***12号続き***

 

1.イヤリングの秘密
2.二つ揃ったイヤリング
3.神龍現る
4.ウルトラの母
5.ウルトラの父
6.飛べ! ネフェルティティ!
7.蜃気楼

 

1.イヤリングの秘密


「こ、この黒ガラスは…。本当にあのときのイヤリングなのか?」
「そうです。あなたの弟、黒太子は…、マッテイワザ王子は額飾りとしてずっと大事に持っていました。
ミタンニ王国が滅亡する際に、私が貰い受けたのです」
 祖国の記憶自体、すっかり色褪せてしまったネフェルティティ。弟マッテイワザに残していった
イヤリングの片方と今ごろ対面しようとは…。ネフェルティティは固唾を飲んだ。
「ま、まさかこんなものが…今ごろになって…」
 黒太子の気持ちが詰まったイヤリング。さすがのネフェルティティにもその気持ちは伝わったのだろうか?
暫くの沈黙が流れていた。
 ―――すると、
 ネフェルティティの肩がフルフルと震え始めた。あまりの懐かしさに、感情が高ぶってしまったのだろうか?
とユーリ達は思った。
「ふふふ。マッティに渡したイヤリングが今ごろになって出てこようとは…。半分あきらめていたのに…。
このイヤリングさえあればっ!」
 ネフェルティティは急に立ちあがり、右手にイヤリングを持って天井に向かって上げた。
「このイヤリングは魔法のイヤリング。2つ揃えば何の望みでも叶えられる魔法のイヤリングなのだ!
これさえあれば、エジプトの頂点どころか世界の頂点。…いや、未来永劫、ずっとワタクシの血が
世界を征服することができるぞ! ほっほっほ!」
 あのイヤリング…いや、ユーリのチョーカーにはそんな秘密があったのか! ユーリ達は驚きのあまり
言葉もすぐには出なかった。ユーリ達の筋書きでは、久々にイヤリングを見たネフェルティティは
驚きと感動のあまり、改心して、今までの自分の過ちを見つめ直すと思っていたのに…。
これでは筋書きと全く違ってしまった!
「さあ! こんなところでカッコつけている場合じゃないわ! イヤリングを2つ揃えて、呪文を唱えなくては!
そして私が、世界の頂点に立つのだ! ラムセスなんてへの河童! あんな金髪サルどうでもええわい!
マッティよ…、我が愛しい弟よ…、ありがとう!」
 ネフェルティティは、ミタンニの方向に向かってお礼を言うと、勇気凛々、元気100倍、そさくさと神殿を出て、
自分の持っているイヤリングの片方がある部屋へと走って行った。
「そ、そうはさせないわっ! ちょっと私達の思っていた筋書きとは大幅にずれたけど、ネフェルティティに
世界征服なんてされて溜まるもんですか! リュイ、シャラ、追いかけるわよっ!」
「はい、なんだか思ってもみない展開になってしまいましたが…。とにかくネッチーを止めなくては!」
「くそっ! 金髪サルだと? この美の集結像と言われる俺様に! 聞きずてならん!」
 ボロボロになっているはずのラムセスも、ネフェルティティの後を追いかけた。

 


