***カイルとラムの華麗なる別荘ライフ〜ピカピカ番外編***
<1>
8月!
どこへ行っても夏休み真っ盛りである。
カイルはかねてから計画していた通り、ユーリやラムセス達を誘って
カイルの父の別荘へ行くことになっている。
(ラムセスも行くのはカイルにとってちょっと不本意なのだが
ヒンティママがぜひにと言ったのである!)
当日の朝は運転手であるキックリのお父さん?!
が迎えにくること
になっていた。しかしカイルの父シュッピリルウマ氏は息子に言った。
「カイル悪いな。パパは急に仕事が入って後からじゃないと行けなく
なってしまったんだ。先にママ達と行って楽しんでおいで」
「ちぇっ!
一緒に釣りやキャンプするって言ったじゃない」
カイルはちょっと不満そうだった。
「カイル!
我がまま言わないのよ。パパも後から必ず来るんだし…
お友達だってたくさんいるじゃない」
ヒンティママが諭すように言った。
「その代わりキックリパパにはリムジンで迎えに来るように言ってある。
すごい車だぞ。おっといけない! じゃママ行ってくるよ」
「パパ行ってらっしゃい!」
シュッピリパパはそう言って仕事に出かけてしまった。
それと入れ違いにリムジンがカイル達を迎えにやってきた。
「うわあ! すごい車ねぇ。ドアが両方に開くなんて!」
ユーリと3姉妹達が歓声をあげた。
「おいムルシリって本当はいい家のお坊ちゃんだったんだなぁ」
ラムセスが今更のように言った。
「何だ? その本当はってのは! まあいい…じゃあみんな車に乗ってくれ!」
そこでみんなはリムジンに乗り込んだ。カイルとザナンザ兄弟に
ヒンティママ、ラムセスとネフェルト兄妹、ユーリに3姉妹、
それからキックリにイル・バーニ、3隊長…と続く。
リムジンはとても大きく広いのでたくさん乗れるのである。
(って本当か? このパロ書いてる奴はもちろん乗ったことはない!)
「おい! イル・バーニ…何で朝顔の鉢なんか持って行くんだよ?」
「私は夏休みに観察してるんです。1日でもさぼると花の数を
数えられませんからね!」
「全く…」
こうして大騒ぎの中、彼らはカイルの別荘に向かって出発した。
もちろん車内は飲めや歌え…とは子どもだからいかないが
カラオケセットが備えてあったのでアニメ・ソングで盛り上がっていた。
「では1番イル・バーニ! ヤマト歌います!」
「なにをっ! 俺はガンダム行くぜっ!」
困ったことにイル・バーニとラムセスがマイクを放さないのだ。
ついにユーリが怒った!
「ちょっと2人ともいいかげんにしないと月に代わっておしおきよ!
あたしがセーラームーン歌うんだから!」
「そうですわ! マイクはみんなの物です。その次は私がラ・セーヌの星です。
ラ、ラ、ラセーヌ!ラ・セーヌの星ぃ♪」
ハディも負けずに言った。
「じゃあその次は俺な!『薔薇は美しく散る』だ!」
「おいラムセス!何でお前がベルバラを知ってるんだ?」
「へへんムルシリィ! 薔薇と名のつくものは全て俺の守備範囲なのだ」
みんなでベルバラを大合唱して盛り上がっているうちにカイルの別荘へと到着した。
別荘は見晴らしのいい海辺にある豪華な家であった。
「ではみんなお昼を食べたら泳いできていいわよ!」
「わ〜い♪」
こうして初日から、やたらテンションの高い別荘ライフが始まったのである。
何かどっかで見たようなカラオケの場面だな(^_^;)
<2>
〜海で〜
別荘に着いたその日、カイル達はさっそく海で泳ぐことにした。
さすがブルジョアのカイルの家! 入り江に建つ別荘は、海にほど近い。
「お〜い! みんな用意はいいか?行くぞ」
1番早くてやたらテンションの高い奴は、やっぱりラムセスだ。
「おい! ラムセスお前そんな格好して泳ぐのか?」
カイルはびっくりした。それもそのはず! ラムセスの格好ときたら…
シュノーケルに水中眼鏡、フィン(足ひれ)をつけてさらにモリまで
持っている。
「へへへ! 海ときたらやっぱりこれだろ? 夕飯のおかずは俺に任せろ」
ラムセスは大得意であった。
「まあラムセス君、期待してるわよ」
ヒンティママまで調子に乗って声をかけるものだから、
カイルはちょっぴり悔しくなった。
「おいイル・バーニ…、あいつは何か勘違いしてないか?」
「まあまあ泳ぐのは勝手ですから…、それより私は木陰で読書で
よろしいですか? 暑い日差しは苦手なので!」
イル・バーニは本を山と抱えて勝手に読書と決め込んだらしい。
「ちぇ勝手にしろ! おいキックリ達行くぞ!」
こうしてカイル達一行は海水浴を楽しんだ。得意の? 水泳を生かして
漁師をやるつもりらしいラムセス。赤ふん姿のミッタン!
