にくいアイツに呪いをかけろ!
〜ぴかぴかシリーズ
BYまゆねこ


1.きっかけは昼休み
2.呪いの本を探せ!
3,ザナンザの陰謀
4,決行! 呪い? 大作戦
5.カイル、ラムセスに化ける
6.ラムセス(カイル)の誤算
7、変身その後



1.きっかけは昼休み


 ある日の昼休みのことである。カイルやラムセスをはじめとする
いたずらっ子達はいつものように元気に外で遊んでいた。
 最近彼らが遊んでいるのはキックベースである。
今日もカイルを中心とするチーム対ラムセスチームとの試合?(彼らはそう呼んでいる)
が行われていた。
 攻撃はカイルチームである。
「カイル君! 絶対ホームランだ! ラムセスなんかやっつけろ!」
 カイルと同じチームのカッシュが叫んだ。
「まかせとけって!」
 カイルが張りきって答えると敵のピッチャー、ラムセスが叫んだ。
「させるか! 俺の剛速球を受けてみろ」
 ラムセスがボールを勢いよく転がすとカイルも負けじとボールを蹴った。
ボールはラムセスの頭を越え転がって行った。
「ようし、いいぞ!走れ!」
 カイルの前にもランナーがいたので点を取れるチャンスである。
カイルのチームのメンバーはホームに向かって走った。
 しかしラムセスのチームもさる者! たちまちボールが返ってきた。
ちょうどカイルがホームに向かおうとした、その時である。
ラムセスがカイルに向かってボールを投げた。カイルがホームを踏むのと
ラムセスがカイルの体にボールを当てるのとほぼ同時だった。
「アウトだ!」
 ラムセスが叫んだ。
「何言ってんだラムセス! 僕がホームを踏む方が早かったぞ」
 ボールを思い切りぶつけられたこともあってカイルは頭にきて叫んだ。
「お前こそ何だよ! 俺が当てた方が早いに決まってるじゃないか!」
「何だとやるか!」
 いつもは冷静なカイルなのにラムセスの挑発にも乗ってラムセスに近寄ってきた。
「アウトと言ったらアウトだ!」
 こうなったら後へは引けない。カイルもラムセスもお互いの胸ぐらをつかんだ。
「絶対僕は譲らないからな! みんなだって見てたよな?」
「そうだ、そうだ!」
 カッシュはじめカイルのチームはもちろんカイルに賛成する。
「いやアウトに決まってるさ!」
 ワセト達ラムセスチームはラムセスに同調する。
 カイルとラムセスを中心にお互い一触即発!というその時!

「おい!お前達やめろよ!」
 カイル達のただならぬ様子を見かねたのか、そばにいた上級生が止めに入った。
「つまらないことでけんかしないほうがいい。せっかくみんな楽しく遊んでるのに!
いいかお前達?」
 上級生に言われたら何も言い返すことができない。それに言われたことももっとも
だったのである。
 しぶしぶカイルとラムセスはどちらともなく、つかんでいた胸ぐらを離した。
だが、何となく気持がすっきりしない。
『くそーラムセスの奴! 絶対セーフだ!」
 カイルの心の中はむしゃくしゃしていた。何だかとっても頭にくる気分である。

 その時キンコンカ〜ンとチャイムが鳴って昼休みが終わった。
「おいラムセス! ボールはお前が片づけるんだぞ」
 すっかり頭にきていたカイルはいつもの彼に似合わず持っていたボールを
ラムセスに向かって投げつけた。
「何すんだよムルシリ! 最後に持っていた奴が片づけろよ」
 ラムセスも負けずにカイルに投げ返した。
「この野郎〜何すんだよ!」
「それはこっちの台詞だ!」
 こうなったらもう誰にも止められない。校庭のまん中で2人の喧嘩が始まってしまった。
「おい、喧嘩だぞ」
「カイルとラムセスだ」
「誰か先生呼んでこいよ。早く早く!」
 たちまち大騒ぎになってしまった。もちろん先生がすぐ呼ばれて2人はこってりと
油を絞られたのはもちろんである。
「カイル君、ラムセス君とケンカしたのかもしれないけど、ボールの片づけを
押しつけようとしたのは確かにあなたの方が悪いわね! あなたらしくもないし……」
 と、いつもはラムセスの方が悪いことが多かったりするのだが、
今回はさすがにカイルに分が悪かった
「でも…でも先生! 絶対僕はセーフだったんだから…」
「そんなことぐらいでカッカするなんてあなたらしくありませんよカイル君!
もちろん一緒にケンカしてしまったラムセス君も悪いけれどね」
 そう言われてもなぜか今日に限って納得できないカイルであった。



2.呪いの本を探せ!

