***吾輩は秘書である***
吾輩は秘書である。名前は巽征一郎。どこで生まれたかは頓はつかぬ。何故なら私は
死神だからだ。死神にどこでいつ生まれたなど、そんなことは関係ない。もはや死んでいるのだから……。
私は閻魔庁の召喚課で秘書をしている。役所なのだから対応はいいだろうと思うかもしれないが、
しょせん公務員なんて安月給。その上、うちの課は経費ばかりかかって赤字続き。
死者の召喚が主な業務だが、簡単にできる召喚できるものとそうでない者とがいる。
そこが死神の腕の見せどころ。召喚課の職員を上手く使っていかに安い経費で召喚できるかが、
私にとっては重要なことである。有能秘書の腕の見せ所とも言えよう。
だが、この私にとっての目の上のたんこぶ、秘書の腕に泥を塗る人物がこの課にはいる。
名前は都筑麻人。実年齢は90歳を越えるのにまだゴロゴロと人に甘えている。甘えているだけでなく、
いい大人、いや、じいさんだと言うのに甘いものが大好きなのである。
「まったく、そんなに甘いものばかり食べていると糖尿病になりますよ!」
と注意しても、
「死神だから大丈夫」とにこやかにヘリクツをこねてやめようとしません。
私はいつもこの笑顔に負けてしまいます。
甘なで声も本当はかわいくて仕方がないのです。死者を召喚しに行っても、上手くいかず、
建物を破壊しまくる。その弁償代をすべて召喚課が持つことになる。都筑さんがいるおかげで
召喚課の赤字は積もる一方である。しかし、私は彼の笑顔に逆らうことができない。
しぐさもなにもかも可愛く見えてしまうことがあるだ。
また、私は職員を守ってあげなければならない。得に都筑さんは狙われやすい。
銀髪のマッドドクター邑輝にロウソクの館の伯爵、どちらもこの世に数奇な変態です。
こんな奴らに都筑さんを渡すわけにはいきません。破壊魔でも、甘ったれでも大事な召喚課の職員です。
守ってあげねばなりません。
吾輩は秘書である。名前は巽征一郎。どこで生まれたかは頓はつかぬ。
こんな私を秘書として信頼してくれる召喚課の仲間に、感謝しつつ勤労の毎日を送っているのである。
♪おわり
参考文献:吾輩は猫である 夏目漱石