冷えきった霧の朝、火の山の煙は今日もモクモクと噴きだしている。 「う〜ん、いい朝だぜ。さて、朝めしの調達でもしてこようかな」 雪どけの高原に住むラムセスは、上機嫌で石斧と石弓を持ち外に飛びだした。 「兄さま! おいしい鹿、捕ってきてね。火の用意しておくから〜」 妹のネフェルトが、末の妹を連れて手を振ってくれた。 「あぁ〜、男はオレだけって損だよな〜。なんで親父の奴、女の子ばかり造って 逝ってしまったんだ〜」 そう、ラムセスの一家は、母と16名の姉妹に、たった独りの男ラムセスで 成りたつ女系家族だった。 おかげで食事の調達には、いつも苦労が耐えない。 野ウサギを2羽捕まえて家へと急いでいたラムセスは、異様な物音に驚いた。 地響きもし、土煙も見えてきた。 「すげえなー! マンモスの軍隊だ。しかも……みんな兵士が乗っている。 あれっ、先頭に女がいるぞ〜」 マンモスたちは、突然止まった。 ラムセスは草原に潜み、彼らに近づいた。 ふたりが、マンモスから降りてきた。 カイルと、ユーリだ。 「気にいった!」 ラムセスは、ユーリに一目惚れした。 黒い髪に黒い瞳、なまめかしい美女ではないけれど、珍しい象牙色の肌をして 滑らかそうだ。 「オレさまは狩りの名人だ。あの娘、オレの嫁さんに狩ってやる。しかし、あいつ邪魔だな〜」 ユーリから離れないカイルが、気にくわない。 「お〜い! そこのあんたたち、オレの家に寄らないか〜。大歓迎してやるぜ」 2羽の野ウサギを掲げて、ラムセスは近づいた。 驚いたのは、兵士たちだ。 「怪しい奴! 武器を捨てて、手を上に組め!」 だがラムセスの魅力だろうか? 彼らと親密になるのは時間の問題だった。 カイルとユーリは、ユリ部族の長とその妻だった。 ナキアという魔女を追って、ここまでやって来たのだ。 その魔女は、カイルの母親を殺していったらしい。 ラムセスは言葉巧みに、そのふたりを自分の家の前まで案内していった。 が……家には、先客がいた。 オオトカゲを連れた、ナキアの一行だった。 「キャ〜、ウルヒさま。もっとお酒をどうぞ〜」 「あら、年寄りの姉さんなんかよりも、若い私の方が可愛いですわよ。ねぇー、こっち向いて〜」 呆然とするラムセスの前で、姉妹たちは美形のウルヒとたわむれている。 「兄さま、おかえりなさい。その人たち、どなた? 」 料理を運んでいたネフェルトが、ラムセスに声をかけた。 「おのれ! ウルヒ。ナキアは、どこにいる? 」 カイルが石剣を、ウルヒの喉元に突きつけた。 「カイル、上を見て! ナキアが女の人を捕らえているよ」 ユーリの言葉に、ラムセスも姉妹たちも驚いた。 ナキアが捕まえているのは母で、大きな籠を背負わされていた。 籠には、ラムセスの家で家宝にしているルビーの塊が入っていた。 「おのれ、カイル! しつこい奴よな。この女を助けたければ、ウルヒを放すがいい」 カイルは、しぶしぶウルヒを放した。 「この浮気者、ウルヒ! 早くこの籠を背負ってオオトカゲに乗れ! 逃げるが勝ちじゃぞー。ほれ、女は返すぞ〜」 あっという間に、母は地面へ突き落とされた。 「バナナ!」 ユーリの声とともに、マンモス・アスランが落ちていく母に鼻をのばして掴んだ。 バナナと言われれば、おいしいバナナがもらえると思った行為を、ユーリは利用したのだ。 「母さま!」 母は、かすり傷ひとつ負うこともなく、ネフェルトたちの元へ戻った。 「あんちくしょう! オレたちの恩を、よくも仇にして返してくれたな〜」 逃げてゆくナキアたちに叫ぶラムセスの前で、カイルたちを乗せたマンモスが 後を追っていった。 「おい、ネフェルト。あとは頼んだぜ! あの魔女をコテンパンに伸してやる。 家宝も取り返してくる。それに……嫁さんも逃がさねえぞ〜」 「兄さま、いってらっしゃい。でも、兄さまのお嫁さんって、だれ? 」 ラムセスはにっと笑って、武器と火薬を抱えて火の山に登っていった。 ドカン! 「ユ〜リ〜〜〜!」 火の山に入ったラムセスは、火口で火薬を爆発させ、人間砲弾と なって、マンモスの軍隊へと打ち上げられていった。 その後、ラムセスが無事でいられたのか、ユーリとどうなったのか、なにも記録には残っていない。 だけど、彼のことだ。きっとカイルたちと旅をして、ナキアを伸していることだろう。 そして、ユーリとは・・・・・! 今日も火の山は、なに事もなかったかのようにモクモクと煙をあげていた。 <終> |