 そういうわけで、カイルは午後の授業はすっかり上の空であった。発言ももちろん
できなかったし、ノートを取るのさえ忘れそうであった。
「くそっ! 勉強に身が入らないのも、鉛筆が折れたのもみんなラムセスのせいだ!」
 そう言ってカイルは間違えたノートを消しゴムで力まかせにゴシゴシこすって、
すっかり真っ黒にしてしまったのである。

 もちろん帰る前に、いつも先生が読んでくれる本にも気が乗らなかった。
その時もボケーとして聞いていた。
「……ハリーはダイアゴン横丁で『嫌な奴に呪いをかける方法〜ハゲ・かえるなど』
 の本に夢中になって読みふけっていた。もちろんその後でハグリッドに
『お前には呪いなど十年早い』と引き戻されましたけどね……
では今日の読み聞かせはここまでです」
 カイルは先生の声にはっとした。
『呪い? 呪いだって…ラムセスに呪いをかけて蛙に……いやハゲにしたって
笑い者だな!』
 急によからぬことをたくらんでしまうカイルであった。そこで横にいた
イル・バーニをつついた。
「おい、イル。今先生が読んでくれた本って何だよ?」
「え? 何です急に! 『ハリー・ポッターシリーズ』って言う魔法使いの
お話の本ですよ。まあ私には取るに足りない…」
「魔法使いか…それなら呪いの呪文もあるかもしれないな?」
 カイルは急に目がきらきらした。
「呪い? のろい? …かたつむりのことでも興味あるんでしょうかね?」
 イルは全く気にかけない様子であった。

 帰りの会が終わるとカイルはダッシュで図書室に向かった。
学校の図書室にあるとは思えないが一応呪いの本を探そうと思ったからであった。
「呪い…呪い…やっぱりないなあ。占いとかお化けの本ならあるんだけどな!
何だこれ?こざとへんに今二ム陽…?って」
「それは陰陽師…オンミョウジと読むのじゃ」
 ふいにカイルの後ろで声がした。振り返るとナキアであった。
「何をしておるのじゃ? 放課後に図書室でお目にかかるとは珍しいのぉ」
 いつもふけた感じで不気味な奴と思っていたが、変な字が読めるとは
やっぱり怪しい。
「何だよ?お前には関係ないだろ!」
 そう言ってカイルは今手に取った本を後ろに隠した。
「ふふふ…お主にしては珍しいのぉ。今日先生が読んでくれた本に出てきた
呪いの本でも探しておるのか?」
 思わずナキアに図星をつかれたのでカイルはドギマギした。
「お前こそ何だよ。帰れよ。関係ないだろ!」
 と、富士通FMシリーズで由紀さおりに切り返されてあわてた
キムタクのように返事をしたカイルであった。
「考えてみりゃこんなとこにあるわけないんだよな!」
 カイルは慌ててナキアを振り切りランドセルをしょって学校を出た。

 そして家に着くが早いか、ランドセルを玄関に置いたまま自転車に乗って
飛び出した。
「ママは買い物みたいだな。すぐ帰ってくるから急いで図書館に行ってみようっと!
あそこなら絶対何かあるかもしれないしなー」
 そう言って町の図書館に向かって猛スピードで自転車をこいだ。

 図書館に着くと平日のせいか人はあまりいなかった。
でも『呪いの本はどこですか?』なんて図書館の人に聞けるわけがないので、
カイルはコンピューターの検索で調べることにした。
「えっと…『呪い』だから『の』で調べればいいのかな?」
 一度学校の勉強か何かで来たことはあったが、一人だけで来るのは
初めてだったが、何とか検索することができた。
 すると呪いの本は1冊だけあったが残念ながら貸し出し中であった。
「僕の他にもこんな本借りようとする奴もいるんだな…」
「おや! またお前か? 奇遇じゃの〜」
 と、またまたカイルの後ろから声をかける者があった。
「わっ! ナッキー! 何でお前また図書館にいるんだよ?」
 しかし、ナキアは他にも怪しげな本を持ったままカイルに言った。
「わしは勉強家だからの〜そう言えばラムセスもさっき図書館に来ておったが
案外お主と同じ目的だったりしてなー」
 そう言って閲覧室の方へ行ってしまった。
「ナッキーが勉強家? 考えただけでも気味悪い物勉強してんだろうな?
奴も案外魔女だったりして…」
 よそう! 笑えない冗談だ。ナキアが魔女だなんて似合い過ぎてる!
白雪姫の毒リンゴなんて絶対作りそうだ! カイルは身震いすると慌てて図書館を出た。
「ラムセスも図書館へ?すると奴も僕を呪い殺そうとしてるんだろうか?」
 カイルは帰る道すがら、たまらなく不安になった。

