ふたたび
BY金



 ここは、カルケミシュの名もない高原のなか―――――。
やさしい春の朝陽が、広大な円卓を照らしだしていた。
その下座には、膨れっ面を浮かべたナキアが椅子に座りこんでいる。
彼女の隣の席には、不安顔のジュダとアレキサンドラが腰かけていた。
その前では、湯気をたてている料理の品がハディたちの手でたくさん並べられていく。
「どういうつもりなのだ、ジュダ? カイルは、大バカ者か? 
この私を宴に呼ぶなど、気持ちが悪い。この私が、うまく逃げるとは思わぬのか!」
「かあさま。陛下にお言葉がすぎます」
「いや、いいんだジュダ。義母上、お元気でなによりですなー。
ハディ、ご苦労だった。おまえたちも自分の席についてくれ」
 ナキアの背後から聞こえてきたのは、会いたくもないカイルの声だった。
そしてその傍には、大人っぽくなったユーリがいた。
「ナキアさま、おはようございます。ジュダ皇子、アレキサンドラお久しぶり〜」
 ユーリの明るい声が、不安な雰囲気をかき消すかのように響きわたっていった。
「陛下、準備整えました。あとは、皆さま方をお待ちするだけです」
 イル・バーニの報告に、ハディやカッシュたちは緊張していった。

 しかしみんなの期待は、突然の客によって崩れてしまった。
「いやぁ〜、遅くなってすまん。ユーリ、待っててくれたのか! 
おれは、幸せ者だな〜」
「はぁ〜? 」
 ユーリの両手を握りしめてきたのは、ラムセスだった。
 彼には、ネフェルトとタハルカが同行していた。
「こらっ、ラムセス! ユーリの手を放せ! なぜ来たんだ? 
おまえを呼んだ覚えはないぞ! 」
 ユーリをかばうかのように、カイルがラムセスの前に入りこんだ。
「兄さま、おやめなさいよ。陛下、どうかわたしに免じてお許しください。
実は、ここで秘密の宴が開かれると聞きまして〜。わたしも、ぜひ会いたい人が
おりましたので、やってきたしだいなのですわ」
「……カイル。あたしからもお願い」
睨みあっていたカイルは、ユーリの顔に哀しみの表情が見えると、
ラムセスから離れていった。
 彼女たちが会いたい人というのは……。

