少コミでルサファが炎夏の秤より生還した記念に書いたものです。

 不思議の国のルサファ


 炎夏の秤より無事生還したルサファ、体調もだいぶ安定し、王宮の中庭の木陰で
ウトウトしていた。するとバタバタバタと頭の上で足音がした。ビックリして飛び起きると
赤いチョッキを着て うさぎの耳をつけたキックリがルサファの前を通りすぎた。
後から考えれば、キックリの格好は異様だったが、この時 ルサファは特に気にもしなかった。
「大変だ。大変だ。どうしよう。」
とキックリはブツブツ言いながら懐中時計を片手に走って行ってしまった.
「おい キックリ、そんなにあわててどうしたんだ?!何処へ行くんだよ。」
ルサファの声も聞かず キックリは走り去って行く....。
「まさか!?ユーリ様や陛下に何か?」
そうルサファは思いキックリの後を追った。キックリは休むことなく走りつづけ
神殿の前の泉まで来た。ハトゥッサの7つの泉(ナキアが壊したから今は6つか...)
の一つである。なんとキックリは その泉の中に飛び込んだのだ。
「おい!キックリ?!」
びっくりしてルサファは飛び込んだ泉を覗きこんだ。キックリの姿はもう泉の中にはない。
次の瞬間、ルサファもその泉に飛び込んでいた。

 不思議と泉の中では息ができた。泉は長い長いトンネルのようにまっすぐ下へ続いていた。
下へー下へ―下へ。一体どこまで落ちれば底に着くのだろうか?
このまま下へ落ちたら地球の反対側へ行ってしまうのではないだろうか?と
言うくらい下へ落ちて行った。
 突然ルサファを取り囲んでいた水はなくなった。次の瞬間、
「ズシン>>>>」と
どうやら泉の底に落ちたようだ。上を見上げると 底から5mくらいのところを境にして
水と空気の壁ができている。不思議な光景だ。だがキックリの姿はもうそこにはなかった。
「バタン」と
ドアが閉まる音がした。ルサファは音のしたほうを見るとぐるりと壁一面、
ドアに囲まれた部屋があった。部屋の方に行き、ドアを開けてみようとした。
しかしドアには皆、鍵がかかっており一つのドアも開かなかった。
 部屋の中央を見ると ガラスでできた3本脚のテーブルがあった。テーブルの上には
黄金細工の象牙の箱があり、中には黄金の鍵が一つ入っていた。
 ルサファはその鍵で一つ一つドアを試してみた。が、錠が大きすぎるのか?
それとも鍵が小さすぎるのか?どのドアも開かなかった。2週目に回った時、ルサファは
前の時には気づかなかった 低いカーテンに隠された小さなドアを見つけた。
なんと嬉しいことに 鍵はピッタリと合った。けれどもドアは小さすぎて頭は入るけど
肩が抜けない状態だ。あきらめてルサファはテーブルの所に戻るとテーブルには
小さなビンが載っていた。
「こんなもの、さっきは無かったのに...。」
不思議に思うルサファ。ビンの首には紙がついており楔形文字で
『私を飲んで』と書かれている。
「こんな得体の知れないもの 飲めるわけないだろう。もう黒い水であやつられるのは
まっぴらゴメンだ。」
もう一度ルサファはテーブルに目をやると またさっきは無かったはずの
一枚の紙が載っていた。この紙はビンの中身の取り扱い説明書らしい。
楔形文字で書かれているので 私がちょっと訳して皆さんにお教えしましょう。
『これは毒ではありません。勿論、ナキアの黒い水でもありません。
決して操られることは無いので 飲んでください。そうすればあなたはここから
出ることが出来ます。』
半信半疑のルサファ。だが、この部屋から出られなくては仕様がない。
勇気を出して、ルサファはそれを飲んでみた。ビンの中身は今まで味わったことのない
すばらしい味がした。(実際それは キムチと焼肉とバニラアイスと納豆とアップルパイ
を混ぜたような味だった。)ルサファはたちまちゴクゴクと飲みほしてしまった。

