***薔薇の園のミツバチ王国***
BY金

 

ブーン ブーン

 ここは砂漠の国のオアシスにある、薔薇の園。
七色の薔薇が咲き誇るなかには、ミツバチの王国がありました。
活発なミツバチたちなので、いつも賑やかなのですが、今はもっとざわめいていました。
新しい女王が生まれて、新しい国を建てるために巣分かれを行なっているのです。
女王の名はユーリ。御付きのハデイや双子たちが世話をするなか、
大勢のオスバチたちが今か今かと待ちかまえていました。
これから、ユーリと集団結婚式をあげるのです。
ミツバチの国は、女王中心になりたっています。
新しい国を造るためには、ユーリはドンドン卵を産んで、ハタラキバチたちを育てな
ければいけません。オスバチの役目は、ユーリに卵を産ませること。
この結婚式が済めば、オスバチたちは短い命を終えるのです。

 「冗談じゃない! 俺はおりるぞ〜」
 オッドアイのラムセスが、言いました。
 「ユーリとは結婚したいが、俺様だけの女王にしたい」
 「私も、おりる。おまえの意見に大賛成だ。ユーリは、誰にも渡さない」
 琥珀の瞳のカイルも、言いました。
 <どこかで聞いたせりふ>
 珍しく意見が合った、ラムセスとカイル。
2匹はうなずくと、ユーリをさらって外へと飛びだしてしまいました。
 <ユーリの誘拐、何度目でしょう>
 「2匹とも正気なの? ハデイたちに捕まったら、殺されてしまうよ」
 「捕まえられるもんか。逃げのびて、おまえは俺様のものになるんだ」
 「ちがうな。ユーリは私のものになるんだ。ラムセス、ユーリに触れるな!」
 2匹は口論となり、ユーリを放ったまま、薔薇の棘の剣で一騎打ちとなりました。
 ユーリは、ハラハラ、ドキドキ…。

 そこへカリウドバチ、ウルヒがやってきました。
ウルヒは、ミツバチたちの有り様を見ていたのです。
 「ユーリ様、いかがでしょう? この場はわたしが治めますから、
すぐそこの芥子の花園で食事をなさったら、いかがですか? 」
 美しいウルヒにほだされて、ユーリは花園へと行ってみました。
 <美形は、お得ですね>
 あたり一面、真っ赤な芥子の花。
 「おいし〜い」
 新鮮なハチミツに満足していたその時……。
 黒い大きな影が、ユーリに覆いかぶさりました。
 「キャー!」
 決闘をしていたラムセスとカイルは、ユーリの悲鳴にビックリ。
ウルヒは、そそくさと逃げてしまいました。
ミツバチの大敵、スズメバチがユーリをさらっていったのでした。

 スズメバチの城は頑丈な造りで、薄暗いものでした。
その奥にある牢に押しこめられたユーリは、さまざまな虫たちと出会いました。
小さなテントウムシ、いたいけなチョウたち、怪我をしているイナゴに死んでいるイモムシ。
 「ミツバチの女王様。どうして、ここへ? ここは、あなたが来る所では
ありませんよ。彼らは、おれたちをさらってきては、幼虫たちのエサにしているんでから」
 ハナバチのルサファがそう言うと、赤い目をしていたコガネムシの
ミッタンナムワが、また泣きだした。
 「おい、泣くなよ。気が滅入るじゃないか」
 そばにいたコオロギのカッシュが、耳をふさいでいます。
ユーリは、そんな情景をただボンヤリと見つめるだけでした。
 
 「良くやった! ウルヒよ。あの小娘の女王、若くてうまそうだ。その栄養で、
卵をたくさん産めるぞ〜」
 「えへへへ…。それで、今回のご褒美は何でしょうか? も〜う、楽しみで…」
 ウルヒの前には、スズメバチの女王ナキアがいた。
彼はナキアの手先となって、虫たちを連れきていたのだ。
 「そうだね〜。も〜う、食料はたくさんあるから、今回で最後だね〜。褒美はない」
 「えっ!」
 美しいウルヒの顔が、青ざめました。
 「褒美はない。その代わり、おまえには新しい役目を授けよう。わらわの、
きょうのご馳走となってもらおうか! 」
 叫び声をあげる暇もあたえず、ウルヒは食べられてしまった。
 <ゴメンネ、ウルヒ。今度のナキア、怖すぎ>
 そんなスズメバチの城に、夜のしじまが降りていった。

 不安で眠れぬ夜をすごしたユーリに、冷たい朝が訪れました。
虫たちも、いつ食べられるかと、同じ気持ちで震えていました。
突然、城のなかに白い煙が入ってきた。
 「うわ〜! 人間だ! 人間が襲ってきた〜」
 「何をしている! 早くわらわを守れ! 役立たず者どもが…」
 あわてふためくスズメバチの間を、ナキアがヒステリーをあげています。
ナキアの姿もも恐ろしいが、これからユーリたちの運命はどうなるのでしょうか?
 すると、牢の戸が開いた。
 「もしもし、ユーリ様ですね。ショウジョウバエのキックリです。
助けにきました! みなさんが、外でお待ちです」
 「みんな、聞いた! 外へ出られるよ」
 虫たちの歓声を後に、ユーリが城を出ると、そこにはラムセスとカイル、
それにトンボのイルが待っていました。
 「ユーリ! まにあって良かった。私とラムセスがイルの考えで、
人間たちをここへ連れてきたんだ」
 ラムセスとカイルは、棘の剣で人間を刺激してスズメバチのせいにし、
城まで誘いこんできたのだ。
見ると城はビニール袋に包まれ、たくさんのスズメバチの亡骸が散らばっていました。
 そのなかには、あの恐ろしいナキアの姿もありました。
 <合掌〜>
 「ユーリ様!」
 ハデイの声がするかと思うと、双子たちがお腹の剣を振りかざし、
ラムセスとカイルを捕らえました。
 「ユーリ様、ご無事で何よりです。薔薇の園へお戻りください。古い女王様が
お亡くなりになりました。あなた様が、お治めくださいますように…」
 ミツバチ軍を率いたハデイの言葉に、ユーリは応じました。

 盛大な宴の後に、ユーリは捕らえられたラムセスとカイルを呼びだしました。
 「ユーリ様、この2匹は、そく処刑にしましょう。おきてを破った者どもです」
でもハデイの忠告に、ユーリは首を横にふりました。
 「ラムセス、カイル。あたしを、さらったのは罪だけど……。スズメバチから
助けてくれた。罪は取り消しだよ。ハデイ、イルも解放してあげて。
そして、あたしは2匹だけと結婚する」
「ユーリ様! そんな……」
「ハデイ、そう決めたの。勇気があって、元気なあなたたちとだったら、
優秀なハタラキバチばかり、できるはずだよ」
<人間では、考えられないね〜>

 その年の冬、雪のなかに2匹の亡骸がありました。
そしてミツバチ王国には、オッドアイと琥珀の瞳を持つハタラキバチたちが、
ドンドン生まれておりました。
        めでたし、めでたし。           

                                <終わり>
 <気の毒なオスバチたち。厳し〜い!>

                                      
     参考資料:まゆねこさんの、七色の薔薇園。
          ボンゼルス著 「蜜蜂マアヤの冒険」