***七夕まつり***
7月7日、七夕祭り。
古代ヒッタイトでも、七夕祭りはあったのだ。
一年に一度だけ出会える織姫とひこ星をお祝いしているのである。
「年に一度だけ、天の川をはさんだ恋人同士が会うことが出来る……。
なんてロマンチックなの! まるで私とカイルみたい! きゃー」
おノロケユーリが夜空に輝く天の川を見つめながら騒いでいた。
3姉妹はそんなユーリを温かい目で見守っていた。
「そうだ! 七夕飾りの笹の葉につける短冊を作らなくっちゃ!
ハディ、短冊持ってきて!」
「はい、かしこまりました」
ハディは薄いピンク色の綺麗な短冊をユーリの前に用意した。
一緒に筆と墨も。短冊にはもちろん筆である。
「ユーリ様、お願い事は何て書きますの?」
シャラが、ユーリの書こうとしている短冊を覗きこんだ。
「ダメっ! 見ないで!」
ユーリは自分の書いた短冊を凄まじい勢いで隠した。
「す、すみません。お願い事なんて、他の者に見せたくありませんよね。申し訳ありません!」
シャラはビックリして謝る。ユーリもちょっときつく言いすぎたと思いシャラに謝った。
ユーリはこそこそと短冊に願い事を書き、王宮の大広間に飾ってある大きな笹に短冊をくくりつけた。
願い事をつけおわると、手を合わせて静かにユーリは祈っていた。
それから暫くすると、カイルに呼ばれ、ユーリは笹の前から下がってしまった。
「ねえ、ユーリ様のお願い事って何なのかしら? あんなに必死に隠して……」
「おおかた『カイルといつまでもラブラブでいられますように』じゃないの?
まったく…、このくそ熱いのにベタベタされても目障りなのよねー」
と未だフリーなシャラ。
「ユーリ様の短冊探してみない? カイル陛下に呼ばれているんですもの。
暫くは戻ってこないでしょ。何を書いたのか、興味あるわよね」
3姉妹はユーリの短冊を探し始めた。
短冊の中には……
『給料上がれ!』
『残業つけろ!』
『ボーナス3ヶ月分』
『週休2日!』
etc……。
ヒッタイト王宮の職員の待遇は悪いと思われる…(笑)
何枚かの短冊を見ているうちに……。
「あった! ユーリ様の短冊!」
リュイが声を上げた。
「どれどれ?」
シャラとハディが見つけた短冊に寄って来た。
短冊には……、
『身長が伸びますように』
と小さな文字で書いてあった。
てっきりカイルとラブラブでいられますように…と書いてあるものだとばっかり思っていた
3姉妹は拍子抜けである。
「……、やっぱりユーリ様…背がお小さいことお気になさってるのね…」
「でも、ユーリ様って、17、8歳よね。そろそろ成長とまるんじゃ……」
3姉妹は顔を見合わせる。
「ちょっと待って!」
リュイが叫ぶ。
「裏にも何か書いてある!」
短冊を裏返すと、表に書いてあった文字よりもっと小さな字で
『胸が大きくなりますように』
と書いてあった。
「あらー、見てはいけない短冊を……」
とハディが気まずそうに言った。
「背が小さくても、胸が大きくなくても、皇帝陛下みたいにカッコイイ人に想われてるなら
それで充分じゃない! 贅沢な悩みだわっ!」
しつこいようだが、リュイに先を越されたシャラがプリプリ怒りながら言った。
「さあ、そろそろ仕事にもどりましょう! ユーリ様の短冊を盗み見ていたことがバレたら大変だわ!
今のは見なかったことに…。いいわね双子達っ!」
「はい! 姉さん!」
3姉妹はそれぞれの仕事に戻った。
七夕の夜、大きな笹の葉は夜空高くかかげられた。ネオンも蛍光灯もない古代の空には
無数の星が輝いている。地上の赤い河、空の天の河が平行するように流れていた。
輝く水のように瞬いている天の川に、短冊に込められた願いは、そのまま吸い込まれて行くかのようだった。
ユーリの願いも、王宮勤めの職員の願いも、きっと叶えてくれるだろう。
七夕の夜があけた次の日。
大きな笹の葉は処分するために、王宮の焼却炉に持って行かれた。
ここで一つ、毎年奇妙なことが起こるのだ。王宮の焼却炉に処分するための笹を持って行くと、
いつのまにやら笹の葉がなくなっているのだ。もともと捨てるものだから、あまり気には止められて
いないが、毎年、七夕が終わると忽然と消えるのである。
今年も、みんなの願いをつけたままの笹の葉は焼却炉に持っていかれた。
用のない笹の葉はただ静かに処分されるのを待っているかのようだった。
―――そこへ、
毎年のように、ほうってある笹の葉に忍び寄る一つの影があった。その影のシルエットは
ゴツイカラダにスキンヘッド……。もうおわかりであろう! ミッタンナムワである。
ミッタンナムワは七夕を楽しみにしていた。何故かと言うと、ミッタンナムワの本当の正体は
パンダだったからである! 人間のミッタンナムワは仮の姿。本当は中国の山奥出身のパンダだったのだ!
魔術にかけられ、古代ヒッタイトに、人間の姿で何物かに飛ばされてしまったのである。
パンダといえば笹の葉。七夕はミッタンナムワにとって、大好物の笹が食べられる唯一のご馳走の日だ。
織姫とひこ星が一年に一度会う喜びと同じくらい、笹の葉を食べることの出来る喜びは、
彼にとっては深かった。
笹の葉に忍び寄って、人間の姿から、もとのパンダの姿に戻ってミッタンナムワは笹の葉をむしゃむしゃ食べていた。
―――そこへ、
「短冊、短冊! 笹を処分するときに、あのお願いを見られたらやっぱり恥ずかしいわ!
私の短冊だけ外しておこう!」
ユーリが笹の葉のおいてある焼却炉に来てしまったのである!
パンダとユーリのご対面。双方とも、驚きのあまり硬直してしまった!
「きゃあああああ!」
その硬直を破ったのはユーリである。いるはずのないパンダに驚き悲鳴を上げ、気絶してしまった。
ヤバイと思い、急いで残った笹をたいらげて、もとの人間の姿に戻った。
悲鳴を聞きつけて、衛兵がやってきた。
「大丈夫ですか? ユーリ様?」
ミッタンナムワは衛兵に混じり、ユーリを助けるふりをした。
「ユーリ!」
かけつけたカイルがユーリを揺さぶった。するとユーリはうっすら目を開けた。
「大丈夫か? ユーリ! 何があったんだ?」
「カ、カイル! パンダが…パンダが笹を食べてたのよー!」
「は?」
カイルをはじめ、衛兵達もあっけに取られた。
「パンダ? こんなところにいるわけないだろう? 上野動物園に行きたいのか? ユーリ?」
「違うのー! 本当にパンダがいたのよー!」
ユーリが叫んでも誰も信じはしない。大方、夢でも見たと思われてしまったらしい。
騒ぎも収まり、みんな仕事に戻ろうとしたとき……、
「ミッタンナムワ、目の回りが黒いぞ! 喧嘩でもして殴られたのか?」
カイルがミッタンナムワに向かって言った。
パンダから人間の姿に戻るとき、戻りきれなくて黒いパンダ斑点?が、
目の回りに残ってしまったのであった……。
「えっ…、いや、はい。ちょっと……」
たどたど答えるミッタンナムワ。ドキリとしたが、今年も笹を食べることが出来て満足したようである。
♪おわり