオムレツを見つめながら言う。
「今から書こうか。ミツヒデに最初に描いた方でよければ……」
「あ、いいです。主のハートマークで。でもやっぱりお嬢さんからのハートマークは羨ましい……」
 オビはゼンのオムレツをじっと見つめる。
 嬉しさに顔の筋肉も気持ちも緩んでいる主人を見て、オビはあることを思いつく。
 ゼンが料理のテーブルから目を反らしている隙に、オビはハートマークのオムレツにフォークを刺した。
「えいっ!」
 大きく一口分とり、口の中に素早く押し込む。
「あ゛あああああ!」
 ゼンが大きな声を上げる。
「お嬢ふぁんのハートはいただき!」
 オビは大きな口を開けてオムレツを食べながらモゴモゴする。
「オビ! お前というやつはぁ〜! 吐き出せ〜」
 ゼンはオビの襟首を掴み揺さぶる。
「いひゃですよ、あるじ……」
 オビがゴクリとオムレツを飲み込んだその時、部屋のドアが開いた。
「あれ、みんな早いね、もう来てたんだ」
 白雪が部屋に入ってきた。
「何……してるの?」
 部屋の中の騒々しさに気づき白雪の表情が一瞬固まる。
「あーごめんね、白雪。うるさくしちゃって」
 木々が男どもを白い目で見つめる。
「まあ……いいんだけど。あれ? もう食べちゃってるの?」
 ゼンのオムレツが減っていることに白雪は気づく。
「あ、お嬢さん! ずるいですよ! 主だけにハートだなんて!」
 オビは立ち上がり、ゼンのオムレツのハートマークを指す。
「ああ、ごめんね。ちょっと途中だったんだ。ケチャップが服にはねちゃって、
今、着替えてきたところなの。そういえば、そこゼンの席だったね」
 白雪はさらりと言う。
「そ、そういえば……?」
 特別に自分だけにハートマークを書いてもらったと浮かれていたゼンの表情が固まる。
「うん、みんなにハートマーク書くつもりだったよ……って、オビのオムレツには
もうハートマークが書いてあるし、ミツヒデさんのはケチャップがいっぱいかかってて、なんだかおいしそうになってるし……」
「そうだな、白雪…」
 木々からケチャップをかけられたミツヒデが泣きながら言う。
「白雪、私のオムレツ、ケチャップかかってないからハートマーク書いて」
 木々がスッとオムレツを白雪の前に出す。
「いいですよ」
 白雪はケチャップを握り、ゆっくりとハートマークを書く。
「はい、できました! ゼンに書いたのよりも上手くかけたかも!」
 木々の顔を見つめて白雪は満足そうにする。
「ありがとう、白雪」
 木々は3人の男にチラリと視線を送って笑う。
「うん、いつもお世話になっている皆に感謝を込めて愛を込めて! みんなにハートだよ!」
 白雪はみんなに元気よく、ニッコリと笑いかけた。


♪おわり


 果たしてクラリネスにはケチャップはあったのだろうか……。
ないと言われるとこの話は成り立たたないのであったことにして下さい(笑)。
ハートマークの卵の画像はトルコ、カッパドキアの洞窟レストランで出たオムレツに
本当にケチャップで描いたハートマークです。




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