2号続き



 ジュダが始末におえない母親を自分の手で葬ろうと剣を向けたが、
ユーリ、カイルの手で阻まれることとなる。元老院はナキアの極刑を望んだが、
カイルとユーリはカルケミシュへの求刑を進言した。
 ナキアには生きて罪を償い、自分のタワナアンナとしての姿を見届けるように……
それがユーリのナキアに対しての刑であった。
 ユーリは神殿の中池で一人物思いにふけっていると、そこへカイルが大切なことを
言ってなかったと近づいてきた。ユーリは明日の結婚式での注意事項を言われると
思いきや、「わたしと結婚してほしい」と告げられた。


***

「わたしと結婚してほしい」
 プロポーズの言葉の言葉の王道をカイルは言った。てっきり明日の
結婚式の注意事項を言われると思っていたユーリは思わずポカンとする。
「うわっ、カイルくっさぁ〜。すっごい臭いプロポーズの言葉。
嬉しいけど臭くてにおってきそうだわ。まるで薔薇のにおいが……」
 ユーリは左右黒い瞳の間に皺をよせて、鼻の前で手をヒラヒラさせた。
せっかくのプロポーズの言葉をはらうつもりはないが、
臭い言葉に思わず顔をしかめた。
「ユーリ、それはないだろう。せっかくプロポーズしたのに!」
「だってぇ、臭いだもん。皇帝なんだからさ、もっと気の利いた言葉
思いつかなかったの? 例えば『私のために毎日味噌汁を作ってください』
とか、『一緒の墓石に入ってください』とか……」
「味噌汁、墓石。そんなものはヒッタイトにはない!」
 カイルは声を高くして怒った。ユーリのプロポーズの言葉のセンスも
どうかと少し考えたくなるが……。
「呼んだか? 呼んだか? 今、薔薇と言わなかったか?」
 2人の鼓膜に聞き覚えのある小さな声が届いた。声のほうを見ると、
両手に薔薇の花を1本づつ持った蜂蜜色の肌をした男が、カイルとユーリを
おずおずと見ながら立っていたのだ。
「きゃー、ラムセス。最後の最後まで何でこんな所に!」
「ユーリは薔薇のにおいが……なんて言うからだ! 衛兵A、B、C、D。
エジプトからのスパイが進入している。ひっとらえろ!」
 カイルはラムセスを捕まえるように命令すると、ユーリを連れて逃げた。
「ねえねえ、一応プロポーズしてくれたんだからさ! 次にやらなきゃ
いけないことがあるのよ!」
 臭いプロポーズの言葉でも、それなりにユーリは嬉しかったようである。
明るい笑顔でカイルの顔を見た。
「なんなのだ?」
「プロポーズの次はやっぱり両親に挨拶でしょ! うちのパパとママに
三つ指ついて『おぢょうさんをください!』って言ってよ!」
 カイルは数秒沈黙する。ユーリの国とやらは魔力を使わなければ行くことが
できないような場所。両親に挨拶したいのは山々だが、どうやって挨拶するのだろうと考えた。
「それは構わないが……、どうやってユーリの両親に会うんだ?」
「この前ね、イル=バーニが、『未来のタワナアンナたるもの、勉学にいそしまなければ
いけません。勉強机を買ってあげますから、机で勉強してください』って
机を買ってくれたのよ!」
 市民の税金がこんなことに使われて……とカイルは思ったが、嬉しそうに話す
ユーリの話を続けて聞いた。
「倹約のために机は中古だったんだけどね、なんとその中古が、ドラえもんの
のび太くんの机だったのよ。机の引き出しがタイムマシーンにつながっていたの!」
 黒い瞳をらんらんと輝かせてカイルに語った。
「ほう……タイムマシーン」
「だからね、挨拶に行くよ!」
 ユーリは強引にカイルの手を引っ張り、自分の部屋に連れ込んだ。中古の机は
ねずみ色をしていて古びていたが、ユーリは机の一番上の大きい引き出しの
中にカイルを詰め込んだ。
「2001年12月22日にレッツゴー!」
 ユーリは元気に右手を上げた。カイルもとんでもない女を嫁にとってしまったと
改めて思った。


