***きれいな花を育てよう〜ピカピカ1年生シリーズより〜***
BYまゆねこ
「だからね…カイル! あなたは手をかけすぎたのよ。
植物も人間と同じであまり過保護にしてはいけないのよ」
ヒンティママの声が玄関中に響いた。カイルは夏休みに世話を
するために持ち帰った鉢を抱えてシュンとしていた。
〜ここで話は2ヶ月以上前に遡る。
入学して約一月たった頃、カイル達1年生を前にして先生が言った。
「みなさん、生活科で植物を育てます。これから苗か種を買いに
行くので自分が何を育てたいか考えましょうね」
「は〜い、先生植物だったら何でもいいんですか?」
学習にいつも前向きなイル・バーニが聞いた。
「そうですね! 実のなる物でもいいし、きれいな花の咲く物など
自分で考えてみましょう」
「先生! 食虫植物でもよいのかのう? ハエジゴクとか…」
ちょっとサドっ気のあるナキアが聞くと
「ナキアさん、そういうのはちょっと…お店にある物にしましょうね」
と先生にはぐらかされてしまった。
「先生、先生! 質問です!」
「何ですか? ラムセス君」
先生は「また、こいつか!」というような顔をした。
「モロヘイヤとかパピルスとかロータスなんかもいいんですか?」
「ラムセス君! 先生は『お店にある物から』と言ったんですよ!
それにそういう訳のわからない物は育てられないのよ!」
こうして訳のわからない質問があったので多少時間がかかってしまったが、
カイル達はお店に買いに行った。そこには色々な花や野菜の種や苗が置いてあった。
「わあミニトマトだって! かわいい実がなるんだわ!
あたしトマト好きだから、この苗にしよっと!」
「ユーリちゃんなら、ミニトマトが似合ってると思うよ」
喜ぶユーリを見ながらカイルが言った。
「ぼ、ぼくもユーリさんと同じのにしよう…」
密かにユーリに憧れているルサファも、それを見てミニトマトを選んだ。
「えっと…ぼくは何にしようかな? おいラムセス! これを見ろよ!」
「何だよ! ムルシリ?」
「カラーピーマンだってさぁ‥赤や黄色の派手派手な実がなるって!
お前にぴったりじゃないか!」
「何が? 華やかなところか?」
「いや! 中身が空っぽでさ」
「何だと! このヤロー」
危うくラムセスとカイルの間にケンカが始まりそうになった。
その時ハディに呼ばれた先生が慌てて走ってきた。
「また2人ともケンカですか? いいかげんにしなさい!」
「おっと俺はこんなことしてられねえんだ。早く選ばなくっちゃ!」
怒られたラムセスはそそくさとその場を立ち去ってしまった。
その10分後ラムセスは「薔薇コーナー」と書かれた売り場の前にいた。
「おぉっ! これが俺が育てたかった奴だ!」
さすがにラムセスは薔薇に関してはうるさい!黄色、白、ピンク…
いやそんな薄い色はダメだ!俺様に似合う色は、よく目立つ派手で
真っ赤な奴でなきゃ! 種類はと…蔓薔薇、オールドローズ‥そんな地味な奴はダメだ!
大輪の一輪咲きでなくっちゃ!
そしてついに彼は「ファラオ」という名の赤い薔薇を選んだ。
「砂漠に咲く真っ赤な大輪の薔薇! 俺にぴったりじゃないか!」
ラムセスが薔薇に浸りきっている頃、カイルは何を選ぶか考えあぐねていた。
「ユーリちゃんと同じ物にしたいけど、それじゃプレゼントできないしなぁ…」
ふと目に留まったのは「ユリコーナー」という看板…
「ユリ! ユーリちゃんと同じ名前じゃないか! これに決めた」
でもユリにも薔薇ほどではないが、たくさんの種類がある。
カイルが迷っていると近くにいた園芸好きのおじさんが声をかけた。
「おぉ坊やはユリを育てるのかい? 目が高いねえ」
「うん、でも結構種類があって、どれにしたらいいか困ってるんだ」
「そうかい…ユリは球根から育てるんだが、カサブランカとかはどうだい?
花嫁のブーケにもなる…」
「え〜と…」
「迷ってるようだね!じゃあカサブランカの原種にあたるヤマユリは?」
「ヤマユリ?」
「本当は野に咲くユリで育てにくいんだが…人間で言えば束縛を嫌い自立している。
だがどのユリより香り高いかな?」
「へえ…」
カイルは、その言葉と響きから思わずユーリを連想しヤマユリを選んでしまった。
そのため後で後悔することになるのだが…もちろんカイルはこの時点では知る由もない。
こうして彼らは思い思いの植物を選び自分の鉢に植えて育て始めた。
薔薇に詳しいラムセスはせっせと肥料をやり虫をとってやった。
そのせいか6月に入ると薔薇はきれいに咲いた。
「へえラムセス君の薔薇ってきれいねえ!」
「へっへぇ! ユーリ俺の気持ちだと思って受け取ってくれ!」
「わあ〜いラムセス! ありがとう」
それを横で見ていたカイルがおもしろいはずがない。
しかし彼のユリはといえば…どうしたわけかなかなか育たなかった。
「肥料もやったし毎日水かけはしてるし…それなのにどーしてぼくのは
育たないんだろう?」
そういう訳で夏休みを前にして、家に持ち帰る時期になってもカイル
のユリは蕾どころか、まだ十分伸びてもいなかったのである。
以上のような理由でカイルはヒンティママに叱られていたのだ。
「じゃあどうしたらいいの? ママ!」
「まあとにかくお庭に植えてごらんなさい。当分水やりも草取りもなしにして!」
カイルは半信半疑だったが、とりあえずママの言う通り庭に植えてみた。
すると…どういうことだろう! 鉢の中ではあんなに育ちが悪い花が
見る間に育ちきれいな花を咲かせたのだ!
「兄上〜きれいなユリの花は、ぼくがもらってユーリちゃんとこに届けていいかなあ?」
「バカ!ぼくが行くんだ!」
おませな弟ザナンザに先を越される前にカイルは急いでユリをつんで
ユーリのうちへ急いだ。もちろん後からザナンザもついてきた。
「こんにちは〜ユーリちゃんいますか?」
「は〜い♪」
かわいい声がしてユーリが出てきた。
「なあに? カイル君」
「あのねえ…ぼくが育てたユリやっと咲いたんだ! それでユーリちゃんに
プレゼントしに来たの!」
「わあ! うれしい! ありがとう」
もうカイルはユーリが喜んでくれただけで幸せだった。
そこへ一緒についてきたザナンザが言った。
「あのね…実を言うと兄上が育てたんじゃなく植え替えたら勝手に
育ったんだよ!」
「本当?」
「まあ‥でもママの助言で何とかね」
カイルは弟に本当のことを言われてちょっとバツが悪かった。
でもラムセスには遅れをとったけど、ユーリにユリを渡せて満足だった。
〜終わり〜
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ナキアも同じクラスだったのか…。ある意味ビックリしたぞ!(笑)BYねね