***うさぎ(ラムセス)とカメ(カイル)編***
むかし、むかし、おおむかし。どのくらい昔かと言うと、ピラミッド建設を一生懸命
やっていたくらいのおおむかし。ヒッタイト出身のカメとエジプト出身のうさぎがおりました。
カメの名前はカイル。うさぎの名前はラムセス。
カメカイルは、慎重、正確、温厚篤実、物事を一つずつ丁寧に見つめ、あらゆる動物?
から信頼を受ける性格でした。
うさぎラムセスは、気分や、せっかち、落ち着きがない、人のものをすぐ欲しがる……、
というように、あまり信頼はされない破天荒な性格でした。
この性格の違う2匹が一緒にいるとなっては……、気があうわけがありません。
毎日毎日、喧嘩ばかりです。そんなある日、ラムセスは……、
「まったく、いつもいつも、むかつく奴だな! よーし、あの山のてっぺんまで競争しようぜ!
勝った方が、次の少コミ発売日(←何故?・笑)まで言うことを聞くって言うのはどうだ?」
ラムセスから、喧嘩をふっかけられて、黙っているカイルではありません。
「望むところだ! 受けて立つぞ!」
売り言葉に買い言葉、カイルとラムセスは競争することになってしまいました。
しかし、困ったことにカイル。足に自身はありません。だって、今はカメなんですもの。
ピョンピョン飛び跳ねるうさぎに敵うわけがありません。
(これはラムセスにしてやられたか……)
あとから、自分の形勢不利に気づきましたが、不戦勝なんてカイルのプライドが許しません。
『有能な将は少数の兵を補う』の言葉のようにやってみようではありませんか!
(↑かなり意味が違うのでは……)
競争の当日。カイルとラムセスはスタートラインに立ちました。
両者とも、緊張した面持ちです。カイルやラムセスの側近達も応援しています。
審判イル=バーニは、『パァ〜ン』とピストルを鳴らしました。
「おっ先にィ〜」
ラムセスはピョンピョン跳ねながら、どんどん先に行ってしまいました。
「くそう!」
カイルは悔しがりましたが、四つの短い足をなるだけ早く動かそうと、必死に歩いて……、
いや、走っていました。
「へへん! カメに勝つなんてちょろいもんさ! 俺様のマイケルジョンソンの足に敵うわけがないだろ!」
ラムセスは得意気です。いつも負けを見ているムルシリに勝てると思うと、嬉しくてたまりません。
しばらくすると……、
木陰でリスが寝ているのをラムセスは発見しました。小柄でかわいらしいリスです。
「リスさんリスさん、こんなところで何をしているんだい? 気分でも悪いのかい?」
余裕のあるラムセスはリスに話しかけました。
「ん…、ふぁ〜あ、よく寝た。なあに? 寝ていただけよ」
リスは眼を開き起きあがりました。
「あなただあれ?」
リスはクリクリした大きな黒い瞳でラムセスを見つめました。
たちまちラムセスのハートは早くなるのを感じました。
「お、俺はラムセス。君かわいいね。名前は?」
好みの子を見つけると、すぐにナンパをしたくなるのはラムセスの悪い癖です。
「ユーリ」
「かわいい名前だね。どこに住んでるの?」
「うーん、今はこの近くに住んでるんだけど、本当の家はずっとずっと遠い所にあるの」
「そうなんだ。好きな食べ物は?」
「ナツメのハチミツ漬け!」
ユーリは元気に答えた。
「ナツメか。ナツメヤシの木がたくさん俺の家に生えてるから、こんど沢山ご馳走してあげるよ」
「本当? ユーリ嬉しい!」
「どんなタイプが好み?」
ラムセスはドキドキしながら聞きました。
「うーんとね。腹筋が割れてて、太ももとうなじがセクシーな人!(←注;カイル)」
(腹筋…、一応割れてる。太もも、うなじ、多分セクシーだろう。もしかして俺みたいのが好みか?)
ラムセスは嬉しくなりました。
最後の重大な質問です。
「ユ、ユーリちゃん。彼氏いるの……?」
思わずどもってしまいます。
「いないよ」
ユーリは即行、即答しました。
「本当?」
「うん」
「じゃ、じゃあ、俺が立候補してもいいかな?」
ラムセスは胸を高鳴らせます。
「えー」
「だって、俺は腹筋割れてるし、うなじも太もものセクシーだぜ!」
「う……ん、それはそうかもしれないけど。あとね、頭のいい人が好きなの!
ここで目をつぶって、掛け算九九を全部言ってみて! 側で聞いてるから!
「そんなのお安い御用さ! 1×1が1、1×2が2…………」
ラムセスは目をつぶったまま、掛け算九九を言い始めました。
1の段から、9の段まで……。
「……9×9が81! 終わった! 言えたぞ、ユーリちゃん。これで付き合ってくれるんだよね?」
かなり時間がかかりました。実を言うとラムセスは掛け算九九うろ覚えのようです。
ラムセスは目を開けました。
―――が、ユーリの姿はありません。
「あれ? ユーリちゃん?」
キョロキョロ見まわしても、どこにもいません。
そこでやっと、ラムセスはカイルと競争中だということを気づきました。
「いけない! こんなところで無駄な時間を過ごしてしまった!」
ラムセスは焦ってゴールに向かいました。
しかし、ゴールには既にカイルの姿が……。
ラムセスが掛け算九九を言っている間にゴールしてしまったのです。
「ははは、ラムセス、私の勝ちだな!」
カイルは得意気です。短い足ですが……。
「よかったね。カイル」
そう言ったのは、なんとあの、ユーリというリスではありませんか!
ユーリはカイルと仲良く腕を組んでいます。
「ユーリちゃん、彼氏いないっていったじゃないか!」
ラムセスは勝敗はそっちのけで、ユーリに言いました。
「彼氏はいないけど、旦那はいるのよー」
ユーリはアッカンベーをしました。
「くぅぅぅぅぅぅ。もしあのとき、7の段でつっかえていなければ勝てたかもしれないのに!」
ラムセスの負けの原因は掛け算九九のせいなのでしょうか?
それとも惚れっぽいナンパな性格のせいでしょうか?
とにかく、ラムセスの足を止める策を練ったカイルの勝ちです。
教訓『終わりよければすべてよし! 例えカイルの足が短くとも勝ちは勝ちです・笑』
♪おわり