***10号続き***



 愛する人を助けるために自分の魔力が及ぶ範囲にまで近づいたナキア。
水を操り地下牢に閉じ込められているウルヒを脱出させることに成功した。

「おお、愛するウルヒよ。無事で何よりじゃ」
「ナキアさま、貴方さまさえいれば私には何もいりません。私と一緒に駆け落ちしてください」
「もちろんじゃ、帝位はなくとも愛があればどこへいっても大丈夫だ」
「はい、ナキアさまとご一緒なら何処へでも行きます。どこへ参りましょう?」
 性格が悪い分、スタイルだけはよいナキアと太もものセクシーなウルヒは
手をとりあってお互いの愛を確かめた。バッグミュージックには二人の
愛を象徴するように「瀬戸の花嫁」が流れている。
「そうだな、さしあたり日本最北端の宗谷岬にでも逃げようか」
「そうしましょう。宗谷岬の岡の上で冷たい風を受け、身を寄せて
地平線に浮かぶサハリンを眺めましょう。日本の国境を身近に感ずるのです」
「おお、それはいい、そうしよう」
 二人の瞳は遠いところを見ていた。

 紫のシルクのスカーフを頭に巻いたナキアと、シルクハットをかぶり付け髭をつけたウルヒは
古風な木製の大型トランクを引きずり、東京駅の銀の鈴で一休みしていた。
「ナキアさま、北海道まではどうやっていきましょうか? 新幹線にしますか?」
「いいや、寝台列車北斗星でゆこう。時間はかかるが情緒があるってものだ」
「それはいい考えです。一緒に津軽海峡冬景色を見ましょう」
「津軽海峡か……連絡船も捨てがたいな……」(もうないって・笑)
 ナキアはウルヒの肩に身を寄せた。皇太后独特のキツサはなく、なんとも幸せそうな表情であった。
 トランクをひきずり、北斗星の1等列車に乗りこんだ二人は静かに窓の外を眺めていた。
大宮を過ぎ、水戸を過ぎ、関東圏から脱出した。福島に入り、いよいよ東北に突入だ。
高層ビルの立ち並ぶ都会的な景色から、緑が生い茂る田舎の景色にかわってゆく。
窓を少し開けると、都会よりもわずかに冷たい空気が二人の頬をなでた。
 燃料補給か、乗務員の交代かどちらかわからないが北斗星が福島の某駅で止まった。
「のうウルヒ、ちとワタクシは駅弁を買ってくる。ワタクシは松茸弁当を買ってくるが
お前はおいなりさん6個セットでいいな?」
「いえ、ちょっと待ってください。私も一緒に行きます」
 二人は北斗星を降りて駅の売店に向かった。
「おお、ワタクシの好きな松茸弁当じゃ。ウルヒ、お前はそこのカッパ巻き弁当で
いいであろう?」
「嫌です! わたしも松茸弁当かうな重弁当がいいです!」
 ウルヒは首振り扇風機のようにぶんぶんと首を振った。
「ウルヒのくせに生意気じゃぞ! プリンを買ってやるから我慢せい!」
「プリンも欲しいけど、私もこのうな重弁当の方がいいです!」
「きいいい、主人に逆らうのか!」
 二人が低次元な言い争いをしていると、ピーという発車音がした。
ガタンゴトンガタンゴトン。二名分軽くなった列車は目的地に向かって
去っていった。ナキアは松茸弁当を、ウルヒはプリンとうな重弁当を手に持って
視界から遠ざかる北斗星を見送った。
「電車、いっちゃいましたね」
「そうだな……」
 二人は米粒ほどになるまで電車を見つめつづけていた。
「ウールーヒー! お前が悪いんじゃ! お前が素直にカッパ巻き弁当で我慢していれば
乗り遅れずにすんだものを!」
「ひどいですナキアさま! いつもご自分ばかりおいしいを食べて!
いいものばかり食べているから下半身に無駄な肉がつくのです!」
 バシン!
 ウルヒの頬に平手のあとがついた。
「おのれ! 本当のことを!」
「ひいいいいい。ご勘弁を! それよりもどうします? 荷物も列車の中です。
お金も弁当を買う分しか持ってきていません。無一文になってしまいました」
 ナキアは自分たちの置かれた状況について考えた。
 ――困った。お金がない。財産もない。このままでは餓死してしまう。
どんな悪どい手を使ってもいいからお金を稼がなければいけないのだ。
ふとウルヒから視線をずらすと、『○磐ハワイアンセンター』という、
南国ハワイをイメージした大型ウォーターパークの看板が目に入った。
「おお、ウルヒ。ここじゃ、ここで働くのじゃ!」
「ええええ? ハワイアンセンターで働くのですか?」
「そうじゃ、ワタクシがアロハムームーを着てフラダンスを踊るから、
お前は私にあわせてマラカスを振っていればよい」
「ほ、本気ですか? ナキアさま?」
「もちろんじゃ、こうなったらジュダも呼んで、ショーデビューもさせよう。
ワタクシはスレージママじゃ!」
「じゃあ、私はステージパパですね。それはいいですね!」
 すっかり乗り気の二人は軽やかな足取りで○磐ハワイアンセンター行きのバスに乗った。
 何を血迷ったか○磐ハワイアンセンター。ナキアとウルヒを従業員として
採用してしまったのだ。
「フフフ。のうウルヒ、ウォーターパークのプールに少し黒い水を混ぜようではないか、
プールの水を飲んだものはすべてワタクシのいいなりになる。ヒッタイトの帝位を狙うなど
小さい小さい。夢は大きく、世界制服じゃ! ほーほほほ」
 白鳥麗子のごとく高笑いするナキアはすっかりご機嫌である。
「それはいいですね。黒い水を飲んだ者は、皮膚がマリンブルーに変わり、
宙に浮くのですね。そしてナキアさまの思うとおりに……。ナキアさまは
第ニの小早川流水。そしてこの私はジーン・ジョンソンに。天河版海の闇、月の影ですね」
 ウルヒの気分はすっかり海闇のジーンであった。
 日本最北端、宗谷岬に愛の逃避行の予定であった二人は、いつのまにか世界制服
を企むようになってしまった。いつでもどこでもどんなときでもナキアはナキア。
ウルヒはウルヒなのだろうか?

 ――嗚呼、○磐ハワイアンセンターの運命はいかに……。

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はぁ〜い。これまたとんでもない続きパロですね。
しかし北斗星って福島通るのかしら? わからないわ。通らなかったらすみません。
パロですから(笑)
ナキアもウルヒも悪役だけど、なんか憎めないのよね。
篠原先生の書く悪役ってみんな憎めないキャラばっか。
海闇の流水もそうだったし、蒼の封印の高雄もね。
そこが面白いところなのかもしれませんね。



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