                   
3,ザナンザの陰謀

 カイルが図書館から家に着くと急に頭が痛くなってきた。
「何だ?突然頭が痛くなるなんて! アイタターいったいどうしたんだろう?」
 カイルは激しい頭痛に耐えきれなくなって慌てて家の中に入った。
「ママー! ぼく頭が痛くなっちゃったんだけどー」
 カイルは玄関で靴をぬぎながら叫んだ。しかし返事はなかった。
きっとママはまだ買い物から帰ってないいんだろう。
「仕方ない。ママが帰って来るまでベッドで寝てようっと」
 カイルは頭を抱えながらやっとのことで2階に上がった。

 すると、コーンコーン!と木に物を打ち付けるような変な音が聞こえた。
弟のザナンザの部屋から聞こえる。カイルは頭の痛いのも忘れてドアを開けた。
「おい…ザナンザいったい、お前何やってるんだ?」
 カイルは部屋に入ってびっくりした。柱にわら人形が打ち付けてあったのだ。
しかも頭の部分に大きな五寸釘! そして胸には『カイル』と書いてある。
「お前…もしかしてぼくのこと呪ってたのか?」
 カイルは真っ青になって叫んだ。だがザナンザは兄を見て悪びれもせず言った。
「あれ? 兄上、変だなあ‥効き目は今一だったのかな?」
「お前なあ! ぼくはもう少しで頭が痛くて死にそうだったんだから!」
 カイルはたまらずにザナンザの胸ぐらをつかんだ。
 と、その時カイルの目に1冊の本が目にとまった。
何と図書館で貸し出し中だった呪いの本だ。
「図書館にあった呪いの本はお前が借りてたのか?」
「だから何だと言うの?兄上、ぼくは色々と調べることがあったんだよ!」
 ケロリとして言うザナンザにカイルは『こいつはひょっとしたら
敵にまわすと1番怖い奴かもしれないぞ』と思った。
それに呪いの本は弟の手の内にある。これは絶対…
「いやあ…ちょっと頼みがあるんだけどザナンザ君!」
 兄の誇りはどこへやら?いきなり態度を豹変させるカイルであった。
「ちょっと…その本を貸してもらいたいんだけど」
「ふうん、兄上が?珍しい! いったい何に使うのかな?」
 思わずザナンザの目がきらりと光った。
「それで兄上は誰に呪いをかけるの?」
「そんなことどうだっていいじゃないか! ぼくのお小遣い一ヶ月…
いやお前がやりたがってたゲームのソフトやるからさあ」
 ここで弟に弱みを握られたら大変! とカイルも必死に食い下がる。
「別にぼくは、そんな物に興味はないよ。まあだいたい兄上の考えそうなことは
わかるけどね」
 ふふん…とザナンザは不敵な笑みを浮かべた。全く食えない弟である。
「それでお前は何でこんな本図書館から借りて来たんだよ?」
「まあ…ぼくも色々勉強したいのさ。兄上と違って勉強家だから」
おいおい…何の勉強だよ? カイルは心の中でつぶやいた。
全くナッキーと言い、ザナンザと言い何でこんなに自分の周りには
不気味な奴が多いのであろうか?

「カイル、ザナンザ、おやつよ、降りてらっしゃい。今日はおいしいケーキを
焼いたのよ」
その時ヒンティママの声が響いた。
「じゃあ兄上、手始めに今日のおやつもらうよ」
「何だって!さっきはそんな物興味はないって言ったじゃないか!」
「さっき兄上の言ったのはゲームや小遣いでおやつは入ってなかったよ」
「そんな約束だってしてないじゃないか!」
カイルが声を荒げるとザナンザは片目をつぶって続けた。
「あ・に・う・え! ぼくが借りた本が早く見たいんじゃないの?」
「むむむ…このやろう!」

 その後ママに呼ばれて下に降りて行ったのはザナンザ1人だった。
「あらザナンザだけ? カイルはどうしたの?」
「お腹が痛いから、ぼくに兄上の分のケーキも食べていいってさ!」
「そうなの?珍しいわね。大丈夫かしら?」
そうしてザナンザは涼しい顔をしてカイルの分もケーキを平らげた。


