夢の雫、薔薇色の烏龍
(ゆめのしずく、ばらいろのウーロン)


2017年3月号サイドパロ

【あらすじ】
 皇女ミフリマーを出産したヒュッレムの元には沢山のお祝いの品が届きます。
スルタンの子を二人も生んだため、寵姫として認められたのです。
 一方、イブラヒムは一年余りに及ぶエジプトでの任務を終えてイスタンブルに帰還します。
 イスタンブルの一等地に大宰相イブラヒム邸も完成しました。
妻ハディージェの産んだアタ・メフメトとも対面します。ハディージェとアルヴィーゼの子であり
イブラヒムとは血が繋がっていません。血統など気にしないとイブラヒムはいいます。
 ですが、ヒュッレムの産んだ皇子メフメトの血統は気にならないとは言い切れず、
対面したときに手を取れませんでした。


【サイドパロ】
 ラムセスもイブラヒムと共にイスタンブルへ帰還。
 イブラヒムはトプカプ宮殿へスレイマンに帰還の挨拶に行った。
 スレイマンに一通りの報告が終わった後、イブラヒムだけ呼び止められる。皆は外へ出て行く。
 ラムセスはイブラヒム付きの小姓なので、念のために部屋のすぐ外で控えていた。
 二人は次の遠征先について話しているようだった。スレイマンがイブラヒムに徐々に近づいてゆく。

『み。みちゃった……』

 ラムセスは心の中で呟いた。
 スレイマンはイブラヒムに口づけをしていたのである。イブラヒムは拒むようなことはしない。
 スレイマンはイブラヒムが帰ってきて嬉しいと言っていた。

 ラムセスは考える。
 オスマン帝国の皇帝ともなると、後宮もあり、女性に困ることはない。よりどりみどりである。
 そうなると、心の許せる臣下が欲しくなる気持ちもわかる。
スレイマンが男色に走るのも無理もないであろう。イブラヒムも受け入れているようだ。
 でも実際、その『現場』を目にしてしまうと圧倒されるものがある。
 自分も他の者と同じように、去ればよかったと後悔していたその時だった。
「ラムセス、お帰りなさい」
 背後から聞き覚えのある声がした。
 振り向くとソコルル・メフメトが立っていた。そばかす顔をクシャクシャにして笑っていた。
「メフメトじゃないか! ただいま! 久しぶりだな!」
 ラムセスはソコルル・メフメトを抱きしめる。
「ラムセスのエジプトでの活躍聞いてます。イブラヒム様からの覚えもめでたくて安心しました」
「いやいや、俺にできることをやったまでだ」
 ラムセスはメフメトが懐かしくてたまらなかった。故郷のエジプトにいるはずなのに
何度もイスタンブルが、メフメトが恋しいと、滞在中に思ったことか。
「は、離して下さい。ラムセス、一つ確認したいことがあるんです」
「ああ。ごめんごめん。つい、懐かしくて……」
 メフメトを抱きしめていた手を緩める。メフメトは真面目な顔つきであった。
「エジプト滞在中のラムセスに一つ噂が立っています」
「なんだ?」
 ラムセスは首をかしげる。
「ラムセスのエジプトでの活躍は素晴らしいものだったと思います。イブラヒム様の信頼も
確かなものとなり、第一の小姓となりました」
「まあ、そうだな。それがどうしたか?」
「イブラヒム様の第一の小姓となれたのは、エジプトでの活躍の賜物だと思うのですが、
ラムセスがイブラヒム様の『お気に入り』だからという噂もあるのです」
「お気に入り……?」
「はい。ラムセスはエジプト滞在中のイブラヒム様の夜のお相手、だから出世したのではないかと……」
 ラムセスはオッドアイを大きく見開く。
 まさかそんな噂があるとは!
 先ほどスレイマンとイブラヒムのキスシーンを見てドキドキしていたところなのに、
男色の疑いを自分にかけられるとは思ってもみなかった。
「な、なんだその噂は! 俺はイブラヒムの相手なんてしたことないし、男色の気もないぞ!」
「そうですか。噂はラムセスの活躍を妬む者たちですかね。安心しました」
 メフメトはホッとした表情になる。
「ああ、ビックリした。そんな噂があったのか……」
 ラムセスは呆然とする。
 まさかそんな噂が自分に付きまとっているとは思いもしなかった。
『男色』自体を否定する気はないが、まったくそんな気はないのに疑いをかけられるのはあまりいい気がしない。
 これからイブラヒムと会う時になんだか意識してしまいそうである。
「そうか、イスタンブル帰還早々、驚かされたな。まったく……」
 ラムセスは深く息をつく。
 そんな彼の姿をメフメトは穏やかに笑い、見守っていた。





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