ちょっと生っ白そうなキックリ! 浮き輪を抱えたザナンザなどにぎやかだ。
しかしカイルのもうひとつの目的は…、やはり女の子達の水着姿
(特にユーリだった)学校のプールの時のスクール水着と違って、
みんなきれいな色の水着だった。おそろいの水着の双子達に
ネフェルトの派手めの水着など華やかだ。さてユーリは…?
とカイルが見た。ところが‥ユーリが着ていたのは学校と同じスクール水着であった。
カイルはがっかりした。
「ユーリちゃん、何でみんなみたいにきれいな水着着ないの?」
カイルが聞くとユーリは気にもとめず答えた。
「えっ? だってあたしこれしか持ってないもん!
それにどうせ濡れちゃうんだもん」
「それなら僕が前もって水着を送ったのに…」
「別に…あたし気にしないよ」
その時、水中から何やら泡がブクブクと出て金髪の頭が飛び出した!
「わっラムセス! お前どこから湧いて出た?」
「へへへユーリ! 俺としては派手なビキニがよかったんだがな〜」
「何よ! ラムセスのエッチ! どっか行け〜!」
「いてて! ユーリ俺がせっかく捕ったウニを投げるなよ!」
しかしユーリは、あんまり頭にきたのか、ラムセスから水中眼鏡と
シュノーケルを取り上げてしまった。
「何よ! ラムセスってば! いい? あの島まで競争よ!」
「おう望むところだ! 俺が勝ったらお前のキスをもらうぞ!
ムルシリお前もやるか?」
しかしカイルはちょっと尻込みしてしまった。
1学期にあれだけ上達したカイルだが海は初めてだったのだ。
しかも辛い塩水に少なからず閉口してしまっていた。
「いや…まだザナンザが泳げないのでついてなくちゃいけないんだ。
僕はいいよ」
「そうか? じゃあ行ってくるぜ」
「じゃあね、カイル君! ラムセスあたしが勝ったら
カラオケマイク独占禁止ね!」
そう言って2人は行ってしまった。本当はカイルも行きたかったが…、
途中で溺れたら元も子もない。
「兄上!本当は僕が理由じゃなくて素直に『海は苦手だ』と言ったら?」
いつのまにかピカチュウの浮き輪に乗ったザナンザが来ていた。
「うるさいなあ! ゴーグル忘れちゃったから水中で目が開けられないん
じゃないか! 黙ってろザナンザ!」
「はいはい! 兄上が1学期泳げなかったこともね…」
「なあに? 1学期のことって?」
ラムセスの妹のネフェルトが聞いた。
「いや何でもないんだ。おい…ザナンザいいな?」
「その代わり後でアイス1個おごってね」
全く小憎らしい弟だ! こんな時はかわいい妹のいるラムセスが
うらやましくなるカイルであった。
「そろそろお昼にしましょう!」
浜からヒンティママを始めとする大人達が声をかけた。
みんなが砂浜に上がると火を起こして浜焼きの準備をしていた。
おかずは地元の新鮮な魚介類に、たった今ラムセスが海から捕ってきた物も加わった。
「まあラムセス君! ウニにサザエにトコブシも? すごいわねぇ!
あなたはどこへ行っても生きていけるわよ!」
(それってほめ言葉だろうか? 笑)
それを聞いてラムセスはちょっと得意満面であった。みんなも口々に、
「ラムセスってすごいよなあ」
と言っていた。
「ところでママ、パパはまだ来ないの?」
カイルが聞いた。するとヒンティママは困ったように答えた。
「まだ重要なお仕事が終わってないのよ! それが終わったら絶対来ると
思うから…」
「そんなあ明日はキャンプと飯ごう炊さん教えてくれるはずなのに!」
カイルは半分泣きそうになった。
「何だよ! 父ちゃんが遅れてくるくらいで! うちなんか親父は
単身赴任でほとんどいないぞ」
ラムセスが言った。
「まあまあ! うちの父も一緒に仕事してると聞いてるので、
たぶん一緒に来ると思いますわ」
気配りのハディがフォローするように言った。
(そういやタロスのハッティ族もヒッタイトの傘下だったわな?