4,決行! 呪い? 大作戦

「じゃあ兄上、今から僕が言うことをよく聞いてね。まず用意する物は…と」
そう言ってザナンザは本を得意げに読み出した。
本当は弟にあれこれ指図されるのは大嫌いなのだがこの場合は仕方ない。
「イモリの黒焼き、カエルの心臓、エノコログサの根、ハシリドコロの種…
それから熊の掌等々の薬の材料、ポリジュース薬云々…その他などなど…」
「ずいぶん手に入りそうもない物を入れるんだな? やっぱり僕やめようかな…」
カイルはザナンザの言う材料が何であるかさっぱりわからなかったし、
イモリの黒焼きやカエルの心臓などわかる物だって食べるのは、
まっぴらごめんだと思った。それに元々はラムセスとのケンカから
始まったことだし…しかしザナンザは続けた。
「いや兄上! だいたいの材料は僕何とか手に入れられるから…それより兄上には
絶対手に入れてもらいたい物が、いやこれは兄上しか手に入れられない物だよ!」
「お前さあ、そんな変な物どこで手に入れるんだよ?」
カイルが聞くとザナンザは片目をつぶって言った。
「それは秘密さ! それより兄上に手に入れて欲しいのは呪う相手の物…
つまりラムセスの体の一部を手に入れてほしいんだ!」
「何だって!」
カイルはびっくりして聞き返した。
「体の一部と言っても指や足なんかを切るんじゃなくてさ…」
「あたりまえだ!」
「まあまあ興奮しないでよ。それは冗談だから! つまりラムセスの髪の毛とか
爪とかでいいんだけど手に入れて来て欲しいんだ。呪いはこれがないとだめだからね!」
「何だって? 僕にラムセスの爪の垢でも煎じて飲めと言うのか?」
またまたこれにはカイルがむきになって聞き返した。
「そりゃあ爪の垢でも鼻くそでもいいんだけどさ…って兄上、
さっき僕はそこまで言ってないだろ!」
「当たり前だ! ラムセスの鼻くそなんかバッチイだろ! おえっ」
「全く…兄上と話してると疲れるんだから! つまりラムセスの髪の毛とかで
いいから手に入れてきてくれない?」
「で、それを手に入れてどうするんだ?」
だが、まだカイルはうさん臭そうにザナンザに聞いた。
「さっきみたいに藁人形にしこんでもいいんだけど、それじゃつまらないだろ?
どうせなら呪う相手…つまりラムセスになって思い切り悪さを働いてやれば?」
「そうか! それで思い切りユーリちゃんや女の子に嫌われるようなことをすれば、
ラムセスの人気は下がること間違いなしってことか? お前って頭いいな!」
 カイルはザナンザの言うことにすっかり感心してしまった。しかしザナンザは
『全く兄上ってお人好しなんだから…でもこれで、しばらく弱みをつかむことが
できるぞ…しめしめ』とすっかり兄の一歩も二歩も先を行く恐ろしい弟(笑)であった。

 さてザナンザから『とにかくラムセスの髪の毛でいいから手に入れてきて』と
言われたカイルであったが、これがなかなか難しかった。
最初は『ラムセスは目立つ金髪だから平気さ』とたかをくくっていたが、
机の上とか床に落ちた髪の毛は意外と見つかりにくい物であった。
それに落ちていた物ではなかなか本人のとは確認しにくい。
「そうだ! 下駄箱だ! ラムセスの靴の中なら案外あるかもしれないぞ」
 そう考えてカイルは、周りに誰もいないのを見計らってラムセスの靴の中を
のぞいた。しかしラムセスの髪の毛らしき物は見当たらなかった。
「うーん残念! やっぱり強引に抜き取るしかないかな?」
 そんなカイルの様子をじっと見ている者があった。同じクラスのセルトであった。
彼女は思いこみが激しく、カイルのことをずっと好きであった。
ストーカーまがいのことをして嫌われたこともあったが、今でもその癖は直っていないようだった。
「まあ! カイル君ったらラムセスの靴なんかじっと見て何してるのかしら?」
 そんなことには気がつかないカイルは仕方なく実力行使に出ることにした。
現在のカイルの席は運のいいことにラムセスの隣であった。
(そういや前にもそんなことあったかな?笑)
『バチン!』
「痛っ! 何すんだよ! ムルシリ」
 突然カイルがラムセスの頭をたたいたのだった。
「いや〜お前の頭に蚊が止まってたものだからさぁ…」
「バカヤロー! この真冬に蚊なんかいるわけないだろ!」
「だって確かにいたんだから」
 カイルはそう言って嘘ぶいた。そのついでに二,三本髪の毛を
むしりとってやったのである。
「ちょっと! そこ! ラムセス君うるさいわよ!」
 
