オペラ イシュタルBYまゆねこ

プログラム

1.ヒッタイト帝国オペラ上演計画
2.オープニング〜イシュタル出現の夜〜
3.第1幕 〜第1場、第2場〜
4.第2幕 〜第1場、第2場〜
5.第3幕 〜第1場、第2場〜
6.楽屋裏編(番外編)
7.オペラinエジプト(番外編2)

                     

                       ***ヒッタイト帝国オペラ?上演計画***

 ある年の春のこと、ムルシリ2世を始めとするヒッタイト帝国の王宮内
では春の祭り(フルリ祭)で上演するオペラの話題でもちきりであった。

カイル:この時代でオペラとなると何がいいだろうか?

ラムセス:やっぱり「アイーダ」だろ?オレが主役だし、この時代で設定
     されたオペラってこれしかないぜ!

カイル:うるさい!エジプトが舞台のオペラなんぞ誰がやるか!
    だいたい何でお前がここにいるんだ?

イル・バーニ:陛下、御言葉ですが我がヒッタイト帝国はマイナーでして・・
       事実今の時代では他にはないのです。

ユーリ:それならいっそ創作しちゃえば?あたしが主役で「イシュタル」
    なんてどう?

カイル:それもいいな!ヒーローは私、ヒロインはユーリか!そしてヒッタイ
    トはエジプトに勝利し2人はいつまでも幸せに暮らしました。

イル・バーニ:それでは私は音楽担当ですな。ハディと双子を含めて
       オーケストラを結成しましょう。

ラムセス:いやオペラはやっぱり悲劇も必要だ。イシュタルはエジプトの
     将軍ラムセスが手に入れ2人はエジプトの王と王妃に・・
     そしてムリシリ2世は失意のうちに死にましたとさ!
     上演はピラミッド前決定だね!

カイル:うるさい!ハットゥサに円形劇場を作るんだ。

ユーリ:やっぱ悪役も必要よね!ナッキーお願い!

ナキア:なんじゃと!私は愛のアリアを歌うのじゃ!ある晴れた〜日♪

ユーリ:それは「蝶々夫人」でしょ!

 こうして数々の困難と妨害?のうちにハットゥサに円形劇場は完成し
フルリ祭でオペラが上演されることになった。



                      ***オペラ:イシュタル***

                 【オープニング:イシュタル出現の夜】

 (前奏)月が出た出た〜♪

ユーリ:ちょっと何やってんのよ!月じゃなくてイシュタルは明けの明星よ!

 (改めて前奏) ワルキューレの騎行♪

ユーリ:ちょっと不満はあるけどまあいいか!一応戦いの女神だし。

イル・バーニ:ではこのテーマ曲は最初に来て逃げ回るシーンにも使いますよ。

  (ナキアの神殿にて)
 「魔の山」〜ペール・ギュントより〜♪
ウルヒ:逃がしたようですな。ほんとにおしいことを・・
    もう少しでここまで連れてこられたのに
ナキア:だが確かにあの娘はこの国に着いている・・って??
    なぜ私のテーマにこんな曲を使うのじゃ!
ウルヒ:ぴったりじゃないですか!

    バキッ(殴る音)
    (ウルヒ倒れる)

イル・バーニ:では次行きますよ!陛下出番です。

  (木陰にて)
ユーリ:しまった こっちにも人が
カイル:(しばらく楔型文字でゴニョゴニョ) あ!いてて胃が〜
ユーリ:どうしたの?カイル!
カイル:ストレスで胃がやられたみたいだ!

イル・バーニ:カット!カット〜陛下が具合が悪いので一時中断します。

ラムセス:へへへ、やったね!これで主役はオレ様のもんだ!

【第1幕】

〜第1場〜

エジプト、ナイル河口よりテーベへ向かう船上
河岸には砂漠とピラミッドが見られる。
ユーリとラムセス

♪タイタニックのテーマ
(側近ワセトの持つテープレコーダーより音楽)

ラムセス:見ろ!エジプトだ!
     船上に2人きり!気分はジャックとローズ
     タイタニックといこうじゃないか?
     ユーリ!