 2001年12月22日。
 クリスマス数日前。街には赤や緑のイルミネーションが輝き、様々にアレンジされた
クリスマスソングがあちこちでかかっていた。
「ただいま!」
 古代からのタイムマシーンの脱出先は、ユーリの実家。古代に来る前に使っていた
自分の机であった。
「おおおおお、おねーちゃん。おかえり。久しぶりだね!」
 少コミの最新号をベッドにうつぶせになりながら読んでいた妹の詠美が
久々に見た姉を見て言った。
「ただいま、詠美。ねえ、パパとママはいる?」
「うん、一階にいるよ」
「そう、カイル、行くよ!」
 カイルは初対面の義妹に向かって軽く会釈した。
「パパぁ〜、ママぁ〜。紹介したい人がいるのっー!」
 騒々しく音を立てて階段を駆け下りた。カイルも仕方なくその後に続く。
 クリスマス3連休初日。ユーリの父と母はあったかいコタツに入って
仲良くみかんを食べていたところであった。突然帰ってきた娘に、
日本人特有の黒い瞳を大きく見開く。
「ゆ、夕梨!」
「ただいま! パパ、ママ。あのね、紹介したい人がいるの。カイルよ」
 ユーリはカイルの腕を軽く組んだ。「ほら、早く言って」っと小さな声で
カイルをつついた。
「あ……えっと……」
 カイルはユーリの両親を前に正座をした。ユーリもそれに習う。
ひざの前に3本指を立て、真剣な表情でユーリの育ての親を見つめた。
「お、おぢょうさんをわたしに下さい!」
 よく言った! とユーリは隣で満足そうな顔をした。カイルは緊張して
三つ指を立てて真剣な顔をしたままである。
「ならーん! どこの馬の骨ともわからぬ男に大事な娘をやれるものかーっ!」
 ガラガラガッシャン!
 ユーリの父はオコタを引っくり返して、熊のように暴れ始めた。
「きゃー、パパ。落ち着いてください!」
 妻が興奮する夫を落ち着けようと必死であった。
「ちょっと待って、パパ。カイルはヒッタイトの皇帝よ。身分は保証されてるわよ!」
「ならーん! 見ればお前は外国人ではないか。金髪、堀の深い顔、逞しい体、長い足。
ずん胴短足のっぺり顔の日本人とはちがーう。お前のような気唐に娘はやれーん!」
(注;毛唐 西洋人を卑しめて言った語。三省堂辞林より)
 ガラガラガッシャン。更に父は側にあったゴミ箱を蹴飛ばした。
「パパ、私、皇后になるのよ。玉の輿よ。よく考えて!」
 ユーリはなんとかカイルを認めてもらおうと必死に父を説得する。
「毛唐の嫁など……お前はらしゃめんになるつもりかっ! ゆるさーん!」
(注;らしゃめん 西洋人の妾になった日本の女性を卑しめて言った語。三省堂辞林より)
「パパ、パパ。落ち着いてください。まったく文明開化していないんだから……」
 ユーリの母が必死になだめていた。
「ちょっと待って、パパ。わたしは『らしゃめん』じゃないよ。正妃なんだから……」
「婿が毛唐など認めん!」
「カイルは毛唐じゃないよっ!」
 最初は穏やかだったユーリもあまりに反対する父に怒りを覚えてきた。
「毛唐じゃなかったら名はなんという。日本人なら漢字で苗字と名前があるだろう!」
 父は腕を組み威厳を持った目つきでカイルを睨んだ。
「名前……」
 ユーリは小さく呟く。カイルの名前は、カイル・ムルシリ。ムルシリ2世ともいう。
これでは外国人の名前だといっぺんでわかってしまう。
「えっと……か、彼の名前はね……本名は……」
 ユーリは中学中退の脳みそをフル活動して考えた。数秒の沈黙のあと……
「彼の名前は……古代……古代カイル。いいえ! 『古代蛙』よ。
苗字が『古代』で名前が『蛙』よ♪」
 なんと両生類にされてしまったカイル。これには賢帝と他国に謳われるムルシリ2世も
ビックリである。
「蛙……私の耳にはカイルと聞こえていたがカエル君だったのか……」
 日本人の名前を聞いて少しユーリの父は落ち着いたようであった。
「そうよ、もうパパったら年だから耳が遠くちゃって……カイルは蛙なのよ!」
「ほう……カエル君か……」
 ユーリの父が頷いているところで、母は娘に二階へ行ってなさいと促した。
父は自分が静めるから、自分の部屋でゆっくりするようにと言った。
「じゃあ、カイル……いえ、カエル。二階へ行こう」
 ユーリとカイルは静かに二階へ上がっていった。

「夕梨ってばこんなにカッコイイ彼氏つかまえて! 羨ましいわ!」
 姉の鞠絵が黒い瞳を輝かせて義弟を眺めた。
「ねえ、今度合コンしません? 是非是非!」
 妹が先に嫁に行って複雑な気持ちがあったが、合コンで自分もカッコイイ彼氏を
GETしようという魂胆は丸見えであった。
 そのころ一階では……
「いいじゃありませんか。夕梨が決めてきた相手なんですから……」
 部屋を片付けながら夫をやさしくなだめる。
 ユーリの父も分かってはいるが、娘を他の男にとられるというのは決して
心穏やかではない。妻の言葉に答えず、ぶすっとした表情で新聞を顔の前に広げた。
(でも……夕梨があのカエルという男と結婚したら、子供はさぞかわいい
ハーフの子ができるだろう。芸能界入りして、○ーニング娘。の一員になれるかも……)
 新聞に隠した顔の内側でふとユーリの子供のことを考えた。
「古代蛙。カエルくんか……」
 ユーリの父は新聞の字を目で追いながらポソリと呟いた。


おわり♪

 

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お待たせしました! 今回の続きパロは1日遅れになってしまってすみません。
でも丁寧に? 書いたつもりです。(どこがだよ……ひとりつっこみ・笑)

さすがはユーリちゃん、ヒロインですね。
ナキアには生きて罪を償ってもらう、自分のタワナアンナとしての姿を見届けてもらう。
この生き方を与えてくださってありがとう。
いい台詞でした。
でも……カイルの結婚して欲しい……
うーん。ちょっとくさいと思ったのは私だけ?
ちょいとすべりました。何を今更って感じだけど、ユーリにすればやっぱり嬉しいのかな?
次号は最終回かぁ。終わらないのも困るけど、本当に終わるんだねぇ。
ああ、複雑……。


ちなみに今回のカイルとユーリとアスランの背景は薔薇ですね!
最終回直前までありがとうございます。篠原先生)^o^(




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