***国を翔ける皇帝***


「父上、どうしてあのような女を正妃にしたのです!?」
 ザナンザ皇子の声が 綺麗な花が 季節を問わず咲き乱れ 寒くもない暑くもない
おだやかにときの流れる天国に響き渡った。
「そうです。ザナンザ兄上の言うとうりです。父上、どうしてナキア皇太后なんかを
タワナアンナなどに したのです!おかげで 我が国は滅茶苦茶です!」
 天国の新入り マリ殿下もザナンザ同様、父であるシュッピルリウマに 怒鳴った。
「私なんか ナキア皇太后のせいで この天国に参ったのです。ナキア皇太后の側近ウルヒが
私の胸に 刃を向けたのです。もとから私は 病弱だったので 長生きは出来ぬと覚悟は
していたのですが・・・、ウルヒの手によって殺されるなんてあんまりです。」
 シュッピルリウマの第1子である 前皇帝アルヌワンダ1世が 涙ながらに言った。
「うっ・・・。」
 3人の 我が子に責められシュッピルリウマは たじたじとしている。本当の事だから 
言い返せないところが苦しい。
「父上は 生前、ナキア皇太后がおかしいと気づかなかったのですか?
いくら バビロニアの王女だからと言って あの悪行は度を越えています!」
ザナンザが 困った顔をしているシュッピルリウマに 追い討ちをかけるように怒鳴った。
「本当に 先妻のヒンティ様は 市民のことをよく考えてくださって 大変よいお方でしたのに・・・、
それに比べてナキア皇太后は・・・。シュッピルリウマ様って 女を見る目があるんだか 
ないんだか分かりませんわね。」
元宮廷女官であるウルスラが 身分を越えて 元皇帝であるシュッピルリウマに容赦なく言った。
「そ、そんなに責めるでない・・・。我が息子たち。私とて ナキアの被害者の一人なのだ。
私は 生前、ずっと夜明けのコーヒー・・・じゃなかった 夜明けのワインに薔薇色の水を
混ぜられていたのだ。おかげで あのナキアに私はぞっこんだった。
ナキアの欲しいものは なんでも与えてしまったし、愛しいナキアのすることなら 
何でも許すことが出来た。
 もし私が正気だったら あのような女は いくら 一国の王女であれど 正妃などにはせん!
今 こうして現世をここから見ると いかにナキアが とんでもないことを
してきたのかということは嫌というほど分かる。ナキアの行為は 
私の築き上げてきた国を滅ぼそうとしているのだ!だが 死んでしまっては 現世には手出し出来ない。
この自責の念。我が息子たちよ 分かっておくれ!!!私もナキアの被害者の一人なのだ。」
シュッピルリウマは 3人の息子に手を合わせ懇願した。
黒い水は 飲まされなかったけれど シュッピルリウマは ナキアに操られていると
同じ状態だったのだ。ザナンザ、マリ、アルヌワンダの3人は 初めに父の言い分も聞かず 
少し言いすぎたと反省した。
「そうだったのですか父上。一方的に父上を責めて 申し訳ありませんでした。」
ザナンザが3人を代表するように言った。
「大丈夫ですよ 父上。きっとカイル兄上が なんとかしてくれます。
我がヒッタイト帝国を 戦いのない平和な国にしてくれるはずです。カイル兄上には 
戦いの女神であるイシュタル様もついています。私が ユーリ様に三途の川の前で
こちらに来ないように言いました。きっと カイル兄上とユーリ様とで 
立派な国を お築きになります。」
マリ殿下は 父を励ますように言った。
「そうです。我が国には 時代を超えて来た女神、ユーリがついています。きっと大丈夫ですよ。」
3人の息子たちは 落ち込んでいる父を励ました。
「ありがとう。ザナンザにマリ、アルヌワンダ。そうだな我が国には イシュタルがついている。
きっとエジプトが我が国の領土になる日も 遠くはないだろう。
それに わざわざ時代を超えて来たユーリにも幸せになってもらいたい。(本当に(T_T)BYねね)」
 ナキアを 正妃にしたことに 大変、責任を感じているシュッピルリウマ。
生前 猛将シュッピルリウマと名を 馳せた面影は もはや今の彼には 見えなかった。
「さあ、天国からでは 見ていることしかできないが 我が国の繁栄を祈ろうではないか!
おい、ウルスラ!ワインを持って来い!我が国の発展と向上を願って乾杯だ!」
「それはいいですね。兄上!」
ザナンザは この場を盛り上げようと ワインで乾杯することにした。
ウルスラもいそいそと天国の台所にワインを用意しに行った。
 せっかく 場を盛り上げようとしているザナンザ達の気持ちをよそに 
小ばかにするような口調が シュッピルリウマの耳に飛び込んできた。
「おやおや、オリエントの一等国となったヒッタイト帝国の皇帝が 自分の子に対して 
なんという姿であろう。なさけないのう シュッピルリウマ。わっはっは。」
 声の主は 元ミタンニ帝国の王であるトウッシュラッタ。今の会話をずっと聞かれていたようである。
「お、おまえは 我が永遠のライバル!トウッシュラッタではないか!」
嫌なところを 見られたなと しばし困った顔をしているシュッピルリウマ。
彼にとって一番嫌な奴に自分の落ち度を聞かれてしまった。
「女を見る目がない 皇帝などクズじゃ。ヒッタイト帝国が 滅びるのも
そう遠くない未来かもしれんな。はっはっは!愉快、愉快。」
元ミタンニ帝国、トウッシュラッタ王は 長年のライバルであるシュッピルリウマの弱点を
見つけて嬉しそうだった。
「なんだと!トウッシュラッタ!!!所詮ミタンニは 我が国に滅ぼされたのじゃ!
貴様とて 最期は部下に裏切られ殺されたのではないか!貴様にそのようなこと 言われる覚えはない!」
シュッピルリウマも負けずと言い返した。
「な〜ん〜だ〜とォ〜、そこまで言うなら戦いじゃ!シュッピルリウマ!
すぐに戦いの用意をしろ!!!」
「望むところだ!今日こそ決着をつけてやる!!!」
 な、なんと天国にきてまで 戦争か? 元ヒッタイト帝国皇帝と元ミタンニ帝国皇帝は
場所もわきまえずとんでもない事をしようとしている。
「おやめください。父上!ここは天国です。血など流してはいけません。」
ザナンザは必死に止めに入った。
「止めるでない!ザナンザ!!!奴とは 決着をつけねばならぬと思っていたのじゃ!」
 ザナンザが 止めるのも聞かず 2人の怒りは治まらなかった。
 平和の象徴である天国でとうとう戦争が?!本当に起こってしまうのか?

