***24号続き***




 結婚式前日の沐浴。この日はイシュタルが昇り、ユーリを別の世界に飛ばす条件が
揃ってしまう緊張の日であった。何か仕掛けてくると分かりきった状況で、
ナキアが操る”水”の中に入ることは自殺行為。だが、もう逃げることはできない、
ユーリは心を決めて、カイルを信じて泉に足を浸した。
 案の定、水面が渦を巻きブラックホールのような穴があき、ユーリの体を
引き込もうとした。追い討ちをかけるように剣を持ったナキアが飛び出し、
ユーリの腕を支えるカイルを襲ってきた。そこへジュダとルサファが、カイルとユーリを
守ろうと、ナキアの振りかざす剣に向かって飛び込んできた。
 ――次の瞬間、ユーリは強く握り締めるカイルの手から赤い液体が
伝わってくるのを確認した。
 誰かが刺されたんだ! 黒い瞳を見開いた。手を伝わってきた赤い液体が顔にも
飛び散り、偶然ユーリの口の中にも飛び散った。
「あれ? この赤い液体……。あま〜いトマトの味がする……ケチャップだわ!」
 ユーリが舌をペロンと出して口の周りに飛び散った赤い液体をなめると
やはりおいしい味がした。
「おお、懐に入れていたケチャップが飛び散ってしまったか。失敬失敬!」
 ナキアはメロンのような胸の谷間からケチャップを出した。
「母さま! いいかげんにして下さい。もう帝位のことは諦めてください!」
 ケチャップを握り締めるナキアに、真剣な表情で言ったのは彼女の息子ジュダであった。
「何を言う、ジュダ。母さまの夢はお前をジャニーズに入れるか
この国の皇帝になるかのどちらかなんじゃ。ジャニーズは無理そうだから
皇帝になるしかないであろう!」
 元タワナアンナは真剣に息子に言う。
 ジュダは身勝手な考えの母親に情けなくなり、その場に膝をついてガックリとうなだれた。
「母さま……母さま。もうお止めください。僕は……僕は……母さまのこと
大好きなんです。ケチャップと言えば……母さまの作るオムレツはすごく美味しかった。
母さまのオムレツはヒッタイト一、いやオリエント一、いや宇宙一だよ。
スタイルのいい若くて綺麗なお母さんだねって、友達に言われるのが僕の自慢だった。
その自慢の母さまを……失いたくないんだ! お願いだよ。母さま、もう悪いことはやめて!」
 傷のない水晶のような瞳を輝かせて、ヒッタイト帝国の第六皇子は母に訴えた。
汚れのない水晶からはしだいに雫が溢れ始めた。母のために泣いているのである。
「ジュダ……」
 ナキアはケチャップを持つ手を下ろし、世界で一番愛する息子の姿を見た。
「もう一度、もう一度……母さまのオムレツが食べたいよ……」
 ジュダはヒックヒックと肩を震わせていた。水晶のような瞳から溢れ出す涙が
ボロボロと地面に落ちた。
「かわいいジュダ……ワタクシが……ワタクシが悪かった。泣くな……」
 ナキアは涙を流すたった一人の息子に近づき涙をふいてやった。
 感動のシーンをカイルやユーリをはじめ、その他のギャラリーが見守っていた。
最終回間近、ナキアも人間の心を持っているのだと証明できるかもしれない。
これでやっとヒッタイトに平和が訪れるかも……と皆が思った次の瞬間――
「この程度の感動シーンでコミックス27巻分の悪行を貫いてきたワタクシが改心すると思うかぁ!
そぉれ! カイル! ケチャップ攻撃〜!」
 ナキアは手に握っていたケチャップをカイルの顔に向け、チューブを思いっきり
絞り、ケチャップをカイルの顔に思いっきり飛ばした。
「うわああああ」
 ゲチャップは色男の顔に大命中。ケチャップまみれになった皇帝は、思いも寄らぬ
攻撃に、ユーリの手を離して自分の顔を覆ってしまった。
「きゃああああ」
 手を離されたユーリはブラックホールのような泉の中に引き込まれてしまった。
「ユーリ!」
 ケチャップでドロドロの顔をしたカイルは泉に向かって叫んだが、愛する妃の姿は
もう見えなかった。

「あたしはオムレツよりオムライスのほうが好きよっー!」

 泉の底からヒッタイト帝国のタワナアンナとなるはずであるイシュタルの
声が小さく聞こえた。


おわり

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さあさあさあさあ! クライマックスですわねっ!
あの血は誰? あの絵からだと、カイルともジュダともルサファとも
取れますよね。なんだか海闇の最後のシーンを思い出す……。
意表をついてナキアの血だったとか! ジュダが飛び出してきたから
かばって自分に刺しちゃったの……。
なぁんて、たまにはまともに考えてみました(笑)。
篠原先生、お体お大事に。次回作も期待しています。
(って気が早すぎ!爆)


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