2.二つ揃ったイヤリング


 ドタドタドタ!
 ネフェルティティは自分の部屋に駆け込んだ。贅沢三昧の部屋の中にある黄金でできた引出しの中には、
色とりどりの宝石がきゅうきゅうに詰まっていた。
(たしかこの引出しにあのイヤリングは入れたはず…。あまりに昔の物なので何処にしまったか分からない!)
 このときばかりは、自分の持っている沢山の宝石の数を悔やんだ。半分、賄賂としてもらった宝石も、
あのイヤリングに比べたらガラクタ同然だ。何と言っても、あのイヤリングはどんな望みでも叶えられるのだからっ!
 ガサゴソガサゴソ。赤、青、緑…素晴らしい輝きを持つ宝石の山をかき分けていくと…
「―――あった!」
 何の見栄えもしない黒ガラスのイヤリング。黒も光沢をすっかり失っており、何の魅力もないイヤリングだ。
それも仕方ない。ネフェルティティが嫁いで来て、手入れどころかずっと放っておいてあったのだから。
しかしこのイヤリングに間違いはない。祖国ミタンニからエジプトに嫁いで来た時に付けていたイヤリングだ!
懐かしさよりも、すっかり諦めていた希望がネフェルティティの心にはグッと込み上げてきた。
あまりの嬉しさに悪寒が走り、背中がゾクゾクした。
 ネフェルティティは、右手にユーリから受け取ったイヤリング、
左手に今探し出したイヤリングを手のひらに乗せ満面の笑みを浮かべた。
「忘れてないぞよ。イヤリングの呪文。もう唱えることは決してないと思っていたのに、
夢が叶うと思うとゾクゾクするわっ!」
 ほーほほほと高笑いするネフェルティティの部屋に、あとから追いかけてきたユーリ御一行が
ネッチーの笑い声を聞きつけて入ってきた。
「王太后! あなたに世界征服なんてさせないわっ!」
 ユーリが部屋に入ってきたとき―――
 ときは既に遅かった。もうネフェルティティは呪文を唱えていたのだ!
『出でよ神龍(いでよシェンロン)!」……と
(一体いつからドラゴンボールに…BYねね)



3.神龍現る

 突然辺りが暗くなった。夜でもないのに暗闇だ。暗闇をビカビカっと稲妻が走っていた。
稲妻が天高く、轟音と共に上がったと思うと、そこには一匹の龍が現れた。
 ―――神龍である。
 2つ揃ったイヤリングと呪文で神龍が現れたのである。
 神龍はエジプトを誇るピラミッドよりもずっと高く、周りを稲妻が取り囲んでいた。
イヤリングと同じ黒ガラスの目をしており、神話や物語に出てきそうな…、
この世のものとは思えない生き物…、いや、神そのものであった。
 ユーリ達は金縛りにあったように、神龍に驚き、声も出なかった。
「おお! これが噂に聞いたイヤリングの神。『神龍』か! 素晴らしいぞ! さあ、我が願いを叶えたまえ!」
 ネフェルティティの心は絶頂に達していた。我が願いが、神の手によって叶えられるのである。
『お前か…、久々に私を呼び起こしたものは…』
 ネフェルティティの声に神龍は反応した。黒ガラスの瞳がネフェルティティを見た。
「さあ! 私を未来永劫、この世の女王にしておくれ!」
 ネフェルティティが願いを言ってしまった。このまま神龍は、願いを叶えるのだろうか!?
『願いだと? 何を寝ぼけたことを言っておるのじゃ! 私のやることは決まっている!』
「えっ…」
 ネフェルティティの顔が曇った。
「神龍は願いを叶えてくれるのではないのか? イヤリングの神、神龍よ! 我が願いを聞いておくれ!」
 ネフェルティティは再び神龍に頼み込んだ。
『私はM78星雲の近代型ロボット『しぇんろん』。私のやることは正義の味方を作ること。
ネフェルティティとやら、ウルトラの母になれ!」
 突然、神龍の黒ガラスの目から、
 ―――ビビビビビ!と
 光線が発せられた。
 光線を浴びたネフェルティティは、なんとウルトラの母になってしまった。
黒ガラスのイヤリングが目の代わりになっており、赤と銀のウルトラコスプレが
ネフェルティティのナイスなバディにフィットしている。
「いやじゃああああ。なんだこれはー!」
 ネフェルティティは、悲鳴を上げた。
「良く似合うぞ。ネッチー=ウルトラ。これから世界の平和のために戦ってくれ!」
 そう、神龍は言い残すと天高く消えて行ってしまった。

 

