***ラムセス旅行記***
(ガリバー旅行記編)
BYたっしー

注:(背景)ラムセスがエジプトでユーリをあきらめた続きより

 ユーリを手放し、眠れぬ夜が続くラムセス。いくら思い出すまいとしても、
その姿と声はもう心に染み付いていた。
 そんなある夜、ラムセスは、まどろみながら不思議な夢をみた。
神殿に行き、神に祈ると、どこからともなく不思議な声が聞こえてきたのである。
 その声はこう言った。
「ウセル・ラムセスよ、ナイルをただひたすらさかのぼれ。2日ほどゆくと、
巨大な石切り場がある。その近くの砂漠には、まことに不思議な国がある。
なんと、ラピスラズリの花びらと、金の茎と金の葉でできた薔薇を秘宝とする国なのじゃ!」
 ラムセスはとてもそんなことを考えられなかった。薔薇は確かに
こよなく愛している。ラピスラズリの紫をおびた深い青色は確かに美しく、
また、権力の象徴でもあった。しかし、ユーリがいない…。
 今となってはもう……。
ラムセスは口を閉ざした。しかし、不思議な声は、次にこのようなことを
言ったのである。
「ここ、(古代)エジプトでは、知ってのとおりラピスラズリは『神の石』と
呼ばれる最も尊い宝石である。だが、この石はそれだけではない、
身につけていると英知や富など、すべての物を手にいれることができるのじゃ。
この石が薔薇の花に姿を変えている。これぞ最強の石じゃ! 
これをそなたに授けたい! さあ、今すぐナイルをのぼって
その薔薇を手に入れるのじゃ。」
 ラムセスは飛び起きた。「全ての物を手に入れる…! 女も国も!」
 こうしてラムセスは旅に出た。

 ナイルをさかのぼり、巨大な石切り場の近くには言われた通りの砂漠があった。
馬に乗ったラムセスは1日中ずっと進みつづけた。しかし、それらしき場所どころか
オアシスの一つも見つからなかった。
 馬を放して水のありかを見つけようと思ったが、いつのまにか馬は姿を
消してしまった。
 砂漠に迷い込んだラムセスはくたびれていた。
 2度目の夜、寝るつもりはなかったが、疲労のため、
ついにラムセスは横になり、ぐうぐうと眠ってしまった。
 ラムセスが目覚めたとき、すでに夜は明けていた。ラムセスは勢いよく起き上がろう
とした。
 ―――ところが、手や足を動かすことはできなかった。
 ラムセスのからだは縄でぐるぐる巻きにされ、手も足も全く動かすことの
出来ない状態だったのだ!
 そのうち、ラムセスは左足の上を虫のような物が、むずむずと
はいまわっているのに気が付いた。その虫はとうとうラムセスのあごにまでよじ登ってきた。
それを見たラムセスは大声をあげた。それはなんと15cmほどの人間だったのである。
とんでもない! とうとう気が狂ってしまったのか、いや、これは夢だ!
ラムセスは自問自答し、混乱した。あごの上だけでなく、自分の周りには他にも
無数の小人達が群がっていた、、だが、小人達はみな、エジプト人のような
服を着ていた。肌も蜂蜜色であった。その上、自分のあごの上の人間はよく見ると
ホレムヘブにそっくりなのである!
「ファラオ! どうかこの縄を解いて欲しい。」
 ラムセスはこう言ってみた。
 すると、ホレムヘブそっくりの男は、
「私はファラオではない、しかしおまえはどうやら同じ言葉を話す人間のようだ。
ファラオに伺いをたてねばならぬが、とりあえずおとなしくしているのであれば
そのうち戒めは解いてやろう」
 ラムセスはとりあえず安心した。ところが、大変なのはこれからであった。
ホレムヘブそっくりの男はこう言った
「われらの国は地底にある。今からおまえをそこに連れていこう」
 砂がだんだん沈んでいくのが分かった。そしてラムセスの意識は遠のき、
ラムセスの体は小人達と共に地底へと……。


