***おしどり探偵(IN オリエント)***
BYまゆねこ


一作目はまとも、二作目はバカ。(ねね評)



 ユーリが「ヒッタイト後宮姫君暗殺事件」を解決してからというもの、
オリエント各国で評判になったのか、ユーリ(とカイル)に探偵や密偵
の依頼が相次ぐようになった。特にバビロニアのトゥルグ・ニラリ殿下と
アルザワのアレキサンドラ王女が言いふらしたのかエーゲ海近辺とメソポタミアの周辺から
依頼が多かった。(アッシリアの王女はかしこいのでこういうことはあまり言いふらしません)

 探偵依頼の書簡が来るたびにカイルは
「私の側室はガル・メシエディで忙しいから」とか「後宮内が取り込み中なので後で!」
などと断っていたが、遂に断り切れなくなって、とある書簡をユーリの元に持ってきた。

<依頼その1>
「ユーリ! 実は依頼というのは兄上からなんだ」
 カイルが言いにくそうにユーリに言った。
「それってテリピヌ殿下?」
「そうなんだ!しかも2,3日中にハットゥサにいらっしゃるって連絡があったんだ」
「何だろうね?そんなに急ぐのって!」
カイルとユーリが話していると
「テリピヌ殿下のお越しでございます」
とキックリが2人に告げた。
「これは兄上! ハレブからのわざわざのお越しで! 本当におひさしぶり
です。お元気でしたか?」
「陛下! イシュタル様、わざわざ申し訳ありません。しかしお二人の噂は
お聞きしておりますぞ!後宮内の姫君殺害事件を解決したとか?
非公式ではありますが今やお二人はオリエントの名探偵コンビとして有名です」
「え〜とね、それは……」
 実はナキアとウルヒのお陰で結構そんなことやってるんだけど…と
ユーリは言いかけてやめた。王宮内の恥をわざわざ言うこともない。
「で、兄上! いったい何を私達に解決して欲しいんですか?
猫の蚤取りとかお后様方の浮気調査とかはちょっとご遠慮願いたいのですが」
(カイルがそういうことを言うとこみると、探偵さんというのは、そんな仕事が多いのかな?)
「カイルってば! 失礼だよ」
 ユーリがたしなめた。
 テリピヌ殿下がちょっと言いにくそうに切り出した。
「実は最近私に子どもがいたことがわかりまして…」
「それは、おめでたいことではないですか! 兄上、私からもお喜び申し上げます」
 カイルが嬉しそうに言うとさらにテリピヌ殿下は続けた。
「しかし、それが問題なのです! 確かに子どもは私似なので申し分ないのですが、
実は母親が2人名乗り出ているのです」
「と言うことは殿下はその2人の女性とご関係があったということですか?」
「おい! 失礼だぞ! ユーリ」
 今度はカイルがたしなめたがユーリは続けた。
「ご無礼は承知ですが、殿下これは大事なことです。そしてどちらかが嘘をついていると?」
「お恥ずかしいことですが、2人の女性とはそれからずっと会ってなくて…
しかも子どもがいると知ったのは最近のことなんです」
「それで、その2人の女性と子どもはどうしたのですか?」
「はい、ここに連れてきています。おい、子どもと母親達をこれへ!」
「ははっ」
 テリピヌが命令すると従者が子どもと母親と名乗る女性2人を連れて来た。
「ふ〜ん」
 子どもは男の子。黒髪で面立ちは確かにテリピヌ殿下に似ている。
しかし女性達はどちらも黒髪ではないし特定はできない。
「ユーリ、何か考えがあるのか?」
 カイルがささやくとユーリは言った。
「ちょっと日本の話で思い出したことがあるんだ。2人とも自分が母親だって言ったよね?
それなら子どもの手を片方ずつ持ってひっぱりあいをしてみて!勝ったほうが本当の母親だよ」
 2人の女性はびっくりしたようだったが、すぐに子どもの手を持って引っ張り出した。
 やがて子どもが「痛いっ」と叫び声を上げた。とたんに一方の女性が子どもの手を放した。
もう1人が叫んだ。
「勝った。私が母親よ!」
 しかしユーリは言った。
「違う!あなたは偽物よ。あたしも子どもを流産してとても悲しい思いをしたからわかるけど…
本当の母親なら子どもが痛がったら、かわいそうで思わず手を放すと思うの!」
「うぅっ!」
 思わず偽物の母親は唸った。
「さすがです。イシュタル様!私の子どもと、その母親とわかった以上側室に迎えたいと思います」
 テリピヌ殿下がそう言うと、母親は涙を流しながら言った。
「私はこの子の母親と認められただけで満足です」
「よかったですな! 兄上」
 カイルも嬉しそうだった。
 こうしてテリピヌ殿下親子達一行はカイルとユーリに感謝しながらハレブに戻って行った。