ユーリ:エジプト・・・

ラムセス:そうだオレはお前を妻にするためにエジプトに
     連れてきたのだ!

    (ルサファ登場)
ルサファ:そんなバカなこと!ユーリ様はヒッタイト皇帝の
     ご側室だぞ!

ワセト:ラムセス将軍は、そのヒッタイト皇帝の軍に勝利
    なされたのだ。イシュタル様を手に入れたのも当然
    なこと。

ラムセス:(独唱・・赤い薔薇をくわえながら)
     私はつわものどもの軍勢を自ら率い、ムルシリ2世より
     勝利を得た!メンフイスじゅうがほめそやそう!
     そしてお前を連れて、私のやさしいユーリよ。
     お前に言おう
     「お前のために戦い、お前を得るために勝ったのだ」と!
     黒い髪黒い瞳のイシュタル、麗しのすがた
     光と薔薇の神秘な飾り
     お前は私の想いを統べる女王であり
     お前は私の生命の輝きなのだ。
     王家の薔薇飾りをお前の髪に飾り
     お前の王座を太陽の近くにまでも高めてあげたい

ユーリ:ああ!カイルが戦いに負けるなんて・・
    あたしのせいだわ!

ラムセス:寒いのか?震えているなんて!
     子どもを亡くしてしまった悲しみはまだ癒えないのか?

ユーリ:ああ、違うの!私の心は赤ちゃんのためにだけ嘆き悲しんで
    いるのではないの!私の涙してるのはカイルに合わせる顔が
    ないということ!

ワセト:ラムセス将軍!メンフィスにお着きになりました。

ラムセス:おお、上陸だ!ユーリお前にオレの故郷を見せてやろう
   (一同船を降りて退場)

  第1場終了

〜第2場〜


 メンフイスのラムセス薔薇屋敷にて
 屋敷は薔薇であふれている。薔薇色の漆喰の壁には蔓薔薇、庭には薔薇
 部屋には薔薇の香、わずかに中庭に蓮池がある。
 その中庭の柱に寄りかかり池をながめるユーリ。

 ♪薔薇は美しく咲く(ベルサイユの薔薇より)

合唱 薔薇は〜薔薇は〜美しく咲き、美しく散る
   (by エジプト合唱団)
ユーリ:そこらじゅう薔薇だらけのこの屋敷の中でここにだけ蓮が!
    前のカイルの宮にあった池のようだわ!

    (ラムセス登場)
ラムセス:ユーリ、ここにいたのか?どうだ!オレの屋敷は?
     これらは全てお前のために用意した薔薇だ。
     お前が望むなら百万本の薔薇を送ろう!

ユーリ:ああ、薔薇とその匂いでむせかえるようだわ!
    薔薇を避けるためにこの中庭へ来たというのに!

ラムセス:夜風は体に毒だ!いざ薔薇でしつらえたオレのしとねに!

ユーリ:気分が悪いの!薔薇の匂いを嗅ぐと!
    お願い、ラムセスあたしをほっといて!

ルサファ:将軍、ユーリ様は私が見ます。どうか、どうか
     ユーリ様をそっとしておいてください。
 
 (エジプト・トランペットが鳴り、王の使者の来訪を告げる)
ワセト:将軍、ファラオの使者がお見えになりました。

ラムセス:何と!奴(ホレムヘブ)はまだウガリットにいたのではないのか?
     何の用だ、いったい?

使者:栄光あるエジプトを統べるファラオより、偉大なる勝利者ラムセス将軍
   に申し上げます。ただ今ファラオは遠征地より凱旋なされました。
   つきましては、最大の功労者の将軍に祝いの宴をさしあげたいと・・

ラムセス:私の貢献など微々たるもの!受けるほどの値はないと
     ファラオに申し上げろ!

使者:それが・・将軍!ファラオは将軍がお連れになったイシュタル様を
   ご一緒するようにと・・

ラムセス:何?もうすでに耳に入っているのか?私がイシュタルを手に入れたこ
とを!

