とおこ
遠心分離機の遠子さん




 私は遠心分離機の遠子。某検査室に、去年入ったばかりの
まだピチピチのギャルなの。
 私の仕事は、試験管に入っている血液を遠心分離すること。
えっ? 遠心分離って何かって? 
 分からないなら私がやさしく教えてあ・げ・る!
 味噌汁ってあるでしょ。あれを血液に例えてみるわね。
なめことネギの入った味噌汁をそのまま静置しておくと
味噌と上澄みに別れるでしょ。味噌は重いので下に沈んで、
ダシや具のなめこやネギは浮くわよね。それと同じく、
血液も静置しておくと、重い赤血球や白血球は下に沈んで、
軽い水分は浮くのよ。要するに、味噌や麹が赤血球や
白血球で上澄みが水分というわけ。この水分の中には、
なめこやネギのようにコレステロールや糖がプカプカ浮いているの。
まあ、なめこやネギみたいに大きくはないけどね。静置すれば、
重いものと軽いものに別れるわけだけど、それじゃ時間が
かかっちゃうでしょ。早く分離をするために1分間に
2000〜3000回転っていう、高速で遠心すると、早く、
しかもきれいに血液を分離出来るの。簡単な仕事なんだけど、
私は検体検査には欠かせない、一番最初の大切なお仕事をしているの。
 ただちょっとね、私たち遠心分離機のきつい所は、
毎日同じ方向にばかり回ってるって事かしら? 
勿論、止まる時は逆回転するけどね、平衡感覚がものをいう仕事なのよ。
 こんな私にもね、想い人がいるのよ。ちょっと年上なんだけど、
私の彼は傘型遠心分離機の傘男さん。私と違って、もう10年以上も
この検査室にいるの。私は最新型の懸垂型の遠心分離機なんだけど、
古風な傘型遠心分離機の傘男さんに心を奪われてしまったの。
傘男さんは検体の処理能力は悪いわ。一度に20本弱しか
遠心分離できないんですもの。最新式の懸垂型なら、
40本以上は一度に処理出来るの。けどね、傘男さんの傘の角度といい、
キュッとくびれたウエストといい…懸垂型にはないワイルドさを持っているのよ。
 今は懸垂型の私達が、日常の検査で活躍して、傘男さんは隅の方で
隠居生活を送ってるけど、私はあなたに惹かれずにはいられないの! 
 さあ! 今日も沢山の仕事が待ってるわ!重心をしっかり中央において、
左右対称、バランスをばっちりとって頑張らなきゃ!
 ……と遠子は毎日思いながら、目にも止まらぬ速さで検体を
遠心分離しているのであった。



         医学書院 検査と技術 2001年2月号コーヒーブレイク掲載


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これはね、コーヒーブレイクのイラストの傘男さんがとってもかわいいのよー。
かわいらしく試験管持ってるの! ここでお見せできないのが残念!
いつもかわいいイラストを描いて下さっているDさんのファンです♪




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