ピカピカ一年生のなやみBYまゆねこ先生

カイル君編 ラムセス君編 ユーリちゃん編


〜カイル君〜


 4月某日、天河小学校の入学式が行われた。
1年生の担任の先生が前へ出て新入生1人1人の名前を読み上げた。
「カイル・ムルシリ君」
「はい!」
 名前を呼ばれた少年が立ち上がってはっきりとした声で返事をした。
「まあ何て利発そうなお子さんでしょう!」
「金色の髪の毛もかわいいし…美形だわ」
 周囲からそんなひそひそ声も聞こえた。
 カイルは返事をした後、ちょっと得意そうに自分の母親を振り返った。
優しくてきれいな母の顔がにっこりとうなずいた。
「やっぱりママが1番きれいだな」

 入学式が終わり、ヒンティーママに手を引かれてカイルは教室に戻る。
途中ママがカイルに言った。
「カイル、これからママはザナンザの入園式に出るから後は自分でしっかりやるのよ」
「はい、ママ」
 教室で先生からお話があって、その後新入生はお母さん達にお話があるので
ちょっとの間静かに待つように言われた。

 カイルは自分の席の周りをぐるっと見回した。新しく入学した仲間達は
自分が通っていたのと同じ「ヒッタイト幼稚園」から来た子がほとんどだった。
幼稚園では何をやってもカイルが1番だったし、友達から人気もあった。
この調子なら小学校でも僕がヒーローかな? そう思った瞬間、
見慣れない顔が2,3人目についた。きっと他の幼稚園から来た子達に
違いない。1人目は隣りの席の女の子だ。黒い髪に黒い目。小さいけど
なかなかはしっこそうな女の子だ。
「僕はカイル。ヒッタイト幼稚園から来たんだ。君は何て言うの?」
 カイルはニッコリしながら聞いた。たいていの女の子はこの笑顔で
メロメロになってしまうのだ。
 ところが女の子はものおじせずに答えた。
「あたし? 夕梨って言うの。日本幼稚園から来たんだけど…知って
いるお友達がいなくて大丈夫かな?」
 カイルがそれに答えて『大丈夫! 僕がついてるよ』と言おうとした
 その時!
「そんなの気にするなよ! 俺だって1人だぜ!」
 と先に夕梨に答えてしまった奴がいた。
「誰だ! お前は?」
 カイルは自分より先に答えられたのが悔しくて声がする方を見た。
褐色の肌をしてオッドアイの目をした少年が言った。
「俺か? 俺はラムセスって言うんだ。エジプト幼稚園から来たのさ」
 これがカイル、ラムセスと夕梨の出会いであった。

 それ以来、カイルは妙に2人のことが気になった。夕梨はまだいい。
女の子だし…それに彼女のことを深く知るにつれて、困っている子
を助ける優しい女の子だとわかりカイルはますます夕梨に惹かれていった。
「今に夕梨ちゃんを振り向かせてみせるぞ!」
 心に固く誓うカイルであった。
 問題はラムセスの方だ。自ら優等生を自認するカイルにとってラムセスは、
やたら目につく存在であった。チャイムが鳴る時に椅子に座った
ふりをして、真っ先にボールを持って飛び出して行く。
(いませんでした?こんな奴!)
「ずるいぞ!ラムセス」
 カイルが注意しても一向に意に介さない。それどころか掃除をサボッたり、
教室の中でボール投げをして花瓶を割ったことさえある。
 要するにイタズラ坊主であった。
 それなのに妙にクラスの中で人気がある。おもしろいことを言って人を
笑わせたり、ドッジボールも強かったりする。
「あいつっていい奴だよな! この前かたづけ手伝ってくれたんだぜ」
 そんなことを言う男子もいた。
 それにラムセスも夕梨ちゃんを気にいったらしく彼女に色々ちょっかいを
出しているのだ。もちろん夕梨ちゃんは結構気が強いから…
「やめてよ! ラムセス」
 なんてひっぱたいたりしているのだが、彼女もラムセスにまんざらでない様子も
見せたりする。

「まずい! このままでは僕の人気はラムセスに取られてしまう!」
 そう考えていたカイルは力が入りすぎて思わず手にしていた弟ザナンザの
おもちゃを壊してしまった。
「え〜ん! 兄上が僕のおもちゃ壊した〜」
 ザナンザの泣き声を聞いてヒンティママがとんで来た。
「ダメでしょカイル! 弟をいじめちゃ!」
 いつもは優しいママに怒られてしまったカイルはふてくされていた。
「ちぇザナンザの奴すぐに言いつけるんだからな!」
 それにしても1年生ながらカイル君の悩みは深いようだ。