 すると次の瞬間、ルサファの背はどんどん縮んでいった。縮んで、縮んで
12cmぐらいになってしまった。
「確かにこれなら あの小さなドアから出られるが・・・。」
ルサファはとりあえず ドアを開け外へ出た。
 ドアの外には 美しい庭園が広がっていた。断っておくがラムセスのひみつの花園ではない。
自分より背の高い草木に囲まれ ルサファは庭園を歩いて行った。
 しばらく歩いて行くと 
「お前はなんだ?」
とどこから聞こえたか分からない声がした。辺りを見まわしても 人はいない。
「お前は何の種類の花だ?」
また声が聞こえた。どうやらルサファを取り囲んでいる草花が話しかけているようだ。
「見かけない種類の花だな、何処の花園から来た?」
ラムセスと札の掛かった赤い薔薇がルサファに話しかけていた。
「やめなよラムセス。新入りさんにはもっとやさしく話しかけなくっちゃ。
あなたは何て種類の花?どんな名前なの?」
ユーリと札の掛かった百合が話しかけた。
「種類は...人間です。名前はルサファ。」
「人間?ルサファ?そんな名前の花はあったか?」
普通の花より一段高い所に咲いている カイルと札の掛かった威厳のある胡蝶蘭が言った。
「陛下、現代はDNA(遺伝子)交配が進んでいますし、新種の花かも知れませんわよ。」
ハディと札の掛かった すずらんが言った。
「ルサファなんていい名前じゃない。」
声を揃えて リュイ、シャラと札のついた2本のタンポポが言った。
「いや、我が妃ユーリに近づく雑草かもしれん。ひっとらえろ!!!。」
胡蝶蘭カイル、こんな所でも嫉妬か?カイルは 三つ葉のクローバー兵にルサファを
捕まえるよう命令した。ルサファは全速力で走り、なんとか逃げ切った。

「一体、何て所なんだここは・・・。」
きのこが所々に生い茂る日陰に来た。ジメっとした湿った空気がルサファの肌に
まとわりつく。
「見かけない奴だな、何してる?」
声のした方を振り返ると きのこに座り、タバコを吹かした太ったイモムシがいた。
胸の辺りにはネームプレートがついており『ミッタンナムワ』と書かれている。
「まあ、座れや。」
イモムシミッタンはルサファにきのこの椅子に座るように言った。
(きのこにちょこんと座るルサファ、かわいーと思うのは私だけ?)
「ここは一体何なんだ?おかしいんじゃないか?」
「今ごろ気づいたのか!?そうさ、ここはおかしいさ、だがそれがどうした?」
イモムシミッタンはタバコの煙をルサファに吹きつけた。
「ゴホゴホ、俺はうさぎの耳をつけたキックリを追ってここに来たんだ。
うさぎのキックリが何処へ行ったか知らないか?」
「知らんね。知ってても教えないね。」
「じゃあ、とにかく元の身長に戻る方法を教えてくれ。こんなに小さいんじゃ
どうしようもない。」
するとイモムシミッタンは変体し、イモムシから蝶になった。
「お前の座ってるきのこのあっち側を食べると大きくなる。そっち側を食べると小さくなる。」
と言い、蝶蝶男爵ミッタンは飛んで行ってしまった。
「おい!あっち、そっちってどっちだよ。」
困るルサファ、とりあえずきのこの端と端をちぎった。
大きくなる確立は2分の1だ。試しに右側に持ったきのこをかじった。
ズンズンズン、どんどんルサファの背は大きくなり元の身長に戻った...が
それでは留まらずどんどん伸び、森の中で一番大きい ポプラの木よりも
高くなってしまった。
「これじゃあ、大きくなり過ぎだ。」
ルサファはもう一方、左側に持ったきのこを一口かじった。
スルスルスル、今度は背は縮み またもとの12cmの身長に戻ってしまった。
「適度ってものはないのか、適度ってものは・・・。」
ルサファはもう一度右側のきのこをぺロっと少し舐めた。
すると元のルサファの身長に戻った。