やっぱり…というかラムセスは先生に注意された。
 しかし、その様子をしっかり見ている者がいた。さっきのセルトである。
「やっぱりカイル君は頭をたたくふりをしてラムセスの髪の毛を抜き取ったわ。
さっきもじっと下駄箱で、ラムセスの靴を見つめていたし…カイル君って
ラムセスに○○○なのかしら? きゃあ、そんなぁ…」
     (↑好きな言葉を入れよう・爆)
 こうしてカイルの呪い大作戦は一人の女の子の誤解と共に進行していくのだった。



5.カイル、ラムセスに化ける

「ようし! これで呪いの薬ができたぞ! 後は兄上がラムセスに化けるだけさ」
 ヒンティママの留守の間、台所で鍋をかき回していたザナンザが叫んだ。
「お前さあ、本当に僕にこんな臭い物を飲ませるのか?」
 カイルが鼻をつまみながら言った。
「あったりまえじゃない! ここまでやったんだから、飲まないでどうするのさ?」
 ザナンザは、鍋の液体を瓶に詰め替えながら、さも楽しそうだった。
「ところで、ザナンザ! 奴に化けるのはいいんだけど、どうやって入れ替わるんだ?
あいつを捕まえて縛っておいてもいいんだけど…それじゃいつかバレるだろ?」
「兄上! 頭はこういう時に使うもんだよ」
 ザナンザはそう言って片目をつぶった。
「ちょうど昨日ネフェルトちゃんが風邪ひいて学校早退したんだ…」
「そんなこととラムセスに化けることと、どんな関係があるんだよ!」
 カイルは弟が違う話を始めたので頭にきていた。
「まあまあ! 話を最後まで聞いてよ。だから、たぶん彼女は明日休む
かもしれないでしょ?」
「だからってラムセスも一緒に休むとは限らないぞ! バカは風邪ひかないって
いうだろ!」
 カイルが反論したがザナンザは続けた。
「だから明日学校へ行く前に僕がネフェルトちゃんの家に『具合はどう?』って
連絡するつもりなんだ。そうすれば、ついでにラムセスも風邪で休んだか
どうかわかるだろう?」
「なるほど…そう言えばラムセスも咳をしていたな? 
でも、もし明日休まなかったらどうするんだ?」
「それなら、もう少し待ってもいいさ。とにかくラムセスの欠席がわかったら、
ぼくが兄上に教えるからそうしたら、学校へ行く途中の公園のトイレで
ラムセスに化けるんだ!」
「なるほど! お前ってあったまいいな!」
 カイルはすっかり弟の計略に感心してしまった。
「せめて謀略と言ってほしいね!ふふん兄上が隆元なら、ぼくは隆景ってとこ
かな…」
「え?何のことだ?」
「いやこっちの話さ…僕たちって優秀な兄弟ってことさ!」
 とにかくザナンザは自信たっぷりであった。

 次の日、ザナンザは学校へ行く前にラムセスの家に電話をした。
「兄上! ネフェルトちゃんとラムセスはやっぱり風邪で休むってさ!」
「オッケー! ザナンザ、じゃあぼくは出るから後はよろしく」
 そう言ってカイルは、ママに気づかれないように、こっそりと玄関を出た。
「しめしめ…これで誰にも知られずにラムセスに仕返しができるぞ!」
 しかし、そう思っているのはカイルだけ。彼がランドセルをしょって外へ出ると
後から1人の女の子がついていった。
 ストーカー少女?セルトである。もちろんカイルは気づかない。

 途中の公園まで来ると、カイルはあたりを見回してからトイレに入った。
それからしばらくして出てきたのは…薬を飲んでラムセスに化けたカイルであった。
「あ、ラムセスだわ! ということはカイル君はやっぱりラムセスと!
こんなに朝から逢い引きだなんて…でもいい男同士だからセルト許しちゃう♪」
(やっぱりセルトは勘違いしているのだろう笑)