 しかし、その時部屋の扉が激しく開いて現れた女性がいた。
「あなた! いいかげんにしてください」
 何とその女性は頭から湯気をたてて怒っているテリピヌ正妃であった。
「いったいどうしたんですか? 義姉上」
 カイルがきょとんとして聞くとさらに正妃は続けた。
「この女が名乗り出てから、ハレブでは『殿下の隠し子ですとか実はお情けを頂いておりまして』
とか言うのが後をたたないんです。少なくとも30人はくだらないんです。
女性に優しいのもほどほどにしてくださらないと、今にハレブは破綻しますわ!」
 そう言ってテリピヌ殿下の耳をつかんでずるずる引きずって行った。
「では陛下! イシュタル様ごきげんよう! ご迷惑おかけして、すみません。
イシュタル様もくれぐれもお気をつけないと、男ってのは信用できませんからね!」
 こうして怒りの言葉を残してテリピヌ正妃は去って行った。
「カイル! そう言えばあなたもプレイボーイだったよね? 
また隠し子とか出てきたら、あたしも考えようかな!」
 ユーリが横目で見ながら言った。
 カイルは慌てて言った。
「私がお前ひと筋なのは知ってるだろう? これからもそうだってば!」
 その様子を横目で見ながらキックリがくすくす笑っていた。
 (もちろん後でカイルにぶっとばされたのは言うまでもない!)




<依頼その2>
「実は、また陛下とユーリ様に探偵を…と依頼がありまして」
 キックリがまた取り次ぎにやってきた。この頃になるとカイルもすっかりうるさがっていて
「またか?適当にお前が断っておけ! 私が痔だとかユーリがおたふくとでも言っておけ」
「何それ! カイル!」
 いくら何でもおたふくとかはあんまりだ!…とユーリが言おうとした途端……。
「でも…その依頼人というのは女性2人らしくて…見張りの兵士が
でれでれしているようなので美人かもしれません」
 キックリの言葉にカイルは
「何? 美女2人だと? それなら…まあ話だけ聞いてやってもよいかな?」
 とまんざらでもない様子。どうも女性には甘いようだ。
「全く! カイルってば…女の人に甘いんだから!」
 ユーリがぶつぶつ言っているとキックリが
「ではこちらが依頼のお方です」
 と依頼人を中へ通した。
 見ると布を深くかぶって顔が見えない女性が2人入ってきた。
 1人は結構背が高いようだ。もう1人は顔は見えないが胸だしドレスを着てるらしい。
豊かな蜂蜜色の胸がちらちらする。
 ユーリはちょっと嫌な予感がしたが
「ははぁ…兵士達がでれでれしたのはそういうわけね!」
 と思わず納得が言った。
 とたんに女性の1人が言った。
「私達の依頼というのは、ある女性を捜しているんです。その女性というのは…
たぶんお二方しかご存じありませんでしょう?」
「で、そんな女性なんですか? 特徴は?」
 カイルが聞くと更にその女性は続けた。
「その方は髪と目の色が黒く、象牙色の肌をしております。たいそう小柄な方で…」
「それって…まるであたしのこと!」
 ユーリが言うと、突然女性はかぶっていた布を取った。
「ネフェルト! ネフェルトじゃない」
 布を取ったその姿は蜂蜜色の胸を豊かに出したエジプト女性だった。
かつらはかぶっておらず金髪のショートヘアをしている。
「ユーリ会いたかった! どうして黙って帰っちゃうのよ!」
 ユーリとネフェルトは久々の再会に思わず抱き合った。それを見ていた
カイルはしばらく呆然としていたが…やがて聞いた。
「ユーリ! もしかしてその女性はラムセスの妹か?」
「ユーリ様! この超カッコいい男って、あなたの旦那? やるじゃん! しかもヒッタイト皇帝なんて!」
 今度はユーリが聞く番であった。
「ねえ! ネフェルトさっきから気になっていたんだけど…もう1人の女の人ってだあれ?」
 すると、もう1人が布を取りながら言った。
「はあい! あたしよ♪ ラムセス〜いやラム子って呼んで〜」
 何と女装したラムセスであった。相変わらずの金髪にオッドアイ!
化粧をして口紅まで塗っている。しかも胸パッド入れたドレスまで着て!
「ユーリ会いたさにここまでする俺って! いや私ってけ、な、げ♪でもこれってくせになりそう!」
「おえ〜嫌なものを見てしまった! 誰かバケツか洗面器を持って来い!
いや、その前にこいつをつまみ出せ!」
 突然現れた女装のラムセスにヒッタイト王宮は大騒ぎとなってしまった。
ラムセスは調子に乗ってユーリばかりかカイルにまでブッチュをしようと追いかけ始めてしまったのである。

こうしてヒッタイト皇帝とその寵姫ユーリ・イシュタルは慣れない探偵
稼業はすぐやめることにしましたとさ♪





終わり〜