***大掃除***
「年末、年の瀬、大掃除。一年の埃を綺麗にお掃除してから新年を迎えましょう!」
宮廷女官庁ハディの一声。ヒッタイト王宮では年に一回の大掃除が行なわれようとしていた。
貴族も、平民も、皇帝も、正妃も、側室も、召使も関係ない。
自分の埃は自分で始末。各自の部屋は自身で大掃除することになっていた。
「ふん、大掃除など、普段からきれいに整理整頓している私にとっては
関係ありませんね」
ツーンとした表情のイル=バーニには大掃除などという単語とは無縁のようである。
「こっちはリュイからのラブレター、こっちはシャラからのラブレター」
両手に花のキックリは頬にあるそばかすを歪ませ、ニタニタしながら
双子から貰った愛の書簡の整理をしていた。
「おっと、2人の花嫁を向かえる準備もしなくては! 忙しい、忙しい!」
幸せいっぱいのキックリは、双子のために一生懸命であった。
「うへー、年に一回の大掃除かぁ、面倒くさいなぁ。俺、掃除なんてしたことないからなぁ」
食べかす、食い散らかし、物が床に散乱。足の踏み場もばいくらいにミッタンナムワの部屋は
散らかっていた。
「あー、でも、掃除なんて年末の大掃除くらいしかしないから、ここはちゃんと
やらなきゃなぁ」
去年の大掃除以来、一度も掃除をしていないミッタンナムワはごみっための部屋を
渡した。
「どこから片付けようか……」
あまりの散らかりように、どこから手をつけたらよいか分からず、呆然と立ちすくむ
ミッタンナムワであった。
「大掃除か、まあ、俺の部屋は割ときれいだから、これといって力を入れて
掃除する必要もないな」
男の独り暮しの部屋にしてはかなりきれい。ごみも散らかっていない。
机の上も整理整頓。壁にはぴしっと貼られたたくさんのポスター。
本棚にはきれいに本が並び、その上にはプラモデルがたくさん並んでいる。
カッシュの部屋であった。
「あっ、でも、俺のコレクション。戦車のポスターやプラモデルの整理でもするか!」
戦車隊長であるカッシュは、大の戦車好き。年代モノの戦車のポスターや
プラモデルが部屋にはたくさん並べられていた。
「うーん、壁にもう一枚ポスターを貼りたいけど、貼るスペースがないなぁ、
ウルスラのポスターをとるか……」
そう言うや否や、部屋の中で一番大きな美女ウルスラのポスターが、ギロッと
怖い目でカッシュを睨みつけた。
「う、嘘だよ、ウルスラ。まだ、愛してるよ」
そうカッシュが言うと、ニッコリポスターは微笑み。モナリザ顔負けの美しさを
部屋中に振りまいているのであった。
「大掃除! よーし、これを機に20世紀から持ってきた数学のテストを
捨てよう!」
ユーリは、15点、20点、35点と書かれた答案を大掃除のゴミにまみれて
捨てようとしていた。
「フフフ。古代に捨てておけば、20世紀のママにもばれるわけがないわよね。
よかった!」
(ユーリの捨てた答案が、後世、発掘されたら面白いのになぁと思う
ねねであります・笑)
「おーい、キックリ、大掃除をするから手伝ってくれー」
自分の掃除に大忙しのキックリも、皇帝陛下の命令とあっては逆らうわけにはいかない。
「まったく……、自分の掃除は自分でと言われたのに……」
ブツクサとキックリが言うのも尤もである。
「何か言ったか? キックリ?」
「いいえぇ」
ニッコリ糸目スマイル。
「過去の清算だ。各国の姫君、国内の貴族や姫君たちから貰った求婚の書簡を
片付けたいんだ。ユーリを正妃に迎えることだしな! ははは!」
カイルは今まで貰った書簡をすべて処分することから始めるようだ。
「そうだな、4トントラックを3台くらいで足りるかな? キックリ、トラックの
手配をしてくれ!」
「はい、かしこまりました」
4トントラックは宮廷内に入ってきた。トラックは書簡でいっぱいになり、
ヒッタイト夢の島に向かって去って行った。
「ふっ、もてる男は罪だなっ!」
カイルのナルシストぶりは、来年にも持ち越されそうである。
「今年も終わりかぁ、今年もあまり私の心の変化はなかったな……」
寂しそうに言うのは副近衛隊長のルサファ。
「私の想いはまだまだ募るばかり。想っても決して報われない恋。報われてはいけない恋。
この恋心を粘土版に書きとめると……」
カイルへの求婚の書簡の数と肩を並べるくらい、ユーリへの想いを綴るルサファの
粘土版は凄まじい量であった。
「この粘土版を整理すればいいと思うのだけれども、この想いを捨てるなんてできない!」
ルサファの大掃除は今年も前途が難をするようである。
「おそうじ、おそうじ。いつもカイルさまやユーリさまのお世話しているから、
自分のことが、なおざりになっちゃうのよね」
そう言うのは宮廷一しっかりもののハディ。
「さあさあ、はやく片付けてしまいましょう! あら、私が小学校のときに読んだ
ベルバラだわ。懐かしい……」
ハディは小学校のころ、夢中になって読んだベルサイユの薔薇のコミックスを
本棚の奥底から見つけた。あまりの懐かしさに想わず読みふけってしまう。
「はっ! 懐かしさに読みふけってしまったわ! 早く掃除にとりかからなきゃ!
ん? あら、アルバムだわ。まあ、懐かしい!」
今度は小さい頃のアルバムを見つけてしまった。
「リュイもシャラもティトもこんなに小さかったのよねぇ」
可愛らしい妹や弟に頬の筋肉もゆるんでしまう。
「はっ! またもやアルバムに気をとられてしまったわ! お掃除、お掃除!」
我に返り、掃除に取り掛かるハディ。
「まあ! 小さい頃つけていた日記帳! なくしたと思ったら、こんなところにあったのね。
懐かしいわぁ〜」
どうやらハディの大掃除は寄り道ばかりして前進していないようである。
赤い河を超えて、アナトリア平原を超えたエジプト、ラムセス家。
「おおっそうじっだぜィ〜。いらないものはさっさと片付け、きれいさっぱり行こうぜィ〜」
歌いながら掃除をするのはエジプト薔薇将軍ラムセスであった。
「一番いらないものは、ホレムヘブ王〜♪」
そんな冗談を言いながら、掃除をしているふりをするラムセス。
どうやら彼は、掃除をしたくないらしい。
「一番いらないものは、兄さまの部屋にある薔薇でしょ!」
ネフェルトが、掃除をサボっているラムセスの頭をホウキでバシッと叩いた。
あなたはもう、大掃除はすみました?(笑)