4.ウルトラの母

神龍は天へ消え、辺りは明るくなった。呆然とするネッチー=ウルトラとユーリ達。
 ユーリ達は神龍にも驚いたが、ネフェルティティがウルトラの母になってしまったことはもっと驚いた。
「ネフェルティティ王太后がウルトラの母! これでエジプトも平和になるかしら?」
 とシャラ。
「さあ〜? じゃあ王太后の子供はウルトラマンになるのね。とりあえずアンケセナーメは
ウルトラマンセブンてところかしら?」
 とリュイ。
「じゃあさっ! アンケセナーメのもと夫。ツタンカーメン王はウルトラマンタロウだったのかしら?
そう言えば、ツタンカーメンのマスクって、ウルトラマンのコスチュームに似てない?」
「本当ね、リュイ、シャラ。ネフェルティティ王太后がウルトラの母になれば
エジプトにも平和が訪れるかしら?」
 民衆の心がどんどん離れつつあるエジプト。政治を執る者がウルトラマン一族となれば、きっと
反乱を起こしたタハルカ達の心も分かってくれるであろう。ラムセスもとりあえず助かったことだし、
ペンダントの神龍のおかげで平和も訪れる。一件落着と言っても良いだろうか…。
 ―――そこへ
「どおもォォォォ〜、いつもお世話になっておりますぅ〜♪」
 ペコペコお辞儀をしながら、一人の中年の女がユーリやネフェルティティの前に現れた。
少々、小太り気味だが目鼻立ちの整ったおばさんであった。スタイルもそんなに悪くない。
若い頃は相当な美女だったことが伺える。
「誰? 知ってる? この人?」
 ユーリはリュイやシャラに顔を向けた。首を振る双子達。ネフェルティティにも目を向けると
ネフェルティティもブンブンと顔を振った。
 にもかかわらず、そのおばさんはユーリ達を見てニコニコしていた。
「いつもお世話になっておりますぅ。お呼び頂いて光栄ですわ! ユーリ様」
 どうやらこのおばさんはユーリ達のことを知っているようだ。
「あ、あの…、どちら様でしょう? どこかでお会いしましたっけ……?」
 全く見覚えのないおばさんに向かって、ユーリは恐る恐る聞いた。
だいたい、こんなおばさん呼んでなんかいないのだ!
「あらっ? さっきから私の名前を何度もお呼びしていたではありませんか!
申し遅れてすみません。そしてはじめまして! ウルスラの母でございます」
「ウルスラの母?!」 
 目からビックリマークが飛び出るほど驚いた。そういえば…目鼻立ちはウルスラに似ている。
ウルスラの美貌はきっとこの母親譲りなのだろう。
「はい、さっきから皆様。ウルスラの母、ウルスラの母と何度も仰っていたではありませんか!
ユーリ様に名前を呼ばれたのが嬉しくて、七日熱で他界した身ではございますが、
黄泉の国から戻ってきてしまいました。娘がよくお世話になっていまして……、ありがとうございます!
あの子も成仏して、元気にやっておりますわっ!」
 ユーリはウルスラの母に手を握られ、感謝を伝えられた。
「あ…あの…、ウルスラのお母様…。私達が言っていたのは。『ウルスラの母』じゃなくて、
『ウルトラの母』……」
「えっ! まあ! 私としたことが何と言う勘違い!!! お呼びでないっ!」
 ウルスラの母は間違えた照れ隠しに阿波踊りをしながら天国に帰って行った。