ルサファ:将軍、イシュタル様はまだお体が直っておりません。
     ましてや見せ物のようにエジプト人の目にさらすとは!

ラムセス:ユーリを置いて行けば、ファラオは兵を差し向けるだろう!
     私が連れて守るしかない!仕方がない!謹んでお受けしますと言え!
     (一同退場)

     〜第2場終了〜



                              【第2幕】

〜第1場〜

 テーベの都、エジプトの王宮内の大広間にてヒッタイト戦勝利の祝宴。
 エジプト国王が玉座に座を占める。その横に王大后、大臣、将校達が従う。
 さらに大勢の貴婦人や女官、召使い達がつき従う。

 ♪凱旋行進曲 (アイーダより)

群衆:エジプトとこの聖なる地を
   守りしイシスの神に栄光あれ。
女たち:勝利者達の髪に薔薇の飾りを編もう。
    薔薇のやさしき雲のごとき紗を
    武器の上に広げよう。
    勝利を讃えて!

 (トランペットを先頭にエジプトの戦士達の群が続々と入場!最後に士官達の
持つ
  薔薇の天蓋の下にラムセス。その後にエジプトの衣装をつけたユーリ)

 ♪シェラザード

群衆:来たれ、おお、栄光の戦士よ!
   来たりて、われらとともに楽しまん!
   勇士達の進む道に薔薇の花をまき散らそう!
国王:(玉座より降り、ラムセスを抱擁する)
   祖国の英雄よ!なんじに敬意を表しよう。
   近う寄れ、余が手ずから、なんじに
   勝利の薔薇飾りを差し出そう!
  
ラムセス:(本当はホレムヘブなんかに抱擁されるのはやだぜ!と思いながら)
     まずは陛下のご無事のご帰還をお祝い申し上げます。
     今や我らがエジプトの領土はオロンテス以北に及び     
     陛下の御威光はあまねくオリエント中に行き渡っております。
     偉大なるエジプトに栄光あれ!
    (断っておくがオレは801じゃないぜ!おえ〜)

国王:こたびの勝利はそなたの働きがあればこそ!
   ヒッタイトの憎きムルシリ2世をうち破り
   我らが領土を拡大した偉大なる将軍よ!
   今なんじが欲するものを私に求めるがよい。
   このような日にはなにものもなんじに
   拒まれることはない。

ラムセス:それでは国王陛下に申し上げます。
     私にしばしの休暇をいただき故郷のメンフイスへの  
     滞在をお許しいただきたく・・

国王:待て、ラムセス!これはそなたのための宴だ。
   しばらくテーベに滞在し、ゆるりと楽しむがよい。
   それにそなたがムルシリ2世より手に入れたイシュタルを見たい。

群衆:そうだ、そうだ!ヒッタイトのイシュタル!
   勝利の女神はエジプトの手に落ちた。

ユーリ:(人々の好奇の目に耐えながら)
    敵国エジプトに連れて来られ、見せ物になるなんて!
    でもこの場は耐えなければヒッタイトの恥になる。

ラムセス:恐れながら陛下!イシュタルは長旅で疲れております。
     このまま下がることをお許しいただければ幸いです。

国王:黒い髪黒い瞳のイシュタルは以前余も見たことがある。
   あの時はまだほんの小娘だったが・・見違えたな!
   ムルシリ2世はこの娘を溺愛しイシュタルを奪った黒太子を
   破り、ミタンニを滅ぼしてしまったと・・
   (ちらと王太后を見る)
   のうラムセス、ヒッタイトの戦利品としてこの娘を余に譲らぬか?

ユーリ:ああ、カイル!

