***ヒッタイト七福神参り***


 2000年元旦、ユーリが公園の水溜りから消えて、5年の月日が経っていた。
今年も、一人寂しく、正月を迎えた氷室君。彼は、悲しくも、ユーリの
ことがまだ忘れられない…。氷室君は、初詣を兼ねて、ユーリが無事戻ってくるよう、
七福神参りをすることにした。
 七福神参り。近所の七つの神社に壽老人、毘沙門天、大黒天、福老壽、弁財天、
恵比寿天、布袋尊の七つの神がそれぞれ祭られてある。一つ、一つ、神社を回り、
色紙に、そのご朱印を集めるものだ。
 氷室君は、朝5時に起きて、初日の出を見ながらご朱印集めに走り回った。
ユーリが無事帰ってくるのを願いながら…。だが、2000年の今では、
ユーリはすっかり、赤い河の土の下で、カイルと仲良く眠っているだろう。
氷室君の願いは、無駄なものだった…。
 しかし…、ユーリや、カイルは正月ということもあり、日本の七福神に生まれ変わって? 
いたのだった。毘沙門天カイル、弁財天ユーリ、福老壽イル=バーニ、大黒天ルサファ、
恵比寿天カッシュ、布袋尊ミッタンナムワ、壽老人アイギルと…。
氷室君のあつめたご朱印は、ユーリそのもの…天河キャラそのものだったのである。
 そんなことも知らない氷室君。その夜は、いい初夢を見ようと、早くに布団に入った。

 草木も眠る牛三つ時…、七福神の色紙がカタリと動いた。
「おい、毘沙門天は俺だ! そこをどけ! ムルシリ!」
「何を言うラムセス! この七福神は『ヒッタイト七福神』。エジプト人の
お前がなんで、ここにいるんだ!」
「いや、ヒッタイトだろうが、エジプトだろうが、武力の神である毘沙門天が
似合うのはこの俺様しかいない! 甲ちゅうを身に着け、右手に宝棒、左手には宝塔。バックには
薔薇じゃないのはさみしいが、炎をメラメラ背負っている毘沙門天が似合うのは俺しかいない!」
「冗談じゃない! さっさと国に帰れ!」
「自分の居場所がなくなるのが寂しいのか? ムルシリ? 
仕方ない…、お前はこの毘沙門天様が踏みつけている邪鬼にでもなってもらおうか!」
「なんだと! まだファラオでもないくせに生意気な! 剣を抜け!」
「望むところだ!」
 色男二人の毘沙門天の座を賭けての勝負が始まった。
「あーあ、何千年経っても、カイルもラムセスも変らないのねー。いやになっちゃうわー」
 そう言うのは弁財天ユーリ。着物の袖をたくし上げ、琵琶を片手に立膝をついて
かったるそうにしていた。
「まったく! 進歩ってものがないわよねー。そう思わない? 福老壽イル=バーニ」
「ごもっともです。ユーリ弁財天様」
「まあまあ、カイル陛下とラムセス将軍はいつものことですから、ほうっておいて、
この恵比寿天カッシュのエビスビールでもどうぞ」
 恵比寿天カッシュは、ユーリにビールをついだ。
「ありがと。恵比寿天カッシュ」
「あーうまい!」
 そう、言ったのは、布袋尊ミッタンナムワである。
「おい、布袋尊ミッタンナムワ。そんなにビールばっかり飲むと、また太るぞ」
 大黒天ルサファが心配そうに言った。
「いいんだいいんだ。布袋尊とは、太鼓腹に大きな布袋を背負って放浪する
幸運の神だ。弥勒の化身とも言われるんだぞ!」
 ミッタンナムワはお構いなしに、恵比寿天カッシュのついだビールをグビグビ飲んでいた。
「ほんとね。布袋尊はミッタンナムワにぴったりね」
 弁財天ユーリは納得した。
「おい、そこの小娘! その座をどくのじゃ!」
 ユーリは後ろから頭を小突かれた。
 振り向くと、ナキアが立っていた。
「お主に弁財天は似合わぬ。どくのじゃ!」
「いやよ! この七福神の中の紅一点、譲らないわ!」
「お主は、もとは『愛と豊穣の神イシュタル』だろう。それなら
商人には商売繁盛、農民には田の神である大黒天のほうが似合いじゃ!
大黒天になれ!」
「いやよ! 私に頭巾かぶって、小づち持って、米俵の上に立てっていうの?
ナキア皇太后こそ、毘沙門天が踏みつけている邪鬼になればいいのよ!」
「なんだと! このワタクシに向かって無礼な! 許さぬ!」
「許せないのはこっちの台詞よ!」
 ユーリとナキアは、弁財天の座をかけて、取っ組み合いの喧嘩が始まってしまった。
「おやめください。ユーリ様、ナキア皇太后。それにカイル陛下にラムセス将軍も
どうか、気をお静かに…!」
 今回初めての発言の、壽老人アイギルが言った。
「止めても無駄ですよ。壽老人アイギル議長」
 すべてを悟ったように、福老壽イル=バーニが言った。
「氷室とやらは、良く眠ってるな………、幸せだよな……」
 3隊長は、すやすやと心地良く眠る氷室をみて言った。

 次の日、氷室は心地よい朝を迎えた。
 氷室はカーテンを開けると、眩しい朝日が部屋に入りこんできた。
肌を突き刺す空気は冷たかったけど澄んだ、冷たい空気が頭にヒヤリとして、一気に目が覚めた。
 氷室は部屋を見まわすと、七福神参りをした色紙が、目に付いた。
手に取ってみると、せっかく集めたご朱印のインクは滲み、どれがどの神様だか
見分けのつかない状態となっていた。ボロボロになった色紙を胸に、
氷室は正月早々、縁起が悪いと感じた。


♪終わり


はっ! オチが縁起悪いわ! 新年なのに…。ゴメンナサイm(__)m
どうぞ、今年もねね'S わーるどをよろしくおねがいします。

参考文献:NAVIX大辞典(講談社)