 

〜ラムセス君〜

 入学式当日の朝、教室に入ったラムセスが気づいたのは次のことだった。
「何だ!この学校には俺の知ってる奴が1人もいないじゃないか」
でも、そんなことぐらいでめげるラムセスではなかった。友達がいなければ作ればいい!
 だから、先生がお母さん達と話をしてる時に近くにいた小さい女の子に声をかけた。彼女も1人だったのだ。
「これはチャンスだ!」
 それなのに女の子の隣に座っていた奴が横から口を出しきたのだ。色が白くちょっと長めの茶色い髪を
したそいつはラムセスをにらみつけた。まるで「俺の女を横取りするな」とラムセスに言っているようだった。
「気に食わない奴!」
 これがカイルに抱いたラムセスの第一印象だった。

 それ以来カイルは事あるごとにラムセスと対立した。
ちょっと早く休み時間に外へ出れば文句を言う。花瓶を割ったと先生には告げ口をする。
ユーリと話をすれば邪魔をする。
 もちろんラムセスは元々いたずらッコだったから、幼稚園の時から先生に注意されているのだから、
それは慣れているし仕方ないと思っていたのだが…カイルにつべこべ言われるのだけは我慢ができなかった。
「俺は誰に何を言われようとやりたいようにやる!」
 改めてそう自分に誓うラムセスであった。

 カイルについて気にくわないことはまだあった。彼は天河小学校に1番人数が多く来ている
ヒッタイト幼稚園の出身であったのだが、彼と同じ幼稚園から来ている男子の中には
カイルの取り巻きのような奴が何人かいたのだ。
 その中でいつもぴったりくっついているのは糸目のキックリとか言うのと目つきの悪いイル・バーニの奴!
それから3隊長とか言われている坊主頭の大男ミッタンナムワにカッシュ、ルサファの3人組!
彼らも事あるごとにカイルに味方しラムセスに対立する。
「全くいやんなっちゃうよな!」
 帰り道ランドセルを背負って石を蹴りながらラムセスはつぶやいた。

 ある時体育の授業でドッジボールをやった。
運動神経のいいラムセスは相手のボールを受け取って投げようとすると…敵のコートの中にカイルがいた。
「これはカイルをやっつけるいいチャンス!」
 そう思ったラムセスはさっそくカイルに向かって強いボールを投げた。
ところが敵もさる者! カイルはラムセスの投げたボールをキャッチしてまたラムセスを
狙ってボールを投げてきたのだ。
「くそ〜、こんな奴に負けてたまるか!」
 こうなったら意地だ…と思ってまたラムセスはカイルに向かって投げた。もちろんカイルもまた投げ返す。
 こうして他の子達を無視してドッジボールはラムセスvsカイルの対決になってしまった。

「いいですか? カイル君、ラムセス君ドッジボールはみんなで仲良くやるものよ!
あなた達だけでやるんじゃないんだから!」
 放課後カイルとラムセスは残されて先生に怒られた。
 ついでに「2人とも仲良くするよーに!」と言われて先生の前で握手までさせられた。
「けっ! あんな奴!」
 ラムセスは頭にきていた。でもあいつは俺とドッジボールの腕は互角だ。それは認めるしかない。
それにこの件以来クラスの男子はラムセスを「カイルと対等に勝負できる奴」
と認めるようになってきたのだ。ユーリちゃんもきっと見直したに違いない。

 ちょっぴり気を取り直して家に帰ったラムセスを妹のネフェルトが待っていた。
「ねえお兄ちゃん学校っておもしろい? 今度お兄ちゃんの友達をお家に連れて来てよ」
「うるさいなあ! 幼稚園のお前と違って俺は忙しいんだから」
「嘘ばっかり! いつも宿題だってやらないじゃない!」
「よけいなお世話だ。あっちへ行けバカ!」
 そう答えたラムセスであったが今度ユーリちゃんくらいなら遊びに来てもいいかな?
と考えていた。カイル? あいつなんかと〜んでもない!