バタバタバタバタ。後ろから足音が聞こえた。
「大変だ。遅れる、遅れる。」
うさぎの耳をつけたキックリがルサファを追い越した。
「キックリ、キックリ、何処行くんだよ。どうしたんだよ。」
ルサファの声も聞かず、また行ってしまった。追いかけて行くとうさぎのキックリは
小高い丘の上にそびえたつ、宮殿に入っていった。宮殿の門の所には『トランプの国』
という札がかかっている。入り口を入っていくと、広大な庭がルサファの目の前に
広がっていた。所々に白薔薇の木が植わっていたが、その木の一つの前で等身大のトランプが
3人...いや3枚集まってなにやら揉めている。
「どうすんだよ。ハートの2、白薔薇なんか植えて。」とハートの5。
「今、赤薔薇にするよう手配してある。ひみつの花園のラムセスに。」とハートの2。
「早くしないと女王様が帰ってきちまうぜ。」とハートの7。
3枚のトランプたちは 揉め合っている。
「すみません。どうしたんですか?」
ルサファがトランプ達に話しかけた。
「どうするもなにも 赤薔薇の木を植えなけりゃいけないのに
白薔薇の木を植えてしまったんだ。赤薔薇にしなきゃ俺達は女王様に首をはねられるんだ!」
とハートの5。
「フフフ、待たせたな。ひみつの花園クール宅急便だ。」
背後から声がした。3枚のトランプとルサファは振り向くと、黒いマントにつつまれた 
ラムセスが手にトランクを持って立っていた。
 今回は薔薇衣装に包まれてないなとルサファは不思議に思った。その時ひゅう〜と
風が吹き、マントの裾がめくれた。黒いマントの裏は派手な薔薇模様になっており
リーバーシブルで裏も表も着ることの出来るマントだった。
「赤薔薇にするよう、魔法の道具を花園からクール宅急便で持ってきた。」
そう、ラムセスは言いごそごそ、トランクから赤のペンキとハケを取り出した。
「さあ、これで白薔薇を赤に塗るんだ。この赤は俺が丹精こめて育てた薔薇から
抽出し、ろ過し、精製した奇跡の赤薔薇エキスだ。」
魔法の道具がペンキとハケか?それも何故クール宅急便で持ってくる必要が
あるのだろうか?とルサファは思ったが、3枚のトランプ達にはそんなこと関係ないらしい。
急いで、白薔薇に赤いペンキを塗り始めた。人のいいルサファはそれを手伝った。

 ほぼ、赤いペンキを塗り終わった頃、
「女王陛下のおな〜り〜」
というキックリの声がした。どうやらキックリはこれを言うためがだけに急いでいたらしい。
ペンキを塗っていたトランプ達はただちに赤いペンキを隠し、地面にひれ伏した。
ルサファもつられてひれ伏すと入り口のほうから
スペード、クローバー、ハート、ダイヤなどのカードの兵に囲まれた、
女王ナキアがお帰りのようだ。ここ、トランプの国の女王、ナキアは
ちょうどトランプの12のカードのような格好をしている。ナキアの後ろからは
ナキアの尻にひかれているトランプの国の王、ウルヒがついてきている。
トランプ達がひれ伏す、花道を進んで行くナキアとウルヒ。ナキアはふとルサファと
3枚のカード達の目の前で足を止めた。
「なんじゃこれは、赤薔薇ではなく、白薔薇ではないか!!!」
血管が切れそうになるほど顔を真っ赤にして怒るナキア。ペンキをきちんと塗りほどせなくて
一部、赤いペンキがとれていたのだ。
「誰じゃ、白薔薇の木を植えたのは!?ハートの2,5,7。お前達か?
首を斬れ!!!」
「ひいいいい、申し訳ありませんナキア様。」
3枚のカードは声を揃えて言う。
「おい、たかが薔薇で打ち首はひどいんじゃないか?」
さすが正義の味方(?)ルサファ。ナキアに抗議した。
「たかが薔薇だと?お前、味方するつもりか?そちの首も斬れィィィィ。」
3枚のトランプとルサファは槍を持ったトランプ兵達に取り囲まれた。
「裁判も何もしないで、死刑を決めるなんてひどいんじゃないか?
なんなんだこの国は?!」
必死にルサファは叫んだ。
「よし、そこまで言うなら裁判をしてやろうじゃないか。直ちに元老院を召集せよ。」