(ユーリめまいを起こしラムセスにささえられる)
ラムセス:それだけはお許しを!
     陛下、この娘は以前より私が妻にと望みそのためだけに
     ムルシリ2世より奪いました。なにとぞ我が願いを・・
    (このロリコン野郎!と思っている←人のことは言えないが) 

国王:ううむ!ヒッタイトの女神をそなたが妻に?
   確かにこのたびの勝利はそなたのおかげ!
   だがこの件はしばし保留としよう。重大なことゆえにな。

ラムセス:それではお見苦しい限りですがイシュタルの気分がすぐれぬ
     ようなので、退席をお許しください。
    (内心「バーカ」と舌を出しながらもユーリを抱いて退場)

引き続き、国王、大臣や側近達を従えて退場。あとには王太后のみ残る。

王太后:後であの娘に密かに使者を送れ。我が宮殿に来るようにと!
    ラムセスには気づかれぬようにな。

家来:かしこまりました。王太后陛下。

   〜第1場終了〜 

 

〜第2場〜


ネフェルティティ王太后の宮殿の広間。
王太后は女官達に取り囲まれて座っている。音楽が流れ
黒人奴隷達が羽根扇で風を送っている。

♪クレオパトラのテーマ

召使い:イシュタルがお見えになりました。

(ユーリ登場。エジプトのドレスをつけ胸には例のチョーカー、後ろに
はルサファが従う)

王太后:お前がイシュタルか?近う寄れ!ヒッタイト皇帝の側室よ!
     いや今はラムセスの囲い者の身か?

ユーリ:あなたが王太后、いや黒太子のお姉さん。
    1度お会いしたかった。

王太后:運命は巡るものよ!お前の皇帝陛下の軍は不運でしたね。
     かつてはわらわの故国を滅ぼしたヒッタイトは敗北し、
     そしてお前はエジプトに捕らわれた。

ユーリ:カイルが負けた!あたしのせいで・・赤ちゃんもなくして
    あたしはカイルに合わす顔がない。それに今の身では!
    それよりあたしは、王太后に伝えたいことが・・

王太后:お前がわらわに何を伝えようと言うのか!
     お前のためにわらわの祖国は滅ぼされたのじゃ。
     お前がムルシリ2世をそそのかし、我が弟を
     たらしこんだに違いない!

ルサファ:王太后陛下!何と言うおっしゃりよう!
      ユーリ様を捕らえたのは黒太子です。陛下とヒッタイトに
     とってイシュタル様を取り返すのは必然のこと!

王太后:家来であるお前が口をはさむことではない!
     イシュタルは恐ろしい女神よの。
     か細い小娘でありながら3人の男を手玉にとるとは!

ユーリ:確かに我が皇帝陛下はあなたの国を滅ぼしました。
    でも黒太子は生きています。彼は国が滅びるその時まで
    お姉さんのことをずっと気にかけていました。

王太后:マッティがか?亡国の王子が世界に冠たるエジプトの女王を
     心配とは笑止な!世界中の富と権力をこの手に収めたわらわを!

ユーリ:そうして、あなたは本当に幸せだったのでしょうか?黒太子はずっと
    そのことを気にしていました。「姉上は変わった!」と・・

王太后:黙れ!お前ごときに何がわかると言うのじゃ!わらわはエジプトに
     君臨するのじゃ。これからもずっと!

ユーリ:これをご覧下さい(胸のチョーカーをはずす)
    これはカルケミシュ脱出の際、黒太子があたしにくれたものです。
    お姉さんのお嫁入りの時もらったイアリングをずっと持っていたの。
    だから、これだけは絶対あなたに渡そうと思って・・



王太后:これは、わらわのイアリング!おおマッティ。
    (泣き崩れる)

ユーリ:黒太子は本当にお姉さんのことを大事に思っていたんです。
    そして今はたぶんナディアさんとバビロニアで静かに暮らしていると・・
    あたしもカイルいや陛下のことが大事だから(涙ぐむ)
 
王太后:だからイシュタルとなり愛する男のために戦ってきたと?
     そのためだけに?
     お前は権力を手に入れぜいたくな暮らしをしようとは思って
     ないのか?