 意識を取り戻したラムセス。
彼がいたのは神殿であった。縄は切られていたが、左足は、青銅のような金属の鎖
(この時代はなかった?)につながれてしまっていた。
犬のような扱いをよくもこの俺に! とは思ったが、少しは動き回れたし、
神殿の中で寝そべることもできたので、とりあえずは……。といったところだった。
はむかえば元の地表には戻れない。それになんでラピスラズリの薔薇を求めてこんなことになるんだ!
そう思っていると、立派な服装の小人がこちらへやってきた。
「あなた様がファラオでいらっしゃるのでしょうか?」
 ラムセスは聞いた。その小人は、驚きを隠せなかったが、威厳を持ってこう言った。
「いかにも。ところでおまえはなぜこの国へ? おまえのような大きさの人間は始めて見る。
地表の国は砂漠ばかりではなかったのか? おまえのような大きさの者は
他にもたくさんいるのか?」
 王は興味深そうにラムセスを見つめていた。
 ラムセスは答えた。
「私は、神のお告げを聞き、ラピスラズリと金でできているという、素晴らしい薔薇を
探しているうちに迷い込んで、小人の方々に助けられたのです。地表の国には、
たくさん、私のような大きさの人々が暮らしております。
われわれのような蜂蜜色の肌の者ばかりでなく、白や、黄土色、象牙色……など
色々な者が住んでおります。」
 王は本当にびっくりしていた。そして、目の前にいる大きな男を恐れた。
このような者がもし大暴れをすれば、国は滅びてしまうだろう。
どうすれば良いのだろうか? 王は顔を青くし、王宮へと戻っていった。
 すっかり暗くなりかけた夕方、あのホレムヘブに似た男がこっそりとやってきた。
そして彼は言った。
「王はそなたを殺そうとしている。今日、そなたが眠りにつくのを見計らって神殿を
燃やすつもりなのだ。このままではそなたは死んでしまう、だから私の計画を聞いてくれないか?
私はファラオになりたい。あの王はまだ若い。あと20年は国を保ちつづけるだろう。
あと、20年……。私には長すぎる。鎖を解くから、王宮に攻め入って、王だけでいい、
王を殺して欲しい。そうすれば私は王に成れる。それが成功したら、
秘宝であるラピスラズリの薔薇をやろう、それに地表の国にも返してやろう。これでどうだ?」
 こいつは野心家か? そしてラムセスは言った、、
「俺は死ぬつもりはない。火をつけられようが、どうなろうがどうにかする。
あなたは信頼できそうないい方のように思えていたのだが、
あの王は立派に国を治めているようだ。20年は確かに長い。だが、心から国を思い、
この国を治める王に成りたいと思うのならば、このようなやり方で王になってはいけない。
こんなことをすれば、いずれ、あなたも同じように殺され、国は乱れていくだろうから……」
 この言葉を、王は聞いていた。兵隊と共に出てきて、ホレムヘブ似の男を
囲んだ王は、こう言った。
「おまえは立派な考えの持ち主だ。秘宝のラピスラズリの薔薇を授けよう。そして、
地表の国に戻ることを許そう。戻るのは簡単だ。この薔薇に祈ればよい。
そうすればおまえのやってきた場所に戻れるだろう。おまえならきっと
この宝をいいように使えるだろう。この男は、私を殺すことを企てた。
しかし、おまえの言葉を聞いて改心したはずだ。さあ、もう行ってよい。
きっとおまえを必要とする人々が待っているはずだ」

 そして、ラムセスは無事に自分の屋敷に戻った。手に入れた秘宝があれば
ユーリをムルシリの元から……。
だが、ラムセスは思った。
(この秘宝はこんなことをするために使うべきじゃない。確かにユーリは
どうしても欲しい。だが、ユーリはムルシリのもとに遣わされる運命だったのだ。
ユーリもムルシリのことを深く愛している)
 苦しかったが、ラムセスの心はやっと明るくなり始めた。
 そして、美しい秘宝は、小人の国の5cmほどの青く美しい大きな薔薇となって、
ラムセスの家の周りに咲き誇るようになったのである。

(終)

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おお! ラムセスいい奴ではないか! でもやっぱり薔薇男なのね(笑)BYねね