 宮殿内の簡易家庭裁判所でルサファと3枚のカード達の裁判は行われた。
「これから白薔薇容疑についての裁判を始める。原告、トランプの女王ナキアと
そのおまけウルヒ。被告、ルサファおよびハートの2,5,7のカード。
・・・・判決、ルサファ、3枚のカードは有罪、よって首斬り。」
「おい、はじまったそうそう、何でもう判決なんだよ。きちんと弁護しろよ。」
ルサファは怒った。
「うるさい、この国では私が絶対だ。世の辞書に反省という文字はない。(確かにBYねね)
わたくしに逆らうものはなんびととあれど許さん。奴をひっとらえろ!!!」
絶対王政状態のナキア。槍を持ったトランプ兵は、ルサファを捕まえようとした。
 裁判所を抜け出し、宮殿内の薔薇の木の間を全速力で逃げるルサファ。
足には自身のあるルサファだが、相手の数が多すぎる。薔薇の木の根につまずき
転んでしまった。槍を持ったトランプ兵がルサファ目掛けて槍を振り下ろした。
「もうだめだ!!!」ルサファはギュッと目をつぶった。

「ルサファ、ルサファ。」
体を揺すられ、ルサファは目を開けた。
目の前に広がる風景は 同じ宮殿の庭でも薔薇の木の植わってない 王宮の中庭だった。
「こんな所で昼寝してたら風邪ひくよ。それにうなされてたけどなんか悪い夢でも
みたの?」
心配そうにユーリが話しかけた。
「いえ、大丈夫です。ユーリ様。」
「そう、あっちでカッシュとミッタンナムワが 一服してたよ。行ってみたら?」
ユーリの言われるがままルサファは、カッシュとミッタンナムワの方へ行った。
 あれは夢だったのか。夢で良かった。あんなことあってたまるもんか。
しかし、妙にリアルな夢だな。まだ疲れが抜けないのだろうか?
「おお、ルサファ。今、ポーカーやってんだ。ミッタンナムワと2人じゃ
つまらないからお前もやれよ。」
トランプか・・・ちょっと気が引けるな・・・。
 ルサファはカッシュに誘われ、ポーカーに参加することになった。
5枚にカードが配られ、3人各々カードをじっと見つめている。
ルサファのカードはスペードのエース、10、11、13、あとハートの2の5枚だった。
もし次、スペードの12が来れば ロイヤルストレートフラッシュだ。
勝つことは間違いない。ルサファはハートの2を捨てて、カードを一枚取った。
なんと、スペードの12だった。やった!!!と思い、カードをもう一度見つめた。
すると、11と12のカードの絵の顔がルサファの方を見て ニヤリと笑った。
なんと!12のカードはナキアであり、11のカードはウルヒになっていたのだ!
「うわっ!!!」
驚いてルサファはカードを投げ出した。
「どうしたんだよ。ルサファ。急にカード投げ出して。」
ミッタンナムワがルサファのカードを拾った。
「おい、ロイヤルストレートフラッシュじゃないか!すごいな。」
ルサファがもう一度カードをみると、ただのスペードの11と12だった。
しばらく呆然と立ちすくむルサファ。まだ、夢から目覚めてないのかと疑ってしまう。
 そこにユーリが通りかかった。
「あっ、ユーリ様も一緒にポーカーやりませんか?」
とカッシュが言った。
「あ、あたしババ抜きしかできないから・・・。」

♪おわり