 ラムセスの学校生活もなかなか前途多難な模様である。

                   

〜ユーリちゃん〜
 
 「同じ幼稚園の子が誰もいない!」
 と思ったのはラムセスだけでなく、ユーリも同じだった。
 でものんきなラムセスと違ってユーリには幼稚園の時、仲の良かった
男の子がいたから1人というのはとても不安だったのだ。
「どうしよう! 氷室くんと離ればなれになっちゃった」
 実を言うと学校へ行くのは憂鬱だったのだ。
 だけど入学式の日、隣りに座っていた男の子が
「大丈夫! 僕がついてるよ」
 と言ってくれた時はとっても嬉しかった。その子は茶色の長めの髪型で結構カッコよかった。
もちろん反対側に座っっていた色の黒いオッドアイの子もちょっと気になる存在ではあったが…。

 そのカッコいい男の子、カイル君もユーリを気に入ってくれたようだ。
彼は当然モテるからクラスの女の子達に大人気であった。そのためユーリは女の子達から
意地悪もされたりしたのだが、そんなことでくじけるユーリではなかった。
すぐにハディという仲良しもできたし、意地悪な子達も1度やりこめてしまったら
もうユーリの敵ではなかった。こうして最初は友達がいなくて不安だったユーリも
楽しい学校生活を送るようになった。

 さてもう1人の気になる男? ラムセスはカイルと全くタイプが違っていた。
いい子のカイルと違っていたずらはするし、そうじはサボる…だから席はいつも1番前の特等席!
 でも結構弱い子をかばったり親切だったりするので、カイルとは違った意味で人気があった。
彼もユーリのことが好きらしく、よくちょっかいを出してくる。
だけどスカートをめくったりするのでユーリによくはたかれていた。

 ある日、そのラムセスがユーリに言った。
「おいユーリ! 今日俺んちに遊びに来ないか?見せたい物があるんだ」
「え?なあに?見せたい物って…」
 ユーリが聞くとラムセスはすかさず答えた。
「今、俺んちの庭薔薇が満開なんだ。よかったら見に来ないか? それに妹にお前のこと話したら会ってみたいって…」
「へえ、それは素敵ねえ! 妹って幼稚園なの?」
 すると、それを小耳にはさんだカイルが口出しをした。
「ちょっと待って! ユーリちゃん、ラムセスん家へ行くなんって危険だ! それはやめたほうがいいよ!」
「何だとムルシリ!お前には関係ないぞ!」
 ラムセスも負けずに言い返した。しかしユーリは言った。
「ねえ! それだったらカイル君も一緒に行こうよ。みんなで遊べば楽しいじゃない。ハディも誘うからさ!」
 ユーリの正当論にカイルもラムセスも返す言葉がなかった。
ラムセスは本当はユーリだけを誘いたかったのだけど、しぶしぶ承知した。

 さてユーリがカイルとハディを誘ってラムセスの家へ行くと、ラムセスは妹と待っていた。
「これが妹のネフェルトって言うんだ。今度、幼稚園の薔薇組なんだ」
「よろしく!これがお兄ちゃんのお友達? 嬉しい!一緒に遊んでね」
 ラムセスの妹を見たカイルはすかさず言った。
「ラムセスの妹にしちゃかわいいじゃないか! よろしく」
「俺の妹にしては…は余分だ。本当はお前なんか来てほしくないんだけどな。
ではさっそくユーリ! 俺の育てた薔薇を見ないか?」
 そういうラムセスに横からネフェルトが口出しをした。
「全く! 薔薇なんてじじむさいでしょ?小学生のくせに…。ねえ、ユーリちゃんハディさん、
お兄ちゃん達はほっといてあたしの部屋に来ない? 良い物見せてあげる」
「そうねえ! ハディそうしようか?」
「うん」
 こうしていがみ合う? 男の子達を尻目にユーリ達はネフェルトの部屋に行ってしまい、
後にはカイルとラムセスが残された。
「何でお前と残されなきゃならんのだ?」
「それは僕のセリフだ。あ〜あこんなことなら弟のザナンザも連れてくるんだったなあ!」
 そう言ってカイルはラムセスの家へ来る時に「自分も連れて行け」と泣いて駄々をこねていた弟を思いだした。
「何だ! お前弟がいたのか?」
「うん、でも意地悪して置いて来ちゃったから帰ったらママに叱られるかもしれない…」
「そうか! じゃあ今度は連れて来いよ」
 カイルとラムセスは自分達がケンカをしたことがすっかりバカらしくなってしまった。
「この次は男の子も誘って遊ぼうか?」
「うん、そうしよう」

 その時「みんな、おやつですよ!」とラムママの声がした。
「は〜い」とかわいい声がして子ども達は、みんなリビングに集まって来た。

                                  〜終わり〜



 どうです?たまにはこんな終わり方もいいんじゃない?(^-^) BYまゆねこ

 おお! こんな平和な終わり方! ラムセスがボロボロになってないぞ!BYねね

 

番外編 家庭訪問編につづく