「ようし! この姿でたくさん悪さをして後でラムセスを困らせてやるぞ〜」
 カイルは大張り切りであった。
 途中でユーリとハディ達の姉妹がやってきた。
「あ、ユーリちゃんだ! これはチャンス!」
 カイルはいきなりユーリに近づくとスカートをめくった。
「きゃああ! 何すんのよ! ラムセス!」
「これが俺の挨拶さっ! 白だな、じゃっ」
 そう言うと、いきなり学校に向かって走って行った。
「へへっこれでラムセスはユーリちゃんに嫌われること間違いなしだ!」
 カイルはそう考えていた。しかしラムセスの後ろ姿を見送ったユーリとハディは
つぶやいた。
「ねえ、ハディ。今日はラムセスおとなしかったと思わない?」
「そう言えば…いつもはもっとお尻さわったりとか道路で騒ぎまくったり
するのにねぇ。どうしちゃったのかしら?」
 ちょうど、そこへイルが通りかかった。彼もラムセス(この場合カイル)の行動を
見ていた1人であった。
「インフルエンザか炭疽菌の毒がついに脳に回ったんじゃないですか?」
「そう言えば珍しく昨日くしゃみしてたわね?」
「今年の風邪はラムセスもひくほど強いのねぇ…」
 なぜかカイルの作戦は早くも?裏目に出始めているようであった。



6.ラムセス(カイル)の誤算

 すっかりラムセスになりきったつもりのカイルは、ハイテンションな気分で
学校に着いた。
「おっはー今日もノリノリな日だぜ!」
 そう言って鼻歌混じりにランドセルの中身を机の中に詰め込んだのだが……、
「おい…ラムセスがあんなことしてるぜ!」
 周りのみんなはびっくりしてしまった。特にミッタンナムワなんかはそばに
寄って来ておでこに手まで当てる始末である。
「ラムセス……お前熱でもあるんじゃないのか?」
「何でだよ? ミッタン気持わりいな!」
 しかしミッタンナムワとみんなはラムセス(カイル)の行為を『おかしい』と
思ったようだった。
「お前の方が変だよ! 朝学校へ来たって『ラムセス』は勉強道具を机になんか
入れやしないよ。昨日早退して脳がいかれちゃったんじゃないのか?」
 ミッタンの言葉にみんな「そうだ、そうだ!」と頷いた。
 カイルははっとした。
『そうだった! 奴がこんなことするはずがない』
慌ててみたが後の祭りである。仕方がないので
「たまにはこんなことしてみただけさ〜鞄はこのままでいっかなあ?」
 わざとランドセルを放り出してみたカイルであった。
『いけない、いけない! 僕の常識は奴の非常識! いつもやってることと
反対のことしなきゃいけないんだな…』

 それからのカイルは大変であった。
 朝の会の時には必ず日直にチャチャを入れたし、みんなで歌を歌う時にも
振りを付けなければいけなかった。しかも決まって変な振りである(笑)
 授業が始まると「はいはいはい!」とオーバーなパフォーマンスで
みんなを笑わせなけりゃいけない。もちろんチャイムが鳴ると、ノートや
教科書は放り出して真っ先に校庭に飛び出して行くという大役? があるのである。
2時間目が終わっただけで、もうラムセス(カイル)はへとへとであった。
『結構ラムセスって疲れるもんだな。バカやるのって体力がいる』

 事件は中休みに起こった。男子でサッカーをしている時にワセトが
ぐずぐずしていたキックリにわざと足をかけて転ばせたのである。
「おいやめろよ! 卑怯じゃないか!」
 思わずカイルは叫んでしまった。
 すると…しばらくワセトとキックリはキョトンとしていたが、
突然「ごめんなさい」とワセトが素直にキックリに謝ったのである。
「そうだ! わかればいいんだワセト! それはイエローカードだぞ!」
 途端に周りから
「ラムセス君ってえらーい!」
 と大きな拍手が起こった。
 いつもラムセスにくっついているワセトは彼の言う事はよく聞くのである。
 またまたカイルは、はっとして
「ふ、ふん別に〜」
 と言って、その場を離れてしまった。しかし途中で思わず1年生のボールを
うっかり拾ってやってしまったのをみんなは見逃さなかった。
「あいつ今日変じゃない?」
「きっとバレンタインデーが近いからアピールしてるんだぜ!」

 教室に帰る途中でカイルはザナンザがこっそり手招きしているのに気がついた。
「何だよ? ザナンザこんなとこで声かけるんじゃない!」
「いや一言注意しておこうと思ってね。薬の効果なんだけど…6時間ほどで
切れるから途中で隙を見て抜け出した方がいいよ」
「それは、ちょっとまずいな! 1時くらいには気分が悪いとか言って帰った方が
いいか?」
「いや…迎えに来てもらうとばれちゃうから、そっと抜け出したほうがいいかも
ラムセスだし…」
「そのラムセスだしってのは止めろ! あいつのいいかげんさと、だらしなさに
ほとほと嫌になってるんだから僕‥いや俺は」
「それも気をつけた方がいいよ。兄上のやってることはラムセスの株を
あげてるだけだからね! とにかく約束は忘れないでね! それじゃっ」
 弟の後ろ姿を見送りながらカイルは『相変わらず抜け目のない奴』とつぶやいた。

