新世紀の夢〜ぴかぴかシリーズ


 3学期が始まって、間もないある日、カイル達の先生が言った。
「今年は21世紀になった年なので、新しい世紀つまりみなさんの
未来の夢を書いてみましょう」
 去年21世紀に大騒ぎした彼らの熱は、もう冷めてしまっているが
子ども達はあれこれ思い描く夢があるようだ。
「先生、質問です」
 やはりイル・バーニであった。
「将来の夢でなくても、今考えてる夢でもいいですか?」
 彼は常に前向きである。
「もちろんです。どんなに小さい夢でもいいから考えてみてください。
21世紀はあなた達が作るのよ」
 すると教室にざわめきが起こった。
「じゃあ先生、宿題なくなるといいな……とかでもいい?」
 またすかさず答えるラムセスであった。
「ラムセス君! それはちょっと……自分のことで考えましょうね」
 先生は眉をひそめた。
『全くこいつは! 21世紀になっても変わりばえしないんだから!』
 と先生は言いたげであった。

 いよいよ書く段になった。みんなあれこれ考えているようである。
ラムセスはひょいと隣のカイルの紙をのぞいた。
「おいムルシリ! 何書いてるんだ? 見せろよ。一緒に△取った仲じゃないか」
 すると、さっと自分のを隠してカイルが言った。
「うるさいぞラムセス! あれは思い出したくないんだ。
何でお前に見せなきゃならないんだよ!」
「ちぇケチ! いいもんねぇ他の奴らの見に行こっと」
 ラムセスは自分の席から立ち上がり歩き始めた。まず目についたのは
何かと標的にしやすい? キックリである。
「なになに? 自分の意見をはっきり言えるように…… 」
 と、ラムセスが大声で読み上げた途端キックリが慌てて隠した。
と同時に先生の怒り声が飛んだ。
「ラムセスくん! 立ち歩きするんじゃありません。自分のを書いてしまいなさい!」
 他にも夢を書き上げた紙に不気味な色で色塗りをしているウルヒや、
ナキアも注意を受けた。新世紀なのにあまりにも暗くて嫌な色使いを
していたせいらしい。21世紀になっても彼らの担任は苦労することであろう(合掌)

 さてカイル達が考えた21世紀の夢は廊下の掲示板にはりだされた。
彼らの夢は次の通りである。


<新世紀の夢>

カイル 会社の社長になって国の役にたつ人間になりたい。
ユーリ スポーツ選手になってオリンピックに出たい。
ラムセス 新種の薔薇を作り薔薇御殿に住みたい。
キックリ 自分の意見がはっきり言えるようになりたい。
ハディ 家事全般がこなせるようになりたい。
ミッタンナムワ 腹いっぱいうまいものが食いたい。
イル・バーニ 学者になるか自分の図書館を作りたい。
カッシュ 金持ちになって美人のお嫁さんが欲しい。
ルサファ 好きな女の子のそばにずっといたい。
ナキア 新種の色水や、自分の思い通りになる薬を作りたい。
ウルヒ 世界を裏から操りたい。



 ……というような夢であった。
 貼られるとみんな大騒ぎをして友達の夢について語り合った。
「何だよ! ルサファやキックリの夢なんてすぐにかなうようなもの
じゃないか? キックリのは、がんばればすぐにできるし、ルサファは
結婚とか書いてないから今だってかなうんじゃないか?」
 そういう奴もいたが……、
「でも自分の夢だからいいんじゃないの? 先生もそう言ったし、
ルサファやキックリだってなかなかできないから、がんばろうって思ったのよ」
 とユーリが言ったので黙ってしまった。それを聞いたルサファが顔を
赤らめたのには誰も気がつかなかった。
 ラムセスはミッタンナムワとカッシュの夢を見て言った。
「お前らって苦労してるんだなあ……ミッタン。お前ってよっぽど
ひもじい思いしてるんだな?」
「なんだよラムセス! お前に言われたくないわい。そう言うんだったら
給食のおかわり俺に譲ってくれてもいいんじゃないか?」
 とミッタンナムワが言ったのでラムセスは
「それとこれとは別問題だ」
とやり返していた。

 またみんなの夢とは別に一線を画している者達がいた。
ナキアとウルヒである。
「ねえナキアさんやウルヒくんの夢ってちょっと不気味だと思わない?」
「そうよね! 描いてある絵や色も不気味だし…」
 みんなはそう囁いていた。
 しかしナキア達は心臓に毛が生えているのか気にしていなかった。
「のうウルヒ、我らの夢を解さない奴らなんぞ虫けらじゃのう?」
「はい! しかし私達が密かに狙う世界転覆に気づかないのはかえって
好都合ではないでしょうか?」
「お前も悪じゃのう…ウルヒよ」
 そう言ってナキアとウルヒはまるで賄賂をやりとりする悪代官と越後屋
のようにニヤリと笑った。しかしたかが小学校の教室で世界転覆を
たくらんでどうなるのであろうか?