続きパロ
天河外伝〜魔が時の黎明〜




 カイルは書簡を胸にザナンザが捕らわれている森の祠に向かった。
イルとキックリ、数人の衛兵も一緒である。
 ザナンザはナキア妃に捕らわれているに違いない。皇妃と側室を殺し、
自分の女官まで、いとも簡単に手をかけたのだ。書簡と引き換えだと言っているが、
果たしてザナンザは無事であろうか。カイルは胸のつぶれる思いだった。
そんなカイルの胸中を察してか、イルバーニが言った。
「カイルさま、大丈夫ですよ。ザナンザさまはきっと無事です。
書簡と交換なのですからきっと無事でいらっしゃいます」
「そうだといいのだが、あのザナンザのことだ。捕らわれの身で
大人しくしているかどうかも心配だ。母上のためなら命をかけても
犯人を探し出すなんて言っていたからな、突飛な行動に出ていないと
いいのだが……」
 イルバーニは心配そうに主人を見つめた。
 すると、どこからかベルサイユの薔薇のオープニングのテーマ曲が
流れてきた。
「何の音だ?」
 カイルたちは立ち止まって辺りを見回した。次の瞬間、後方の茂みがガサガサと
鳴った。カイルたちは驚いて振り向く。

「カイル・ムリシリー!」

 振り向いた視線の先には蜂蜜色の肌に金髪の男が弓を構えて立っていた。
弓の先はカイルの胸へと向いていた。
「危ないカイルさま!」
 キックリが叫ぶよりも早く、蜂蜜色の男の弓の先はカイルの
胸に命中した。
「カイルさま!」
 イルとキックリの声が森の中に響き渡った。カイルは胸を押さえて
その場に倒れこんだ。
「はーはーはっ! ムルシリをしとめたぞ〜!」
 ベル薔薇の曲に合わせて蜂蜜色の肌を持つ男は得意げに笑った。
「誰だお前は!」
 キックリが叫んだ。
「私の名はウセル・ラムセス。天河外伝が出ると聞いてこうしてエジプトから
ヒッタイトに飛んできたのさ!」
「お前の出番は外伝にはないー! さっさと失せろー!」
 キックリが再び激しく叫ぶ。
「殿下大丈夫ですか?」
 イルが倒れこんだカイルを介助する。
「うっ、大丈夫だ。矢は直接には当たっていない。代わりにこれが犠牲に……」
 カイルは胸元からバラバラになった書簡を二人の前に見せた。
「だ、大事な書簡がバラバラに!」
 キックリはそばかすのある顔を青くしていった。
「割れたのは……さようならか、愛していますか……ってところだな。
はーはーはっ!」
 ラムセスは高らかに笑った。
「お前〜それは過去の…いや、コミックス14巻の未来の話なんだよっ! 
どうしてくれるんだ!ナキア妃が犯人だということを証明する大事な書簡なんだぞ!」
「オレはそんなこと知らないね! それよりもちゃんと気づいてくれよ。
オレが矢を放つ前にカイルの名を叫んだろ。コミックス14巻の誤植と同じく
『ムリシリ』と叫んだのをお忘れなく!」
「そんなことどうでもいいっー!」
 キックリが顔を赤くして叫ぶ。
「まさかラムセス。お前はナキア妃の手下か?」
 イルは厳しい視線でラムセスにいった。
「とんでもない。オレはただ外伝にも出番が欲しかっただけさ。
通りすがりの薔薇ムセスってところだな。あばよっ!」
 ラムセスは薔薇を一輪、カイルに向かって投げた。
「どうしますか、殿下。証拠の書簡がバラバラになってしまいました」
 イルが砕けた書簡を見つめた。
「書簡を拾い集めるんだ。くっつければなんとか証拠になるかもしれないしな。
とにかくザナンザを迎えに行こう!」
「まったく、外伝にまでカイル殿下の邪魔をするとは、
ラムセスめ、とんでもない奴だ」
 キックリはぶつぶつ言いながら丁寧に書簡を拾い集めた。
 二人の従者とカイルは、森の祠へと向かった。