まあ下請けってとこかい?)
カイルの言葉でちょっと暗くなってしまった仲間達であった。しかし
シュッピリパパの到着はいつになるであろうか?
<3>
〜飯ごう炊さん〜
次の朝カイルが起きてくると、ヒンティママが言った。
「カイル! よかったわね。パパが今日の朝こっちへ着くそうよ」
「えっママ、本当?」
カイルは飛び上がらんばかりだった。
「お〜いザナンザ! 早く起きろよ! パパが朝早くこっちへ来るんだから」
昨日泣いたカラスはどこへやら、カイルは兄貴風を吹かせてさっそく
弟を起こしにかかった。
「何だよ〜! 兄上ったら、休みの時になると起きるの早いんだもん」
ザナンザがブツブツ言いながら眠い目をこすって起きてきた。
みんながヒンティママ手作りの朝食を済ませた頃、外で車の音がした。
「いや〜すまんなカイル、ザナンザ! 仕事で遅くなって! その代わり
今日はみっちりキャンプにつき合ってやるぞ」
カイルのパパ、シュッピリルウマ氏はしっかりアウトドアの格好をしてやって来た。
(アウトドアの格好したシュッピリルウマ1世! さっぱり想像つかない(^^;)
「では、みんな、さっそく始めようか! 遅れたおわびと言っては
何だがバーベキューの材料も買ってきたぞ。ではタロス頼むぞ」
「はっ社長 !かしこまりました」
タロスはそう言って、車からキャンプ用品を始めバーベキューの
材料などを次々と下ろし始めた。子ども達はわくわくした。
キャンプ用品や食料をテントを設置する場所に運び終えると、
すぐさまテントの設置と食事の支度が始まった。
「じゃあ、大人達はテントの準備をするから子ども達は食事の用意に
とりかかってくれ!」
シュッピリパパは次々と指示を出した。
「では私が薪割りと火起こしを教えよう。ミッタン! お前が1番体が
大きいから私と薪割りをするか?」
タロスが鉄斧をミッタンナムワに渡すと、彼は次々と薪を割っていった。
「じゃあ僕たちは林へ行って小枝を探して来るよ」
ルサファとカッシュはそう言って走って行った。
「女の子達は下ごしらえをしましょうか?」
ヒンティママが声をかけると、ユーリと3姉妹達は野菜を洗って切り始めた。
メニューはカレーにバーベキューらしい。
「僕は何をしたらいいんだろう…」
カイルがまごついているとラムセスが声をかけた。
「俺が火を起こすから一緒にやってみるか?」
「うん」
カイルは返事をしてラムセスからチャッカマンを受け取ったが、
なかなかうまく火がつかない。
「バカ!薪に直接火をつけたって燃えるもんか! 先に燃えやすい物から
やるんだよ」
ラムセスはカイルからチャッカマンを取り上げると、そばにあった
新聞紙に火をつけた。
「こうやって、だんだん大きな物に火を移していくんだ。
次は枯れ葉その次は小枝というふうにな…」
それを見ていたタロスがカイル達に声をかけた。
「おっ、ラムセスうまいじゃないか! どこで覚えたんだ? 火はお前に
まかせよう! カイル君は米でもといでくれないか?」
「そうだな! ここは俺が見るからムルシリお前は水場に行って飯ごう
の用意をしてくれないか?」
ラムセスとタロスに言われてカイルは渋々飯ごうを取りに行った。
少しばかりおもしろくないカイルは途中でザナンザが遊んでいるのを
見つけて、無理矢理一緒に引っ張って行った。
「おいザナンザ! 遊んでないで僕と一緒に行くぞ!」
「何で兄上? 僕は小さいからいいってママに言われたもん!」
「つべこべ言わずに行くぞ!」
こうなったら弟も道連れである。
水場へ行くとヒンティママが、ユーリ達女の子を指示して忙しそうに働いていた。
みんなカイルが来ても、気づかないくらい脇目もふらなかった。
カイルは飯ごうに米を入れようとして、はたと気がついた。
「そう言えば僕ってこんなことやるの初めてだ。だいいちお米をどの
くらい入れて次にどうすればいいのかもわからないや……。
おいザナンザ、お米ってどのくらい入れればいいんだ? それからどうするんだっけ?」
「そんなこと僕が知るわけないだろう! だいたい、それは兄上の仕事
なのに何で僕まで引っ張ってくるんだよう!」
遊びを邪魔された上、無理矢理兄に引っ張って来られた弟は
当然のことながらオカンムリであった。カイルは飯ごうを抱えたまま、
その場で固まってしまった。
ようやくヒンティママが、息子が水場で呆然としていることに気がついた。
ママがカイルに声をかけようとした時、見回りに来たシュッピリパパがそれを止めた。
「ママ、今はカイルを手伝ってやるより自分でやらせるんだ!」
カイルはもう泣きそうになって、どうしたらいいかわからなくなっていた。
すると背後からパパの声が響いた。
「カイル、そんなことで泣いてどうする?自分でやってみろ」
「でもパパ! 僕お米炊くのって初めてなんだもん! できないからパパやってよ!」
しかしシュッピリパパは言葉を続けた。
「いいか? パパが指示するから自分でやってみるんだ!