ユーリ:いいえ!あたしにはカイルがいえ陛下が全てなのです。
    たとえカイルが一国の皇帝でなく一介の兵士や農民であったと
    しても、あたしは彼を愛したでしょう。

王太后:お前は不思議な娘じゃ。ムルシリ2世や弟、そして野心家の
     ラムセスまでがお前を求めるのか少しはわかってきたような。
     そうだ。わらわがミタンニより持ってきた無味無臭の眠り薬が・・
     これをラムセスのワインに混ぜて逃げるがよい!
     わらわはすでに遅いがお前ならまだ間に合う。

ルサファ:(息せき切って)
      ユーリ様!陛下より通信文が!すでに国王が連れてきた
      捕虜に紛れてエジプトに潜入されたそうです。

ユーリ:ええっ、カイルが?エジプトまで!こうしてはいられない。
    王太后、失礼します。

王太后:無事に逃げおおせるがよい!イシュタルよ。お前ならできる。
     懐かしい夢を見せてくれた。
(ユーリ、ルサファ退場)


〜第2幕 第2場終了〜

                               【第3幕】

〜第1場〜


王宮下の地下牢。長い廊下が続き暗闇に消えている。
国王がウガリットより連行したヒッタイトの捕虜が
閉じこめられている。

(ルサファとユーリ登場)
ルサファ:ユーリ様こちらでございます。お早く!

ユーリ:こんなところに地下牢が!ルサファいったい、これは?

(地下牢の中にいる捕虜が振り向く。髪は黒く顔は泥で汚れているが・・)
♪トリスタンとイゾルデ〜愛の死〜(二重唱)

カイル:ユーリ?本当にお前なのか?

ユーリ:カイル?カイルなの?一国の皇帝がこんな所にまで!
    髪まで染めて、こんな姿で!(涙声)

カイル:潜入ならお手のものだ!お前を失い生きながら抜け殻に
    なるくらいなら、こんなことは何でもない。
    本当にお前だな?よく顔を見せてくれ!

ユーリ:あなたの赤ちゃんを失ってエジプトまで連れてこられ
    もうカイルに合わせる顔がないと思っていたけど・・
    こうして来てくれるなんて・・もう、あたし死んでもいい
    愛!それは甘く〜♪

カイル:私もだ!ユーリお前に会えたから、今この場所で
    ラムセスに斬り殺されても構わない!
    愛、それはせつなく〜愛、愛あ〜い♪
(2人とも見つめ合い、いつまでも歌い終わらない・・オイオイ(^_^;)

ルサファ:(ちょっとあわてて)
     陛下、ユーリ様!それは困ります。私がユーリ様をお連れした
     のはお2人を無事に逃がすためです。さあ早く!
     今鍵を開けますから。

ユーリ:そうだ!ラムセスの眠り薬がきいているうちでないと・・
    でもカイル、どうやってこの砂漠を越えて逃げるの?

カイル:安心しろ!私も退路の確保なしには無謀の計画は立てぬ。
    ナイル川沿いの間道を抜けシナイ半島に抜ければキックリが
    待っている。それからアラビア半島を突っ切るつもりだ。
    ただルサファ、エジプト兵を配置してない間道の調べはついたか?

ルサファ:申し訳ありません、陛下!私はいつもラムセスに厳しく見張られて
     身動きが取れず、連絡をとるのがせいいっぱいで、
     そこまでは・・

カイル:神のみぞ知るか・・運が私達にあれば逃れられようが、危険なかけだ!
    しかしいつまでもぐずぐずしてられない。
(カイル天を仰いでため息をつく)
ユーリ:カイル、それはナパタの峡谷よ!ラムセスが眠る前に言っていたわ!
    さあ、早く逃れましょう。暑く住みにくい、この不毛の土地を!

カイル:やはりお前はイシュタル!よくそれを・・
    しかし、その情報を手に入れるにはどうして?

ルサファ:エジプトの王太后が協力してくれたのです。
     陛下!取り上げられた剣の代わりに私の鉄剣を!

カイル:よし逃れよう!果てしなく続く砂漠を抜けて
    赤い河が流れる!城壁のあるハットゥサへ!

ユーリ:7つの泉のハットゥサ!
    早くさわやかな谷間や緑の平野が見たい!

