***バレンタイン顛末記〜ぴかぴかシリーズ***
今年のバレンタインデーは、実はカイルはとても楽しみにしていた。
なぜかというと……小学校に入って新しい友達も増えたし、大好きな女の子
ユーリもいるし! それになんてったってライバル、ラムセスとのチョコレート
競争も密かに楽しみにしていたからである。
バレンタインデーが近づくにつれてラムセスと互いに
「ユーリちゃんからのチョコは僕がもらった!」
なんて言い合っていたのである。それにクラスの男子達も
「きっとチョコレートたくさんもらえるのはカイル君かラムセスさ!」
なんて噂をしていたからである。
ああそれなのに……カイルはバレンタイデーの1日前に熱を出して休んでしまったのだ。
確かに風邪は流行っていた。いつもだったら1月頃に大流行するインフルエンザが
今年に限って2月にずれこんでしまったのである。
その日は確かに朝から熱っぽかった。朝食もあまり食べられず
「もういいよ! 僕学校へ行く」
とランドセルを背負った途端、ヒンティママが言った。
「ちょっと待って! カイルあなた赤い顔してるわよ。念のため熱を測ってみなさい」
と言って体温計を渡された。ママの予想した通り熱は38.5度もあった。
「まあ! すごい熱! これじゃあ学校へは行けないわね。今日は休みなさい」
途端にカイルは泣き顔になった。
「嫌だ〜ママ! 明日はバレンタインデーなんだよ。休んだらチョコもらえない
じゃないか!」
「ダメよカイル! バレンタインだろうと何だろうと休みなさい!」
「そんなの嫌だ〜ウワーン」
駄々をこねるカイルだったが強引にベッドに寝かされた。おまけに弟のザナンザには
「大丈夫だよ! 兄上の分は全部僕がもらって食べてあげるから」
と言われる始末であった。
「ザナンザのバカ! そんなの許さないぞ」
カイルは赤い顔で弟をにらみつけた。
「じゃあ僕は幼稚園行ってくるからね〜ふふふ楽しみだなあチョコレート」
明らかに弟は兄の不幸を楽しんでいたようである。
次の日になると更に熱は40度まで上がってしまった。病院へ行くと
「流行のインフルエンザですね。脱水症状も起こしているので点滴をしましょう」
そう言ってお医者さんはカイルの腕に点滴の針を刺した。
カイルは意識が朦朧としているのとバレンタイデーに学校へ行けない悔しさ
でもうぐちゃぐちゃであった。
「ちきしょう! ザナンザとラムセスのバカヤロー! お前らの母ちゃんでべそ」
(と言うことはカイルのママもでべそなのかい?爆)
病院のベッドの中で思い切り弟とラムセスの悪口を言うカイルの姿があった。
その日ザナンザは幼稚園から帰ってくるとベッドのカイルにチョコを見せびらかした。
「これは○○ちゃんでしょ。それからこれは誰それ…もてる男ってつらいよね?
兄上! あとそれからね…」
自慢する弟に辟易としたカイルであった。その時ピンポーンとチャイムの音がした。
「今頃誰かしら?」
玄関に出て行ったヒンティママが戻って来たとき手にしていたのは、お休み
のお便りと紙包みであった。中から出てきたのは手紙とチョコレートである。
『カイル君早く風邪よくなるといいね。チョコレートです。食べてね』
と言う手紙が添えてあった。
「ママ! これを届けてくれたの誰?」
「ユーリちゃんよ!」
そう言ってママはにっこりした。
カイルはもうそれだけで天にも昇る心地であった。
「もう他の女の子のチョコレートなんていらないや……」
インフルエンザが治ったら真っ先にユーリにお礼に行こうっと!
カイルはそれだけで幸せであった。
しかし、同じバレンタインデーの日ラムセスも風邪で早退して、やはり
ユーリが手紙とチョコレートを届けたのは知る由もなかった。バカは風邪ひかない!
と言うが南国育ち? のラムセスは冬に弱かったらしい……。
もちろんラムセスもユーリからチョコをもらって小躍りしていた。
ユーリとすればカイルにもラムセスにも平等に! という思いで2人にチョコ
をあげたのだ。やがてこれがホワイトデー戦争になるとは知る由もない彼らであった。
〜終わり〜