***カイルとラムセスの終業式***
BYまゆねこ


 世間一般の学校では、たいてい夏休みに入ったが、
カイルとラムセスの通うヒッタイト小学校でも1学期の終業式を迎えていた。

「ねえカイル君、今日で1学期も終わりだね!」
 隣りの席のユーリがカイルに言った。
「うん! ねえユーリちゃん! 夏休みになったらさあ僕と一緒に…」
 と、カイルが言いかけた時…。
「ヤッホー! イェイ夏休みだぜ〜」
 と叫びながら水中眼鏡をかけて上半身裸で教室の中を飛び回っている奴がいた。
ユーリはそれを横目で見ながら
「ラムセスなんかもうとっくに頭が夏休みみたいよ…」
 と半分あきれ顔で言った。

 体育館で校長先生の長〜いお話を聞いた後、教室でいくつか夏休みの注意と
連絡の手紙を受け取った後先生が言った。
「ではこれから1学期の通知票を渡します」
「え〜!」
 とたんに教室中に声があがった。諦めとブーイング、少々期待も混じっているであろうか?
「そうだ! 通知票があったんだ」
 ユーリもびっくりして叫んだ。
「カイル君は頭いいからいいわね?で もうちもママが『がんばればいいのよ』って
朝言ってくれたからちょっと気が楽なんだ…」
 カイルも自信がないと言えばウソになるが、それでもちょっと心配だった。
国語算数、体育はまあ大丈夫だろう。後はそこそこ取れるのではないか?

 カイルの心配をよそに次々と名前が呼ばれていく。
「イル・バーニ君!」
「はい」
「おい、イル・バーニどうだった?」
 カイルが聞くとイル・バーニは顔色も変えずに答えた。
「国語算数、音楽は全部◎でしたよ。体育は△でしたが…まあ見学が多かったので
仕方ありませんね!」
「ウセル・ラムセス君」
「は〜い」
 ラムセスはみんなのほうにガッツポーズをとると立ち上がった。
 全く何かやらなくては気がすまない男なのだろう…。
「ふ〜ん! まあこんなものかな?」
 ラムセスはそうつぶやくと自分の席へ戻った。
「カイル・ムルシリ君」
「はい」
 とたんにちょっとザワザワした。「きっと全部◎よ!」なんて声もかすかに聞こえる。
カイルは優等生で通っているのだ。
 カイルは先生から通知票を受け取って自分の席へ戻った。
 そしておもむろに開いてびっくりした。
「さ、△がある〜(>_<)(*_*)(@_@)」
 カイルは思わず自分の目を疑った。国語、算数の欄はずっと◎で埋め尽くされていて
その下に△がついている欄があるのだ!
 ほぼ完璧なカイルの通知表にたった1つだけ△があるのだ!
「どうしたの?」
 ユーリもびっくりしてカイルに聞いた。
「い、いや何でもないよ!」
 カイルは慌てて通知表を隠した。△があるなんて、ユーリには
絶対に知られるわけにはいかないのだ。
 カイルは急に心配になって、やはり近くに座っているラムセスに声をかけた。
「おいラムセス! ちょっと見せろよ」
「何だよ! ムルシリ? 別にいいけどさぁ」
 とラムセスが見せてくれた通知表は……、国語算数は○が多く芸術教科…
音楽図工などは◎もちろん体育も◎だった。いやそんなことはいい!
それよりカイルが気になるのは……、生活科の欄! 何とラムセスは全部◎だった。
「おいラムセス! 何でこんなに生活科がいいんだ?」
「へっ? 突然何を言い出すかと思ったら…虫やザリガニなんかつかまえて
教室に持ってきたことかなあ?」
「そういやラムセスって生き物好きだもんね!」
 ユーリが答えた。

 えっ? とカイルは思った。実はカイルの△は生活科だったのだ。
ラムセスは道ばたや外からダンゴ虫やらカエルやらをつかまえて教室に連れてくることが多かった。
もちろん後で逃がしてやることもあるが、たいていはいじり殺してしまう。
カイルはと言えば……、迷惑がかかると思って絶対そんなことはしなかったのだ。
「そんな…遊びみたいなことが成績につながるなんて!」
 カイルは自分の△もさることながら、同じものでラムセスが◎だったのがかなりショックだった。
 いわばカイル・ムルシリ2度目の人生の挫折である。(爆)
(1度目は例の水泳です!)

 その後のカイルは放課後までずっと放心状態であった。ユーリやラムセスを誘っての別荘を
楽しみにしていたのに、今は通知表のショックでいっぱいであった。
カイルはまたまた重い足取りで家路に着いた。

 カイルはヒンティママに通知表を見せるのはちょっと苦痛であったが、
水泳の時に免疫ができていたので少しは勇気が出た。
「カイル、ママは全部◎じゃなくてよかったと思っているわ!」
 さすがにヒンティママはカイルの性格を見抜いていたようだ。
「だって…△の人の痛みや思いも知らないで全部◎だったら、
きっとあなたは高慢ちきになっていたでしょうね?それはきっと戒めよ!」
「え? 戒めってなあに?」
「まあ遊び心も知れ! っていうことよ!」
 そう言ってママはカイルにウインクしてみせた。
「そうそう兄上! 遊びは大切ってこと!」
 ザナンザもママのまねをしてウインクしてみせた。
「お前幼稚園のくせに生意気だぞ!」

 そうしてまた例の兄弟げんかも始まってしまった。窓の外には入道雲!
ひまわりも咲いている。もう夏休みは目の前であった。

                   〜終わり〜


きちんと名前の順で通知表をもらっているところにも注目!(BYねね)