ルサファ:では急ぎましょう!捕虜達を解き放ち
      いざヒッタイトへ!
(ルサファ、ヒッタイトの捕虜達の閉じこめられている牢を
次次と開けていく)

兵士達:エジプトにイシュタル様が助けに来るなんて!
     イシュタル万歳!御名を永久に讃えん!
(カイル達は密かに地下牢を抜けだし夜の闇へ消えていく。
あとには深い深い闇)

〜第3幕 1場終了〜

 

〜第2場〜


エジプト、ナイル河畔の峡谷の間道を走る馬の列
周囲は砂漠が広がり強い日差しが照りつける。

(馬で走りながら)
カイル:もうすぐ、危険な間道を抜ける。
    ユーリ、お前の言葉通り、兵はいなかった。
    シナイ半島さえ抜ければ・・

ユーリ:気をつけて、カイル!ラムセスのことだから
    きっとスパイを置いているに違いない。
    早く、早くしないと追ってくるわ!

ルサファ:陛下!なぜ、こんな危険な間道を通り砂漠を
     突っ切るのですか?闇に紛れ船で下ればユーリ様の
     お体にもずっと楽かと?

カイル:私がラムセスなら・・ナイル川を通る船は全てチェックし
    一隻も逃さないであろう!川を行けば一網打尽だ!
    危険なようだが砂漠の封鎖までは無理なのだ。

ユーリ:恐ろしいラムセス!ナパタの道を聞き出す時も全て見透かされて
    いるような気がして・・もう後ろから追って来てるかも!

カイル:ユーリ、奴のことは忘れろ!悪い夢でも見たと思って!
    いや私が忘れさせてやる。エジプトでのことは全て。

(やがて狭い峡谷の終わり、カイルの側近キックリがアスランを連れて待つ)

キックリ:陛下、よくご無事で!ユーリ様よく帰って来られました。
     さあ、愛馬アスランに乗り換えて急ぎましょう。

(一行は更に急ぐが、やがて後方よりかすかに戦車の砂煙と馬の蹄の音が
 近づいてくる)
   ♪帝国の逆襲(by スターウォーズより)    
 
ラムセス:ユーリ、俺の腕の中で「愛しています」と言ったのは嘘か?
     口移しで飲ませてくれたワインが裏切りの蜜の味だったのか?
     俺から逃れようとしてもそうはさせん!

カイル:ラムセスめ!もうここまで来たか!何とか持ちこたえろ!
    せめて、もう少し行けば・・

ラムセス:エジプトの兵士達よ!あれに見えるは憎き敵!
     ヒッタイトのムルシリ2世だ!奴を討ち取り首を取った者は
     たくさんの黄金を与えよう!
     さあ、急げ!急ぐのだ!

ユーリ:カイル、ラムセスが追ってきたわ!きっとすごく怒ってる!
    間道を聞き出すのにあたし・・・
    カイルもラムセスも裏切ったことになるんだもの。

カイル:お前に色仕掛けができるようになったのなら上出来だ(笑)
    それをヒッタイトに帰ってから私にやってくれないか?

キックリ:陛下!こんな時に何言ってるんですか!ラムセスはどんどん
     迫ってきます。

カイル:慌てるな!キックリ、ルサファ!例の道が見えてきた。
    手はず通りやるんだ。ユーリは先に行かせろ!

キックリ、ルサファ:ははっ!

(やがて両側に高い岩場がそびえ立つ狭い谷が見えて来た。カイルはユーリの馬

 先に行かせ自分はしんがりとなってラムセスを迎える)

ユーリ:カイル、危ない!気をつけて。

カイル:来い!ラムセス、待っていたぞ。今度こそ私と一騎打ちだ!

ラムセス:望むところだ!かかって来い。
     ムルシリ2世よ、お前を殺せばユーリは永遠に俺のものだ。
     赤い薔薇で赤い河を埋め尽くしてくれるわ!
     