5、ウルトラの父

「今の何だったの……?」
 突然のウルスラの母出現に、呆然とするユーリ達。そこへまた……、
「姉上!」
 声のした方を振り向くと、ユーリのチョーカー…いや、もうここではネフェルティティのイヤリングの
持ち主であった黒太子が立っていた。
「姉上、ウルトラの母になったなんて! 改心したのですね。エジプト王家の薄汚れた世界から
とうとう足抜けする覚悟ができたんですね!」
「おおっ! マッティ!」
 ネフェルティティは黒ガラスの目を左右交互にピカピカ光らせながら、久々の再会を喜んだ。
「姉上! これから一緒に国民のためを思った住み良い国を一緒に作りましょう。
姉上の今まで悪巧みに使っていた知恵を他に利用すれば、きっとよい国が築けます」
 黒太子はガシッ! とネフェルティティの手をつかんだ。
「そ、そんなマッティ……」
 ミタンニを出てから数十年。黒太子の顔を見るのは久しぶりであった。お互い老けたが、
ミタンニで愛し合っていたことを思い出すと……、ホッペが蝶形紅斑せずにはいられなかった。
 じーっとみつめあう二人…。うーん、なんだかいい雰囲気♪
「姉上がウルトラの母なら、私はウルトラの父になります。2人でミタンニの再建をしましょう!」
 黒太子は今度こそ、姉と理想の国を築こうと考えた。
 だが、そこへ……、
「ひどいわ! マッティワザ様っ!」
 握り合っている手を、まるで運動会の徒競走のゴールでテープを
切るように黒太子の妻であるナディアが体当たりしてきた。
「ひどいですわ! マッティワザ様の妻はワタクシなのに! マッティワザ様がウルトラの父なら
ウルトラの母はワタクシですわっ! やっぱりまだ、タトゥーキア様のことがまだ忘れられないのね!
未だに、青鹿の間には誰もいれようとしないし……」
(懐かしいな、タトゥーキアに青鹿の間、だいたい青鹿の間が今あるのか……?)
 黒太子をネフェルティティに取られると思うと悔しいナディア。
 その場でハンカチを持ってボロボロ泣き始めた。
「ちょっと! ナディアさん! あなたの姉のナキア。どうにかしてよね。血が繋がっているなら
どうにかしてよ!」
 ユーリは、泣いているナディアお構いなしに攻めたてようとしていた。
 ―――と、そのとき
 ピコーン! ピコーン! 
 ネフェルティティの胸にあるランプが音を立てて点滅し始めた!

6.飛べ! ネフェルティティ!


「な、何事じゃ?」
 ネフェルティティは点滅しだした胸のランプに驚いた。
「もしかして、地上にいる時間切れじゃない? ウルトラファミリーは3分しか
地上にいられないと思ったけど…」
 小さいとき、ウルトラマンを妹の詠美と一緒に、楽しみに見ていたユーリが言った。
「時間切れ!?」
 驚くネフェルティティ。
 ピコーン、ピコーンとランプの音と点滅はだんだん早くなっている。
「じ、時間切れになるとどうなるのだ? どうすればよいのだ?」
「それは勿論! M78星雲に帰ればいいのよ。ウルトラの星にさよーなら〜(^_^)/~」
 ネフェルティティがいなくなれば、エジプトの平民の暮らしが豊かになるのは勿論のこと、
余計な争いをせずに和平を結ぶことが出き、ヒッタイトにも平和が早く訪れる。
 ユーリはネフェルティティが星へ帰ってくれることを望んだ。
「ど、どうやって帰ればいいのだ? M78星雲とはどこにあるのだ?」
 ランプの点滅がどんどん早くなっていくのに同調するように、ネフェルティティの心臓も
バクバクと言っていた。思わずユーリの言うとおり、M78星雲に帰ろうと考え出した。
「うーん、テレビでは『シュワッチッ!』って言って空を飛んで行くわ。その飛び方もね、
一度上空を見渡してから、一呼吸置いて飛ぶのよ」
 ユーリは優しく教えてあげた。
「ユーリ様、どうして一呼吸置かなきゃ行けないんですか? 何か意味があるんですか?」
 ハディが目をパチクリさせながら、不思議そうに聞いた。
「それはね…、詳しいことは知らないけど、私が思うにウルトラマンは空を飛ぶとき、
飛行機が飛んでいないかどうか確認しているんだと思うの。折角、平和の為に戦ったのに、
旅客機墜落させちゃ、元も子もないでしょ」
「なーるほどぉ〜」
 ハディを始め、みんな納得した。
「分かった。とにかく飛んで行けばいいのだな」
 突然の出来事にもはやネフェルティティは、敵であるユーリの言葉に乗せられているということが
全く分からないらしい。
 上空を見上げ、両手を上げ空を飛ぼうとしたとき……
「待つのじゃ!」
 天から声が聞こえた。
 その声は空高く響き渡っている。
 辺りは暗くなり、ネフェルティティをウルトラの母にした神龍が再び姿を現した。


