ピカピカ1年生〜授業参観編〜
<その1 カイルの家>
「カイル! よく聞きなさい」
いつもはめったに声を荒げたことのないヒンティーママが、いつになく
厳しい口調でカイルに言った。
「明日は授業参観です。いいことカイル? 別にママはたくさん発表しろ
とかじっと座ったまま良い子にしてろとか、そういうことが言いたい訳ではないのよ。
わかるわね?」
「はいママ」
カイルにもヒンティーママが言わんとすることがよくわかっていた。
原因は、この前の家庭訪問で先生に言われたことだ。
「クラスのお友達とは仲良くするのよ! いくら今まで同じ幼稚園の子が
多いからと言っても、あなただけの学校ではないのよ。他の幼稚園から
来た新しいお友達だっているんでしょ? みんなと仲良くして学校が楽し
いところにしなければだめなのよ」
「そりゃわかってるけど…、ラムセスの奴すぐに僕に文句つけるんだもん
いやんなっちゃうよ!」
カイルは口をとんがらせた。
「いったいどんなところが気にいらないと言うの?」
「だってチャイムが鳴る前に外に出ようとしたり掃除をサボったりするんだ。
ドッジボールではすぐに僕に強い玉を投げてくるしさ!」
「ふーん元気な子なのね? 足も速くて体育が得意なんでしょう?」
「でもさ、僕がキックベースやろうって言っても『俺はドッジボールがいい』
とかすぐに何か言うしさ! ユーリちゃんにだってすぐにちょっかい出したり、
いいとこ見せようってするんだよ」
それを聞いて、ヒンティママは思わず吹き出してしまった。
「カイルがどうしてラムセス君とケンカするのか不思議に思ってたけど、
やっとわかったわ! あなたもラムセス君もよっぽどユーリちゃんのこと
が大好きなのね」
ママにズバリと言われてカイルは真っ赤になった。
そこへすかさず弟のザナンザが言った。
「そうなんだよ、ママー。兄上ったらこの前だってユーリちゃんと遊ぶって言ったのに、
僕を一緒に連れてってくれなかったんだよ。意地悪なんだから!」
「このーザナンザ!何てこと言うんだ」
「でもね兄上! 今の時代は勉強や運動ができるより優しい男やおもしろい男の方が
もてるんだから! 僕だって結構薔薇組でもてるんだよ」
「うるさい! ザナンザ幼稚園のくせに生意気だぞ」
そう言ってカイルがザナンザの頭をポカリとやったのでザナンザは泣き出してしまった。
「カイルいいかげんになさい!」
そう言ってヒンティママはカイルをたしなめたが続けて言った。
「でもカイル、ラムセス君って話を聞くとやんちゃだけどなかなか憎めない子みたいじゃない。
子供らしくって…ママ好きだな。今度ユーリちゃんと一緒にお家に連れてらっしゃいな」
それを聞いてカイルはガーンとなった。ヒンティママはラムセスのような子どもが好き!
そんなあ‥それじゃ僕は今まで何のためにがんばってきたんだろう?
一生懸命いい子になって勉強も運動もがんばって、ほめられるように努力したのに!
大好きなママのためにやったのに! そう思うと大きなショックを受けたカイルであった。
<その2 教室>
さて授業参観の日、当日のことである。カイルはヒンティママから
きつく言われていたので、朝からラムセスの挑発に乗らないよう努めていたが、
ママの言葉がよっぽどショックだったのか、ずっとラムセスをにらめつけていた。
「どうしたの? カイル君。ずっと怒ってるみたいだけど?」
いつもは、見るだけでも顔がにやけてしまうユーリの言葉も耳に入らずに、
こみ上げてくるのはラムセスへの怒りばかり!
(どうしてこんな奴のことがママ大好きなんだろう?)
そう思うと休み時間も掃除中も給食でもラムセスのことをギンギン
ににらんでいるカイルであった。
当のラムセスはというと…
「何かカイルの奴、俺のこと目の敵にしてるみたいだけど…
いつものことだ! まあいいか」
と全然意に介さない風であった。それどころか他の子は、授業参観のためか
心なし緊張している様子なのに、ラムセスには全く感じられなかった。
相変わらず休み時間には真っ先に出て行くし相変わらずのいたずらぶりであった。
(当然と言えば当然か?笑)
授業参観は5時間目だった。教科は算数。1年生だから当然簡単なものだが、
どの子も緊張してお家の人にいいところを見せようと発表ではみんなの手があがった。
特にその中でひときわうるさく…、
「はいはいはいはい!」
と元気よすぎるくらい手を挙げている奴は、もちろんラムセスであった。
最初は他の子達が指名されていたのだが、あんまりうるさいせいであろうか?