(2人の剣の間に激しい火花が飛び散る。決着はなかなかつかない。息を呑んで
見守る
 兵士達とともに2人は谷の奥深くへ少しずつ進んで行く)

カイル:今だ!ルサファ、合図を!

ルサファ:弓兵隊出よ!崖の上より矢を射かけよ!

ラムセス:しまった!罠か?大部隊も狭い道では一列となり上からの攻撃には弱
い!
     くそっ、ムルシリ2世め!

カイル:地中海沿いの街道はエジプト軍が押さえているが、さすがに内陸部まで

    不案内だったようだな。
   

ラムセス:くそ、俺としたことが。引け!この場は引くのだ!

(ラムセスは敗走するエジプト軍を率い、来た道を引き返して行く)

カイル:ユーリ!ついにお前を取り返したぞ!さあ早くヒッタイトに帰ろう!
    これで私の胃痛のストレスは終わりを告げお前との愛の日々がまた始まる!

ユーリ:カイル!愛しているわ!もうずっと離れない!離さないでね!
   (でもカイルもストレスだなんて・・太○胃散がいるんじゃない?)
    愛の日々もいいけれど、ナッキーとの対決も待っていることもお忘れなく!

 こうして2人はヒッタイトの本拠地である赤い河のほとりへと帰って行った。
オペラだろうとパロディだろうと本編だろうと カイルとユーリの間には 見えない赤い糸で 結ばれていた。
ラムセスやナキアの手により 絡まり切れそうになることはあっても 糸は エジプト綿100%で
出来ている頑丈な糸。誰にも2人の仲を引き裂くことは出来なかった。
2人を結ぶ赤い糸のようにヒッタイト帝国を流れる赤い河は 悠大に 誰にも侵されることなく
静かに流れていた。

       〜幕〜

 

                             【楽屋裏編】

〜オペラ出演者 後書き〜
(オペラが終わった後の楽屋でのオフレコより・・)

イル・バーニ:どうです今回のは?陛下の体調がおもわしく
       なかったので変更しましたが、音楽監督&
       演出家としては苦労しました。

カイル:何?私の胃痛のせいか?次回は絶対ハットゥサで
    ユーリとの出会いからやりたいのだが・・

ユーリ:え?「♪月が出た出た」で(笑)
    イル、前奏曲をもっと何とかしてね。
    でも最後がカイルとラブラブであたしはラッキー!

ラムセス:オレは不満だぜ。せっかく途中までカッコよく
     決まってたのに何で最後はああなんだ?

ユーリ:そりゃもちろん、悪役が必要だからに決まってるでしょ!

カイル:ところで、ユーリ途中のセリフがちょっと気になるのだが
   「カイルもラムセスも裏切った」って、お前まさかラムセスと

ユーリ:え?何のこと?(ちょっとあわてて)
    も、もちろん、そんなことあるわけないじゃない。

ラムセス:いや、まだ本編のエジプト編は始まったばかりだから
     わからないぜ!オレの息子?セティ1世を生んだりして・・

ユーリ:バカ!そんなことあるわけないでしょ!(バチーン)

カイル:全く!皇帝の身で捕虜になって地下牢だなんて!
    オマケはキックリしか連れて行けないし、もういやだ。

キックリ:そ、そんな陛下〜私は陛下の身が心配でエジプトまで
     ついて行ったのに〜(T_T)

ユーリ:でもカイル!あたし黒髪に染めたカイルをもっとじっくり
    見たかったんだけどな。

ルサファ:私はあれだけユーリ様について行けて満足です。

キックリ:ルサファいいとこばっかり、ズルイ(;_;)

イル・バーニ:まあ機会があったら、やってみましょう。陛下とユーリ様の
       出会いとナキア皇太后との対決を!

カイル:イル、期待しているぞ。今度は私はあくまでカッコよく優雅に
    決めてくれ!

ラムセス:いや、次回はオレのユーリ奪還作戦だってば(懲りてない奴)

(こうして彼らの次回作談義はまだまだ続く・・果たしてオペラ次回作は
 あるのか?乞うご期待かはわからない!)