 給食になった。風邪で欠席がいるので献立のハンバーグが2つくらい余っていた。
大食いのミッタンが素早く全部食べてから
「俺ハンバーグ1番乗り〜」
 と叫んだ。それからラムセスの方を振り返ると言った。
「へっへー残念でしたね。ラムセス君」
 しかし彼は次の瞬間
「おい! ラムセスどうしたんだよ? 三杯飯軽く食べるお前がまだこんなに
残ってるなんて」
 といきなりラムセス(カイル)の首を絞めた。
「何すんだよ! ミッタン」
「何って…決まってるじゃないか! 先生ーラムセス君が給食いつもの半分も
食べてません」
ミッタンナムワが叫ぶと先生もやって来た。
「何ですって? それは心配だわね! ミッタン君、急いでラムセス君を
保健室へ連れて行きなさい!」
 カイルが反論するより素早く、ミッタンは彼を担ぎ上げ、保健室へと直行した。
カイルの「何すんだよ〜」の言葉はもちろん誰も聞いちゃいない。
「とにかく先生は至急ラムセス君のお母さんに電話するわ」

 さて保健室へ運ばれてしまったカイルは窮地に立たされた。
このままではラムセスの家に連絡されてばれてしまう。そうならないうちに
抜けださなくてはならないのである。
「兄上! 早く早く! いったんトイレに隠れるんだ!」
 誰もいなくなったのを見計らって呼びに来たのはザナンザであった。
「おうザナンザ助かった」
「とにかく…ほとぼりが冷めるまで隠れてるんだ。早く帰るとママに
怪しまれるしね! その代わり…」
「何だよ?」
「この代償は高くつくから覚えておいてね」
「ちぇっ」
カイルはこっそりトイレへ行った。ところが、これをたまたま給食中に
トイレに行ったセルトが見ていたのだ。
「ラムセス君…さっき具合が悪いと言って保健室へ担ぎこまれたけど、
お腹の調子でも悪いのかしら?ちょっと気になるわね。これは見張ってなきゃ!」
 セルトはストーカーだけあって? 見張るのは得意であった。
じっと男子トイレを物陰から見守っていた。
(ちょっと気味悪いかも・笑)

 セルトが男子トイレを見守っていて、しばらくたった。
するとトイレの入り口からきょろきょろと変身薬の解けたカイルが見回した。
「おい…ザナンザ」
 小声で弟の名を呼ぶカイル。するとザナンザはランドセルを手渡して言った。
「じゃ、そうっとトイレの窓から出て公園の中…そうだな草むらかトイレに
隠れていて下校時間ちょっと前になったら家へ帰るんだ。何食わぬ顔をしてね」
「すまないな。じゃあ僕は帰るよ」
「じゃあね兄上」

 その様子をじっと見ていたセルトは
「いったい何を話しているのかしら? も、もしやカイル君とラムセス君が逢い引き?
そしてそれを取り持つのがザナンザ君? きゃあ♪」
 と、またまた良からぬ? 勘違いをしていた。しかしカイルをトイレから見送った
ザナンザと目が合ってしまった。
「まずい…」
 ザナンザは慌ててセルトに近づいた。
「今の見てたよね?」
 気まずくなったセルトは仕方なく無言で頷いた。
「ごめんね。これはちょっと秘密なんだ。でも君が兄上を好きで、ずっとつきまとって
いたのは知ってるんだ。僕」
 これからがザナンザの腕の見せ所である。彼は外面がいいので、誰でもだまされてしまう。
もちろんヒンティママでさえも…そして得意の笑顔でにこっと笑って言った。
「ねえ、一度君は兄上に嫌われたよね? でも、もう一度振り向いてくれる
いい方法知ってるよ」
「本当?」
 女の子はこういう言葉に弱い。セルトは身を乗り出した。
「実はこれ惚れ薬なんだ。君も飲んで兄上にも飲ませると相思相愛になるんだよ」
 そう言ってザナンザは小さな褐色の瓶を取り出した。
「嘘でしょう? そんな薬があるなんて!」
「そりゃ信じる信じないは勝手だよ。でもバレンタインデーも近いし、
君がいらないんなら、こっそりユーリちゃんに飲ませてみようかな?」
「何ですって!」
 ユーリと聞いてセルトは顔色が変わった。
「今見てたこと誰にも言わないって言うならこの薬あげてもいいよ!」
 セルトは半分疑わしそうにザナンザと瓶を見比べていたが、やがて言った。
「わかったわ。その薬ちょうだい!」
 そう言うとザナンザから瓶を取り上げて一気に飲み干してしまった。

