***のぞき穴***

 

ここは、丘の上に建つ天河高等学校。天河のキャラ、カイル、ユーリ、ラムセスを始め、
その他脇役キャラが通う現代版の高等学校である。
 この春、生徒会の総選挙が行なわれる。生徒会長に立候補しているのは、
ヒッタイト在住カイル=ムルシリと、エジプト在住ウセル=ラムセス。
どちらも校内で大人気。カイルの利発さと真面目さは、乙女の心をしっかりとつかみ、
ラムセスの逞しさと活発さは、女心をくすぐるものであった。
「ふふふ〜♪ 会長選挙は俺のものだな! この頃出番も多いし、俺様の株は急上昇!
会長当選間違いなしだな〜♪」
 確かにそうだった。
 今、本誌はエジプト編。カイルは1コマも出てこないくらいの出番のなさ。
ヒーローの座をラムセスに奪われつつあるカイルであった。
 学ラン姿のラムセスは、つぶした鞄を右肩に背負うようにして校門を出ようとした……
そのとき―――
 校門に続く壁に小さな小さな穴を見つけた。穴のところには張り紙がしてあった。

『これはのぞき穴です。のぞかないで下さい』
 
 こう書いてあった。
「のぞくなって…。のぞき穴と書いてあるのに、のぞくなとは一体どんな……?」
 ラムセスは好奇心をくすぐられた。やるなと言われるとやってみたくなるが人間の真理。
 そうっと、のぞき穴に左右違う輝きの持つ瞳を穴に近づけた。
『バチっ』
 穴は急に光りを放った。
「な、なんだ! 今の光は!」
 ラムセスは、眩しさのあまり目を瞑った。暫くしてから再び穴を覗いてみると…
 ―――何も見えなかった。真っ暗だったのである。
「なんだ、下らん! ユーリが風呂にでも入ってるのかと思ったのに…」
 ラムセスは少しむっとした顔で、のぞき穴を後にした。

 次の日―――
 ラムセスはいつものように学校に行った。
生徒会長となるからには、遅刻もしていられまい。ラムセスは登校するみんなの群れに流れつつ
校門に入っていった。
「クスクスクス」
 小さな笑い声が四方八方から聞こえてくる。なんだか視線も浴びているようだ。
「おっ! 朝から俺の美貌に見とれている奴がいるな! 色男も辛いぜ!」
 ラムセスは上機嫌だった。
 校門から昇降口まで来ると、人だかりがあった。皆、学校で一番大きな掲示板の前に集まっている。
「なんだ? なんだ?」
 そう思いつつ彼は、人だかりを押しのけた。

 ―――『これが本当のラムセスの姿』
 こうタイトルがあった。なんと、のぞき穴を覗いている。無様なラムセスのドアップ写真が
掲示板に貼ってあったのだ!

これが本当のラムセスだ!


けいこさん作


「クスクス、いやねぇ、なにこの顔」
「色男だと思っていたのに。これじゃ、三枚目ね」
「のぞき穴をのぞくなんて…。そんな人に生徒会長は任せられないわね」
 そう囁く声がラムセスに聞こえた。

 のぞき穴はカイルの陰謀。出番の少ないカイルは、少々小癪な手を使って、
ラムセスを蹴落とそうとしていたのだ。