続いちゃったりして…

                        【番外編2 オペラ in エジプト】


 月の明るい晩、ラムセスの屋敷の大広間にて宴が開かれよう
としていた。宴会場には大勢の召使いとたくさんのご馳走、そして
ラムセスの姉妹達が待っていた。

(ファンファーレ)〜ラムセスとユーリの入場

ラムセスの姉1:ウセルが来たわ!例の娘を連れて・・・
ラムセスの姉2:見た通り小さな娘ね。黒髪に黒い瞳。でもこれと言って
          特別美人でもグラマーでもないみたい。

ラムセス:これは俺が妻にする娘だ。ウガリット方面より連れ帰った。
      お前達よろしくな!
ネフェルト:兄様!いったいどこのどなたをお連れになったの?
       エジプト人じゃない娘ね!
ラムセス:どこの誰だろうといいだろう?お前達には関係ない。
ユーリ:あたしは一介の踊り子です。
ネフェルト:ふーん、とてもそうは見えないけど・・・
       でも踊り子ならひとつ舞いを舞ってもらいましょうよ。

ユーリはラムセスの手を払いのけると羽織っていたマントを脱いだ。
たちまち胸当てと腰布だけをつけた妖艶な踊り子の姿になった。

ユーリ:楽士の方、音をください。

♪7つのヴェールの踊り〜サロメより〜

ラムセス:ユーリがこんなに踊れるとは思わなかった。
      俺のそばへ来てもっとよく見せてくれないか?
ユーリ:もちろんあなたのためならば・・・
    カイルから乗り換えた愛の証としてキスしてもいい?
ラムセス:本当か?ではそこのワインを口移しで俺に飲ませてくれ!

 ユーリはワイン壺から口にワインを含むと踊りながらラムセスの
そばへ来てラムセスの首に手を廻しながらキスをする。ユーリの
腰布の中に小さな短剣が隠してあるのをルサファは見逃さなかった。

ネフェルト:危険だわ!あの娘は!きっと兄様を殺してしまう。
ルサファ:ユーリ様!何ということを!きっと何か意図があるのでしょうが
      私には耐えられない。陛下!ユーリ様をお許しください。

ラムセス:ユーリ、俺はお前に酔ってしまったようだ。もっともっとお前が
      欲しい。このまま抱いて寝所へ連れていくぞ!
ユーリ:嬉しい!あたしもあなたが欲しいの。
ラムセス:では、その唇から「ラムセス愛してます」と言え!
ユーリ:ラムセス愛してる。あたしにはあなただけなの!

 ラムセスはユーリを抱き上げ寝所へと向かう。宴はお開きとなり
姉妹達はそれぞれの部屋へ引き上げる。だがラムセスの部屋の前で
様子を伺う人影が・・・

ルサファ:ユーリ様、私はここからは入れません。どうかご無理をなさら
      ないでください。あなたがラムセスと差し違える気なら私も命
      をかけましょう。

 やがて月が高くのぼりルサファの影を映し出した。ラムセスの部屋から
ユーリがマント1枚だけをはおって出てくる。

ユーリ:ルサファ、こんな所まで・・・ごめんなさい。あたしにはラムセスの
    首を取ることはできなかった。
ルサファ:いいえ。あなたが人を殺めることはできないと思ってました。
      イシュタルがその手を血で汚すことはありませんとも。
ユーリ:それよりラムセスは薬がきいて眠っているわ。さあ今のうちに!

 その時柱の蔭からネフェルトが出てくる。

ルサファ:誰だ?
ネフェルト:やはりあなたには兄様は殺せなかったのね。
ルサファ:人を呼ぶのか?
ネフェルト:まさか!あなたもわけありなんでしょ?兄様だって正当な方     
   法で連れてきたとは思えないし・・このまま行ったら?
ユーリ:いいの?ネフェルト姫?
ネフェルト:ぐずぐずしてると人が来るわ!さあ早く行って!

 ユーリとルサファは夜の闇に紛れて船を出しいずこともなく去っていく。
後には暗闇が広がる。
                  〜おわり〜