***天河雛のお話***  BYまゆねこ

「ママー、このお雛様変よ!」
 雛祭りも近づいたある日、飾られた7段飾りを見て女の子が叫んだ。
「いったいどうしたの?」
 その子のお母さんが声をかけた。
「私は色の白い男雛の方を飾ったはずなのに、いつの間にか黒いのになってるの!」
 見ると確かに男雛の顔は白塗りではなく褐色であった。
「あなたが自分でそっちに取り替えたんじゃないの?」
 そう言いながらもお母さんは(ちっ!ここでこの子が生まれた時にねぎって安いのを
買ったなんて知られてはならない)と密かにあせっていた。
「それにしても変なお雛様!1人の女雛に2人の男雛がついてるし、3人官女のうち2人の髪の毛は天然パーマだし・・・」
 女の子は自分のお雛様に不満があるようだった。

 その夜、みんなが寝静まった後雛壇から、ひそひそと声が聞こえてきた。
「全くカイルってば、油断してラムセスに取って替わられちゃうなんて…」
 女雛のユーリが叫んだ。
「仕方ないだろ、ユーリこの世界は強い者が勝つんだ! 俺と添い遂げる気になったか?」
 昼間女の子に「色の黒い!」と言われたラムセス雛が叫んだ。確かに男雛のくせに褐色の肌をして
エジプトの首飾りなんかしている。
「本当に! ユーリ様、ラムセスは場という物をわきまえてませんね。しかもオッドアイのままだし」
 3人官女の1人ハディが言った。
「うるさい、これでも俺は我慢して束帯着てるんだぞ! それより双子の髪型は何だって言うんだよ!
昼間変だって言われただろう?」
 ラムセス雛が反論するとすかさず双子の官女が言った。
「まあ失礼な! これは元々ですぅ! これでも苦労してるんですからね。」
「確かにこの人事、いや構成は無理があるな。何で私が5人囃子なんだ。」
 と、おさげのイル囃子が言うと
「まあイル・バーニ様!音楽が得意だからぴったりじゃないですか! 私は素敵だと思います。
少なくても、3隊長のお囃子達よりはずっと!」
 ハディ官女が持ち上げた。確かに3隊長のお囃子は1人は矢坪をしょってるし、1人は三つ編みの飾りをつけてるし、
もう1人はつるつる!どう見ても変である。
「それより私をどうしてくれる!皇太后という身がウルヒと一緒に何で右大臣左大臣をやらねばならんのじゃ!」
 下段の方で声がした。ナキアが冠かぶって矢坪をしょっているのである。
「まあまあナキア様!これも運命だと思って諦めることです。」
 隣のウルヒはナキアと同等?の地位にいるせいか結構満足そうであった。
「それにしても昼間ラムセス雛に下に落とされたカイル様はご無事であろうか?」
 5人囃子の1人キックリ囃子が心配していた。

 その時である。
「ラムセス! 昼間はよくもやってくれたな! そこへ直れ! たたき切ってくれよう!」
 昼間ラムセス雛によって段の下に落とされてしまったカイル雛がようやく上がってきたようである。
しかも腰にさした鉄剣を抜いて…。
「よう! ムルシリ! 遅かったな。どうやって上がったんだ?」
「一番下で牛車いや馬車を引いているアスランの助けを借りてな! ここであったが百年目、いや三千年目か? 覚悟しろ!」
 ラムセス雛に答えてカイル雛が言った。
「ちょっとカイル、ラムセス! こんな所で止めてよ! みんなが起きちゃうじゃない!」
 ユーリ雛が叫んだがカイル雛とラムセス雛は聞かなかった。

 次の朝、女の子が起きてきて叫んだ。
「ママー、大変!お雛様がぐちゃぐちゃになってる〜!」

 雛壇やつわものどもがアホの跡     
                           
                              <終わり>