***チューリップを育てよう***BYまゆねこ
ある日、カイル達の先生が言った。
「みなさ〜ん、今日はチューリップの球根を植えます」
クラスの中にはどよめきが起こった。
「え〜チューリップ?だっせえ〜」
ラムセスである。先生は『またこいつか!』と言うように
額に青筋をたててラムセスをにらめつけた。
「先生どうしてチューリップを植えるんですか?」
今度はカイルが聞いた。先生はさっきラムセスにとった態度とは裏腹に説明を始めた。
「来年の4月になると新しい1年生が入学します。その時みんなは2年生になって
お兄さん、お姉さんになるのよ。その1年生の入学式にお花を飾って歓迎するために
チューリップを植えて育てるのよ」
「何でチューリップじゃなきゃいけないんだよ? 別に薔薇や蓮だっていいじゃないか!」
またまたラムセスが言った。どうしてこいつは、そんなにムキになってこだわるのであろうか?
しかし先生はもっともらしく言った。
「薔薇や蓮が4月に咲くと思いますか? 梅に鶯、竹に雀と言うように
昔からチューリップには1年生と決まっているのです」
「へえ〜」
と今度はクラス全員が感心した。
「そうか! それは3千年も前から決まってるんだな? 薔薇にラムセスと言うように」
さすがのラムセスも納得したようである。
多少の? トラブルがあったが、さっそく好きな色の球根を選ぶことになった。
チューリップには色々な色があった。ラムセスが選んだのは『クイーン・オブ・ザ・ナイト』と
言う名前の黒いチューリップであった。
「格好いいだろ? パリの夜に現れる『黒いチューリップ』とは俺様のことだ!
ユーリも同じ色はどうだ? お前ならさしずめ『ラ・セーヌの星』と言うところだ」
「何であたしがあんたの相手役にならなきゃいけないのよ!」
ユーリは勝手にラムセスに決められたので怒って叫んだ。
それを聞いて「ラ・ラ‥ラセーヌ」とラムセスにつられて歌いそうになっていたカイルも
はっと我に返って言った。
「そうだ!ユーリちゃんにはそんなドス黒い色よりこっちのほうが似合うよ。
『アンジェリカ』なんて薄いピンク色は?きっとぴったりだと思うよ」
「そうね? さすがはカイル君! あたしそれにしようっと!
カイル君は赤と白の2色のチューリップはどう? きっときれいな花が咲くわよ」
「そうだね? ありがとうユーリちゃん」
そんなデレデレの会話をしていた2人は、すぐそばで話を聞いていたルサファも
密かにユーリと同じ薄ピンクのチューリップを選んだことに気がつかなかった。
一方、黒を選んだラムセスは1人でぶつぶつ言っていた。
「ふん!『薔薇にはベルサイユ』『チューリップは黒』と言うのも3千年前から決まってるんだ。
お前ら知らないな」
また違った意味で熱心に選んでいるのもいた。イル・バーニである。
「先生、研究に向くチューリップというのはどれなんでしょうか?
今度は僕は『チューリップと開花の相対的関係』についての科学論文を書こうかと思うんです」
実は夏休みに家に持って帰った朝顔を研究して『朝顔の開花時間における相対性理論』という
科学論文を書いて優秀賞をとった彼はまたもや意欲満々なのである。
「先生、将来僕はMITに留学して科学者になろうと思ってますから……」
「そうがんばってね…」
先生もそう答えるしかなかった。彼の書く論文自体難解でほとんどの人には理解できなかった。
さて、みんなが大騒ぎして自分の鉢に植えたチューリップは教室の軒下に置かれた。
毎日の水かけは生き物係りのキックリの役目であった。
ある日のこと、いつものようにキックリがみんなのチューリップにせっせと水かけをしていると
イルが血相を変えて飛んできた。
「キックリ!何てことするんです。雨の日にまで水かけをするなんて!
ぼくのチューリップが腐ってしまうじゃありませんか」
見ると、なるほど小雨の中キックリは傘をさして水かけをしていた。
「まったく! クソまじめにもほどがあるぜ! そういうの真面目を通り越して
バカって言うんだぜ」
ラムセスがぷんぷんしながら言った。キックリは2人に責められて泣き出してしまった。
どこへ騒ぎを聞きつけてハディがやってきた。
「まあまあ2人とも! キックリだって悪気でやったわけじゃないんだから許してあげなさいよ。
キックリ、雨の時は水かけは必要ないんだからね。覚えておきなさいよ」
こんな調子でみんなのチューリップは育つのであろうか?イ ルじゃないがハディも何となく
一抹の不安を覚えた。
〜いつになるかわからんが‥つづく〜