 暖かな風が、たくさんの席上に吹き渡っていった。
「兄上、こんにちは」
 カイルの頬に、長い髪が触れていった。
 懐かしいマリ皇子の姿が現れていた。
「お懐かしゅうございます、兄上。ユーリ、タワナアンナおめでとう!」
 爽やかなザナンザ皇子の声に、ユーリは涙をあふれさせていった。
 カイルの隣の席に、ザナンザ皇子が座っていた。
「姉さんたち、ただいま。リュイ、シャラ姉さん、結婚、ご懐妊おめでとう! 
ぼく、叔父さんになるんだね」
「ティト! 」
 泣いているハディの元で、あの可愛いティトが笑っていた。
「ティト、ごめんなさい! そして、ありがとう。お帰りなさい! 」
 ユーリの両手が、元気そうな少年を抱きしめていた。
「ほらっ、あんた男でしょう! ユーリさまたちに、しっかりと謝っておきなさいよね」
 「ウルスラ!! 」
 席を立ったカッシュの前には、愛しい人がおとなしくなったズワを引き連れて現れていた。
「あぁ〜カッシュ、会いたかったわ! 」
 ズワをほっぽりだして、ウルスラはカッシュの胸のなかへ跳びこんでいった。
 その光景を、みんなは黙って見つめていた。
「ふん、バカらしい」
 そう言いながら、ナキアはワインを飲み干した。
 みんなの幸福そうな姿に、ナキアはおもしろくなかったのだ。
「ウルヒ! 」
 ジュダが、立ちあがった。
 気がついたナキアが、ワインの杯を手から落とした。
 赤いワインが、大地に吸いこまれていく。
「ほんとうに、おまえなのか? ウルヒよ! こんな私でも、会いに来てくれたのか?!」
 ナキアの頬が、赤く染まっていった。
「お久しゅうございます、ナキアさま。お元気でなによりです」
 美しい金髪をなびかせたウルヒは、ふたつの碧眼でやさしい笑みを浮かべていた。
 熱い自分の涙が、ナキアの冷たい氷の心を溶かしていく。
「嬉しい! ウルヒよ。私は、おまえを失って、心細かった」
 ウルヒの両腕を握りしめたナキアの耳に、記憶の底に沈めていた声が聞こえてきたのは、
その時だった。
「ナキアよ。可愛そうな、わが妻よ。おまえは、やっと幸福を手に入れたのだな」
「父上! 」
「とうさま! 」
「シュッピルリウマ皇帝陛下! 」
 カッシュたちは跪き、カイルたちは懐かしい陛下の前に近づいた。
 陛下の傍には、アルヌワンダ兄上も笑みを浮かべていた。
「カイル! 頼もしい皇帝になったものだな。ユーリ、これは私の自慢の息子だ。
いつまでも、頼むぞ! 」
「わたしからも、お願いしますわ。はじめまして、ユーリさま。
あなたにお会いできて、嬉しいわ」
 カイル似の美しい人に、ユーリは硬くなっていった。
 たおやかな気品に満ちたその方は、ヒンティー皇妃だった。
「……ヒンティー皇妃!! 」
 ナキアの眼に、妬みの炎がつこうとしていた。
「いけないですわよ、ナキアさま。それでは、幸福になりませんわよ。
わたしたちの命は、それで消されてしまったんですからね」
 いつのまにかナキアの前には、イシン・サウラ姫、アクシャム姫、ウーレ姫、
サバーハ姫が取り囲んでいた。
「わたくしも、あなたのおかげで苦しみましたわ」
 神官姿で、セルト姫が姿を見せた。
「おやめなさい、姫君方。きょうは楽しい宴のはず。さー、カイル。ユーリさま。
宴を開いてくださいな。あなた、ナキアさま方も、どうかお座りなさいませ」
「そ、そうですね、母上。ユーリ、おいで」
 みんなはそわそわしながらも、席についた。
 すると、その時……。
「申し訳ありません! みなさま方。遅れまして! ご招待していたお客様方を、
お連れいたしました」
 男が、円卓の前で跪いていた。
「ルサファさま! 」
「この慌て者〜。悲しませやがって〜」
 シュバスと、ミッタンナムワの姿に、男は顔をあげた。
「ルサファ〜〜」
 黒髪の男に、ネフェルトは飛びついていった。
「ルサファ、顔をよく見せてちょうだい!」
 赤くなったルサファに、ネフェルトは喜びの口づけを贈った。
「カイル、ルサファが〜〜」
 ユーリの真っ赤に腫らした瞳に、カイルは黙って頷いていた。
「すまぬが、私も席について宜しいかな? 」
 テリピヌ殿下と黒太子にナディアも、到着していた。

「陛下、みなさま方。上座にお客様方ご臨席です」
 キックリのことばに、みんなの視線が上座に集中した。
上座には、五席の椅子が並べられていた。そこに、五人のすばらしい方々が腰かけていた。
「いや〜、先生。これからも、よろしくな! 俺さまを、ぜひ早く王にしてくれ
よ。ユーリも俺の所へ〜」
 ラムセスがそう囁きながら、先生にワインをお酌していた。
 先生とは、この天河を築いてくれた篠原先生だ。
 そしてその隣には……?
 天河を、素敵なHPで紹介していただいている(か)さん。
 巧みなパロディで、楽しませていただいている(ね)さん。
 名作を、たくさん読ませていただいている(ま)さん。
 すばらしい画力で、溜め息させてもらっている(さ)さんが座っていた。

「また、逢えるわよね? 」
「逢ってるじゃない! これからも、みんな大活躍よ!」
「ユーリはダメだぞ。これ以上、じゃじゃ馬はゴメンだからな」
「それはできませんよね、ユーリ。兄上は、わがまますぎます」
「えへへへ〜。あれっ、アスラン? シムシェック? どうしたの? 」
 ブヒヒヒィ〜ン ブルルル〜(来年は、アスランの年ですからね! お忘れなく)
 ピィィ〜 ピューピィー(天河は、不滅です。明日もあるぞ〜)

 やさしい真昼の陽光のなか、にぎやかな宴はいつまでも開かれていた。



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ほのぼのしたお話をありがとうございます。
ゲストにまでお呼び頂いて……嬉しいです(笑)。
いつまでも天河は不滅ですね!
ねね



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