 実はその薬はザナンザがナキアから手に入れた忘れ薬であった。
その薬を飲んだ者は、今見たことを全て忘れてしまうのだった。
薬を飲んだセルトはぼうっとしてしまった。
「私いったい何してたのかしら?」
 そう言って教室へ帰って行った。



7、変身その後

 ラムセス(カイル)が早退してしまった日の帰りの会では、
日直が「よかったこと」をみんなに聞いていた。
「今日誰かよかったと思うことはありませんか?」
「はい」
 すかさずキックリが手を挙げた。
「中休みの時、ワセト君がぼくに足をかけた時『いけないよ』って注意を
してくれました」
 他にもラムセスが1年生にボールを拾ってあげたことや、親切にしてあげたこと
などが次々と出た。
「今日のラムセス君はえらかったわね。具合が悪くて帰ってしまったけど、
みなさんも見習いましょう」
先生までがラムセスを誉めそやした。
 こうしてカイルがラムセスに化けてやったことは、かえって彼の評判を
あげることになってしまったのだった。

 さて変身が解けて、何とか無事に家へ帰り着いたカイルだが、
朝から寒い公園のトイレに隠れていたのとラムセスに化けた緊張感?がたたって
3日間寝込んでしまった。
「変ねぇ…風邪もひいてなかったのに」
 ヒンティママは首をひねった。

 熱がひいた次の日、カイルはザナンザから例の『呪いの本』を
図書館に返しに行くよう頼まれた。
 いつもなら「そんなの自分で行けよ」と言うのだが、弟に借りがある今は
何も言えない。
「おや? カイルでないか? 例の本を返しに来たのか?」
 図書館でふいに声をかける者がいた。振り返るとナキアである。
『会いたくない奴に会ってしまった』
 カイルは舌打ちしたが、後の祭りである。
「ほほぅ…やっぱりお主は誰かに呪いをかけたのか? おや借りたのは
ザナンザなのか? そう言えば奴に忘れ薬をあげたのだが、
お前も一枚噛んでいるのではないか?」
 カイルの貸し出しカードをのぞきこんで、そう言ってにやりと笑った。
それを聞いてカイルは顔色が変わった。
「やはりな…いかにもやばいと言う顔をしておる。お主はわかりやすいのう」
「な、何だよ…お前には関係ないだろ!」
 否定してみたが、カイルは隠し事ができない性格なのですぐ態度に出てしまう。
ナキアは更に続けた。
「ハリー・ポッターのゲームソフトで手を打とう」
「何だよそれ?」
「ふふふ…わしはあんまりゲームに興味はないのだが、ハリー・ポッターの大ファン
でのう! 前にお主が『ゲームソフトを買った』と自慢してたではないか?
それを先に貸しておくれ」
「何だって? 僕だってやっと手に入れたばかりなんだぞ。熱出して、
まだやってないし…そんなのお前に先にやらせるなんて…」
「なら忘れ薬や呪いのことを言いふらしてもいいんだがのぅ…学級委員の
カイル君がそんなことをしていたとなれば大変じゃのう」
 ナキアはさも楽しそうに笑った。こんな奴に弱みをつかまれたなんて!
カイルは思わず手を握りしめた
「わ、わかったよ…」
 その後どうやって家へたどり着いたのかカイルは覚えていなかった。

 家に着いてそのことをザナンザに話すとさすがに彼も真っ青になった。
「まずい! ナッキーにゆすられたの? しかもハリポタのソフトよこせだって?
あれは変身の見返りに僕が1番にやらせてもらう約束だったじゃん」
「だって…ナッキーがばらすって言うんだもん!」
「もう…兄上ってば! これでもっと僕の言うこと聞かなきゃ許さないからね!」

 結局ラムセスをまずい立場に追い込もうとして、かえって自分の身が危うくなって
しまったカイルであった。元々陰謀は苦手なタイプなのだが、
これからは更にできなくなってしまうだろう。
 しばらくの間カイルはザナンザとナキアにねちねちといじめられた。
 
 〜合掌〜

              <終わり>



 


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