飯ごうに目盛りがついているだろ?その分だけお米を入れて水で研ぐんだ!」
パパが厳しいのはわかっていたのでカイルは仕方なく仕事を続けるはめになった。
手つきが悪いと何度も怒られたが、カイルがようやく仕事を終えて、
飯ごうに水を入れ終わった時パパは言った。
「ほうらカイル! やればできるだろう? さあ、それをラムセス君の所に
持っていくんだ」
カイルがラムセスのいる火の所へ持って行くと、果たして彼が待っていた。
「ようムルシリ遅かったじゃん! ではさっそくご飯を炊こうぜ」
カイルがラムセスに教えてもらいながら、何とか飯ごうを火にかけると彼は言った。
「始めチョロチョロ、中パッパ…と言ってご飯には炊き方の決まりがあるのさ!」
カイルは、もうすっかり感心してしまっていた。
「へえ〜ラムセス! よく知ってるな。見直したよ」
「へへへ……俺はちょっと飯に関してはうるさいもんでね」
カイル達が炊いたご飯がようやく炊けた頃、女の子達の作ったサラダやカレーも
できあがり楽しい夕食の時間になった。
シュッピリパパが肉を焼きながら言った。
「どうだいカイル! 自分で作った飯はうまいか?」
「うんパパ! 最高だよ」
「よかったわねカイル! がんばった甲斐があったじゃない」
ヒンティママもほめてくれた。
「それにしてもラムセスは火起こしや飯炊きが上手だな? どこで教わったんだい?」
カイルが聞くとラムセスは「まあね!」と笑っていたが、はっきり答えなかった。
すると、すかさずネフェルトが言った。
「ああ、それはね! いつも兄様って、いたずらばかりして家から追い出されてるからよ。
だからいつの間にか外でも自分でご飯作れるようになったみたい」
「バカ! ネフェルト黙ってろよ」
ラムセスが慌てて言ったが、もう間に合わなかった。
「だって本当のことなんだもん。野宿でラーメン作るのなんて大得意だし、
ホームレスのおじさんにも知り合いがいるのよ」
「へえ! じゃあラムセスって世界中どこへ行ってもゴキブリのように
生きていけるじゃん!」
「もちろんさ! 砂漠でだって生き延びてやるよ」
ラムセスがそう言ったので、みんな大笑いして夕食はお開きとなった。
キャンプの最後はお決まりの花火であった。打ち上げ花火に落下傘花火
(落下傘が落ちる所にみんなが殺到するのよね)はもちろんのこと、
オーソドックスに手に持つ花火もみんなで楽しんだ。
ラムセスは、ねずみ花火をこっそりユーリに仕掛けて驚かそうとして
もちろん! はたかれた。
さんざん花火を楽しんで遂に最後の線香花火となった。きれいに火花を散らして、
散り菊も終わり花火の先がポトリと地面に落ちた。
「うわ〜ん! 夏が終わっちゃうよー」
とたんにミッタンナムワの泣き声が響いた。
「ミッタンって結構涙もろいよな?」
ルサファが言うとミッタンは泣きながら反論した。
「繊細って言ってくれないか! わ〜ん」
「まあまあミッタン! 2学期だっていいことあるよ。学校へ行けば友達にも会えるし、
お前の好きな運動会や芋掘りだってあるじゃないか!」
カイルが慰めると珍しくイル・バーニも付け加えた。
「そうですね!スポーツの秋とも言いますし…しかしミッタン!
体を鍛えるだけじゃ脳味噌も筋肉になってしまうので勉強や読書も忘れずにするよーに!
それから花火のゴミの後始末は忘れずにするように!」
こうして別荘最後の夜は更けていった。素晴らしかった夏休みの
思い出はみんなの心に残るだろう。2学期はどんなことが彼らを待
ちうけているのであろうか?
〜終わり〜