「ではラムセス君」
ついに彼の名前が呼ばれた。答えはもちろん誰でも答えられる簡単なものであったから
当然「いいです!」とみんなの承認を受けた。
目立ちたがり屋のラムセスは後ろで見ていたラムママに向かって、
Vサインをして見せるとともにカイルの方を見てアッカンベーをした。
「ムムム! ラムセスこの野郎やらせておけばいい気になって!」
ここまで我慢をしてきたカイルにしてみれば今にも切れそうであったが、
ラムセスの行動に我慢できなかったのはカイルだけではなかった。
「ねえママ〜お兄ちゃんふざけてるよ!」
ラムママに向かってささやいたのはラムセスの1番下の妹!
彼女が参観に一緒に連れて来た小さいおませな女の子だった。
「そうね! いけないわよね? お兄ちゃん!」
彼女にあいづちを打つように言ったラムママではあったが、
その口びるはしっかりと噛みしめられていた。
さて、ラムセスを殴りたいのを必死で我慢したカイルではあったが、
その日はなかなか先生に指してもらえなかった。
ラムセスに気がとられて半分気もそぞろでなかなか手もあがらないのも
原因の1つだったが、さすがのカイルも気が沈んでいた。
最後の問題はやや難しかった。
「ではこの問題がわかる人、手を挙げてください」
「はい!」
手を挙げたのはカイル1人だった。
「ではカイル君、答えてください」
答えは合っていた。「さすが〜」と賞賛の声があちこちから挙がる。
カイルもやっとほっとして席に着いた。自分の席に帰る途中ふと気になって
ヒンティママの方を見ると、ちょっとにっこり微笑んでくれたように思えた。
「よかった! ママも喜んでるみたい」
カイルもやっと満足することができた。
こうして初めての? 授業参観は無事終わった。
久しぶりにカイルとラムセスのケンカもなく? 1番ほっとしているのは
担任の先生だったりして…(^_^;)
(まあラムセスは少々うるさかったけど!)
<その3 授業参観後〜ラムセスの家〜>
さて授業参観の日のラムセス家の食卓でのことである。
「ラムセス!今日のことで何かママに話さなければいけない
ことがあるんじゃないの?」
ラムママが息子のラムセスに言った。
「え? 何を? 今日俺が授業参観でちゃんと発表したこと?
えらいだろ? モグモグ…」
ラムセスは脳天気に夕飯をほおばりながら言った。
「何言ってんの! おバカ、あんたは今日何をやったかわかってんの?
全く恥ずかしい子ねぇ」
ラムママは額に青筋をたてて怒っていた。
「何で俺がこんなに怒られなければならないんだ?」
相変わらず自分が何をしたのかわからないラムセスは言った。
「バッカねえ! お兄ちゃん、あんなことして! ふざけてるって
一目でわかったわよ〜」
ラムママと一緒に授業参観を見に行った(いやママが連れて
行ったのだが‥この場合)末のおませな妹が言った。
「え? あれが? あれっていつもの俺だぜ! あっこの野郎ネフェルト!
俺のエビフライ取るんじゃない!」
「何言ってんのよ! お兄ちゃん先に数チョロマカしたくせにぃぃ」
相変わらずラムセス家の食卓は騒がしい! ラムセスとその姉妹の
おかず争いは日常的だ。
その途端バシッとテーブルを叩く音が台所中に響いた。
「いいかげんにしなさい! あんた達、ママがこんなに恥ずかしい思い
をして苦しんでるのがわかんないのっ? 特にラムセス! あんたって
子は〜〜いつもあんなことしてんの? パパが単身赴任でママがこんなに
一生懸命あんたを育てているのがわからんのか〜!!!」
ラムママのもの凄い剣幕に気圧されて思わずラムセスとネフェルト
はおかず争いの途中で凍り付いてしまった。
その時…ふいにドアが開いてラムセスの姉がバイトから帰って
来た。顔はガングロ(って…エジプト人ってみんなガングロだよな?)
ミニスカートの制服、ルーズソックス!!(^^;)典型的なイマドキの
女子高生である!
「ちょっとラムセス! またあたしの薔薇コロン勝手に使ったでしょ?
いいかげんにしなさいよ!」
ラムセスも負けてはいない。
「何だよ! ちょっとぐらい。その化粧に似合わねえから俺が使って
やってるんじゃないか!」
途端にガングロ姉はカチンと来た。
「このクソラム! お前がコロンを使うなんて三千年早いんだよ!
バカガキが色気づくんじゃないっての!」
こうなっては、もうラムママの怒りもラム姉の罵声も
ラムセスとネフェルトの争いもグチャグチャであった。
こうしてラムセス家の夜は喧噪のうちに更けてゆくのであった(^^;)
(何か文句が来そうなラムセス家の様相・・合掌)
〜終わり〜