しずか
脳波計の静さん


 私は脳波計の静。ヒトの頭上皮からの数十μVという
とても小さな電位を記録する検査機器なの。
 私には海に棲むイカやタコに負けないくらいの手があるわ。
20本以上もある手は、お皿の形をしていて、手首からはリード線と
呼ばれる腕が細く長くのびていているの。このスラッとした腕は、
クニャクニャと柔軟性に富んでいる上、赤・黄・緑・オレンジなど、
とってもカラフルなのよ。私の手のひらは、皿電極と呼ばれていて
お皿の形をしているけど、同じ脳波計の友達、針子さん手は
ツンと尖っているの。針電極って言うのだけれど、
多少の痛みがあって感染の問題もあるから、
私のようなお皿の手のひら電極が一般的みたい。
 脳波の記録は、私の手のひらを頭皮上に接着して脳の電位を
記録するの。その際、頭皮上との分極を少なくするために、
皿電極と頭皮の間にハンドクリーム……じゃなかった、
ペーストを塗っておかなければいけないの。
 脳波検査をするときには、私の名前と同じ「しずか」が原則。
ドアの開閉はそうっと、話し声もトーンを下げて、
物音も最小限に抑えてもらわないと困るわ。大きな音を立てると
睡眠脳波の妨げになるから、このことを大脳皮質連合領や
海馬に強く記憶してもらうと嬉しいわ♪ 
 睡眠脳波のように静かに眠っていてほしい検査もあるけど、
患者さん自身にやってほしいこともあるの。
 目を開けたり閉じたりする開閉眼や、大きく息を吸ったり
吐いたりする過呼吸も大切な賦活法なの。他にも、
閃光刺激といって、数〜数10Hzの断続的な光を眼前で、
数秒間パチパチと点滅する賦活法もあるわ。
 脳波というと目をつぶって真っ暗なイメージがあると思うけど、
閃光刺激のように光もある。私の作り出す光と闇の世界! 
そんな世界を短歌や俳句にすることが私の趣味なの。
 では、ここで一句……、

 
 ひとみ閉じ
    α消えゆく さざなみの
        耳をすませば 聴こゆる寝息

                       静

 
 えっ? 素晴らしい歌ですって? じゃあ次回は、
静の睡眠俳句をお聞かせするわね!
 ……と、脳波計の静さんは、日々感じたことを歌に
しながら、流れゆく記録紙に脳波を記録しているので
ありました。


    医学書院 検査と技術 2001年8月号コーヒーブレイク掲載


イラスト;saori


***
コーヒーブレイクの別刷りが来るといつも上司に持っていくのですが、
これを持っていったとき、
「ひとみとじィ〜 α消え行く〜」と、
静さんの俳句を大声で朗読されて恥ずかしかった。
「ぎゃあああ、読まないでぇ〜」
と叫びながら逃げた……(笑)。




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