しないの? できないの?
これは中2の遥か? 昔のお話。
担任の25、6歳の独身の女性国語教師、M先生が帰りのHRをしていたときのことであった。
一番前に座る男子生徒Sが
「先生、結婚しないの?」
と突然だったが気楽にM先生に話しかけた。HRなどほとんど聞いていなかった生徒も
Sの発言に顔を上げる。
「うん、先生はまだしないのよ」
穏やかにM先生は答えた。
「えー、しないんじゃんくて、できないんじゃないのぉ〜」
と男子生徒Sはからかい半分でニタニタ笑いながら言った。
すると……M先生は下をうつむき黙ってしまった。ヒクヒクと鼻をすする音。
なんと! 泣き出してしまったのである。
「そ、そんなこと言わなくてもいいじゃないー!」
パタパタパタパタ。
M先生は教卓から姿を消し、生徒を教室に残して
悲劇のヒロイン風に泣きながら出ていってしまったのだ。
「…………」
沈黙という言葉が教室の空間を数秒占めた。
「ちょっと、何あれー。どうしてあれくらいで泣いちゃうのー」
「どうするのー。出ていちゃったよー」
「おいS、お前どうするんだよ」
沈黙の後の教室は異様なざわめきに包まれた。
しばらくして、学年主任の中年男性教師が教室に入ってきた。
「S、ちょっと会議室に来い!」
M先生を泣かせたS君が学年で一番迫力のある先生にお呼ばれである。
仕方なくS君は席を立ち教室を出る。
「あーあ、S君怒られるね」
「でもあんなもんで泣く方がおかしいんじゃない?」
「失恋したばっかだったとか……」
思春期真っ只中の中学生は言いたい放題。10分ほどするとSが戻ってきた。
しかし当のSはまったく落ちこんだ様子もない。
「どうだった? なんか怒られた?」
クラスの注目はすべてSに集まる。
「うん、ちょっとね」
「何て怒られたの?」
「ああ、学年主任から
言って良い事と悪い事があるんだっ!
って怒鳴られたよ」