7.蜃気楼

「おおっ! 私をこんな姿にした神龍よ! 私はどうすればよいのじゃ!?」
 ネフェルティティは涙目になりながら、神龍に訴えた。
「どうか私を元の美貌のネフェルティティに戻しておくれっ!」
 沈黙が流れた。神龍は何も喋らない。
 暫くすると、ドスのきいた声で神龍が喋り出した。
『元の姿に戻りたいか…、ネッチー』
「はい、戻りたいです。どうか戻してください。何でもしますから……」
 ウルトラの母のランプはまだピカピカ点滅している。
『何でもする…。よし! その言葉聞いたぞっ! 本当になんでもするのだな?』
「はいっ!」
 元の姿に戻りたいネフェルティティはマリア様を拝むように神龍を見つめていた。
『よし…、ではこれから私の言うことを聞いたら元の姿にもどしてやろう。
早速だが…、そこにいるユーリをはじめヒッタイト軍を倒すのじゃ!
賢帝と言われるムルシリ2世を滅ぼしたら、元の姿に戻してやろう!」
 神龍が言い終わるや否や、ユーリ達の表情が変わった。
「何ですって? なんで私達が倒されなくっちゃいけないのよっ!」
 とリュイ。
「冗談じゃないわ! ユーリ様っ! どうします?」
 ユーリも一瞬慌てた。
 だが…、なんだかおかしい。どうして神龍がそんなことを言い出すんだろう…。
 ふと、ユーリは神龍の尻尾をみた。
 ―――すると…
 電源コードがはみ出ていたのだ!
「ちょっと何これ?!」
 はみ出ているコードを引っ張った。すると……、
 巨大に見えた神龍は崩れ、一枚の龍の描いてある布になってしまった。
 どうやら、神龍は勿論作り物であったようだ。大道具ズワが、
3日寝ないで作った大作であった。
 中からは、はしごに乗ったウルヒと、ウルヒに肩車しながらマイクを
持っているナキア皇太后が出てきた。
 ナキアは神龍の中から、声を変えてマイクで神龍として喋っていたのである。
「ちいっ! バレたか! これを気にネッチーにユーリもろ共、
カイルも失脚させようと思ったのにっ!」
 悔しがるナキア。ナキアを肩車しているウルヒはフラフラである。
「なんですってーっ!」
 ユーリはナキアに向かって走って行き、ウルヒの乗っているはしごをコンと蹴飛ばした。
「うわあああああっ!」
 ウルヒ、ナキアは共倒れ! はしごが高かったため、2人とも気絶してしまった。
「全く…、エジプトにまで来てナキア皇太后はロクなことしないねっ!」
 リュイとシャラが声を合わせていった。
 神龍が崩れたせいか、ネフェルティティも元の美女? に戻った。
 どうやらネフェルティティも、これに懲りて少しは政治を見なおすと言っている。
 すぐには良くならないかもしれないけど、時間をかけてエジプトは
住み良いよい国になっていくことだろう。
「ネッチーも改心したし、これで大丈夫でしょ。
さあ! ヒッタイトに! カイルも元に帰りましょう!」
 ユーリの顏には、爽やかな笑顔が浮かんでいた。3姉妹も、イルも嬉しそうに
ヒッタイトへの岐路につくことにした。
「でも……、何か大事なこと忘れているような気がしない?」
 ハディがふと呟いた……。
「…………」
 ユーリもハディも双子もイルも沈黙した……。確かになんか物足りないような気もする。
でも、みんなの頭には何も思い浮かばなかった。
「気のせいよっ! やっとヒッタイトに帰れるんだよ! 帰りましょう!」
 ユーリ達はスエズ運河を目指して歩き始めた。


 ―――忘れていること……、
 ユーリ達はすっかり当初の目的、ラムセス将軍を救出することを忘れているのであった……。
 薔薇を片手にユーリの救出を待つラムセスの姿が蜃気楼のごとユラユラと砂漠の彼方に浮かんでいた。

♪おわり