「よし!麻雀台を持って来い!すぐに国を駆けての 賭け麻雀じゃ!!!」
「メンバーが足りないのう。おい!そこのエジプト王 ツタンカーメン!
エジプト代表としてメンバーに入るのじゃ!」
トウッシュラッタ王が 若くして亡くなったツタンカーメン王を 麻雀のメンバーに誘った。
「これでも一人足りないぞ。もう一人だれか おらぬか?」
シュッピルリウマは キョロキョロと天国全体を見渡した。
「ワタクシが メンバーに入りますわ。」
身分の高そうな かつ 何人(なんびと)も逆らううことは許さぬと言わんばかりの 
元バビロニア帝国王女イシン=サウラが 麻雀のメンバーの最後の一人に立候補した。
「ワタクシが バビロニアの代表として 参加致しますわ。絶対に負けなくってよ。」
長い髪を 一つに縛り ヒラヒラとしたドレスの袖を捲り上げ 
イシン=サウラは やる気満々である。
 ジャラジャラジャラ。天国に 麻雀のパイをジャラジャラとかき混ぜる 音が響き渡った。
 戦争かと、また血が流れるのかと心配した ザナンザ達は 今 目の前で起こっていることに
呆然としている。戦いとは...、麻雀だったのか・・・?
「・・・・・・確かに・・・血は流れないわね・・・。」
ワインを持った ウルスラがボソッと言った。
「おお、ウルスラ 良いところにワインを!これ こちらへ来て酌をせい!」
シュッピリリウマは ウルスラに お酌をするように命令した。
「ワインだけでは物足りないな!柿の種に 日本酒も用意しろ!」

こうして 今日も一日 天国は穏やかにときが流れましたとさっ♪