 ザナンザが捕らわれているであろう森の祠についた。
うっそうと茂る森の中に祠は建っており薄暗く気味が悪かった。
 カイルはそうっと祠の中に入った。中も薄暗く、部屋の中央には
ちいさな炎の明かりが灯っていた。その横に白いマントを被ったナキアと
黒いマントを被った神官がいた。神官のほうはマントを深く被っており、顔が見えなかった。
「ようこそ、カイル殿下。約束の物は持ってきてくれたかな」
 カイルは胸を押さえる。
「持ってきたが、まずはザナンザの姿を見てからだ。弟の無事な姿を
見るまでは、書簡は渡さない」
 カイルは強くナキアにいった。
「ふむ、仕方ない。ザナンザ殿下はこの扉の向こうにいる。
無事な姿をご自身の目で確認してくるとよい」
 ナキアは祠の奥の扉を数センチほど開けた。3人は扉に近づきそうっと開ける。
 扉の向こうには、見たこともない世界が広がっていた。
大きなお城にメリーゴーランド、数々のアトラクション、沢山のショッピングセンター。
扉の向こうは東京ディズニーリゾートだったのである。
 カイルと従者二人は扉の向こうの異世界にポカンと口を開けていた。
「あ、兄上〜。兄上もいらしたんだね。この世界面白いよ〜。
兄上も一緒にあそぼーよ♪」
 上機嫌なザナンザが兄にいった。
「ザナンザ、お前大丈夫なのか!?」
「大丈夫って何が? ナキア妃が遊園地に連れて行ってくれるって
ここに連れてきてくれたんだ。楽しいよ〜。あっ、もうこんな時間
スペースマウンテンのファストパス取ってたんだ。じゃあ、またね、兄上!」
 ザナンザは走り去っていってしまった。
「おお、あんなところで馬が回っているではないか。世話をしなくては!」
 馬事調教師の肩書きを持つキックリはメリーゴーランドへ向かっていった。
「ふむふむ、あの建物は何で出来ているのであろう。殿下、御前を失礼いたします」
 イルも自分の興味を持つほうへ消えていってしまった。
「おい、ザナンザ、イル、キックリどこへ行くんだ……」
 カイルが途方に暮れていると、次の瞬間、背後から腕を引っ張られた。
「こんなところにいた!」
 振り返ると、ディズニーランドの係員の名札を付けた女性が立っていた。
「ほら、早くしないとショーが始まっちゃうでしょ!」
 カイルは腕を持たれたまま、ズルズルと引きずられていく。
「な、何だ、一体?」
「何って、ピーターパンのショーに決まってるでしょ。
主役がいなくてどうするの?」
「ピ、ピーターパン? 私はそのうような者ではない。ヒッタイト帝国の
第3皇子、カイルムルシリという者で……」
「あら、王子様役がやりたかったの? それはもう少し大人になってからじゃない?
今、あなたはピーターパンよ。さ、行きましょ♪」
 カイルはショーの会場へズルズルと引きづられて行ってしまった。
 ザナンザもカイルもイルもキックリもまだ若齢。目の前の遊園地に
夢中になり、本来の目的を忘れてしまったのでありました。


おわり


***
相変わらず滅茶苦茶な続きパロになってしまいました。
まあパロなんだし、これでいっか。
天河外伝、夢のようですね。また天河の物語を5年以上もたった今
読めると思っていませんでした。そして続きパロを書くことも…(笑)。
続きも楽しみです!ナキアの陰謀は成功してしまってタワナアンナに
なるという結末は分かっていますが、これからどのように展開していくか
わくわくします。連載時のドキドキ感がまた味わえるなんて、あ〜幸せ♪
時間の許す限り、続きパロもやっていきますのでどうぞよろしく!




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