***裸の王さま編***
むかしむかしあるところに、エジプトという大きな国がありました。このエジプトの王ラムセスは、
大の衣装好き。様々な地方からきれいな衣類を作る職人を呼び、作ったきれいな衣装を、
民衆に見せびらかす行進もしていました。
ラムセスの好きな衣装は、国花でもある薔薇衣装! 薔薇柄が布地いっぱいに
プリントされている衣装や、生薔薇がそのまま衣装についているもの、
赤、黄、ピンク、白、紫…、様々な色の薔薇がラムセスには得に似合っているとされていました。
衣装職人はこぞってラムセスに薔薇衣装を貢いでいました。王のご機嫌をとれば、
贅沢な暮らしができるからです。
そんな薔薇好きラムセスに目をつけたのが、エジプトの敵国でもある、
ヒッタイト帝国皇帝のカイル=ムルシリでした。本編がエジプト編に入ってから、
めっきり出番が少なくなたカイル。ユーリにもかなり接近しているラムセスに
嫉妬しているのでありました。カイルはいい方法を思いつきました。
ラムセスにギャフンと言わせる方法です。側近であるキックリと相談して、カイル自身が
衣装職人として、ラムセスの元に赴くことにしたのです。
「そなたか! 魔法の服をこしらえることができるというのは!」
ラムセス王の前に、変装したカイルとキックリはひざまずきました。
「はい、私達の作る服は特殊でございます。良い心をもった者には、その衣装を見ることができ、
悪い心をもった者にはその衣装は見ることができないという、魔法の衣装でございます」
「ほう…、珍しい。では早速その衣装を見せてもらおう!」
新しいもの好きのラムセスは、すぐにカイルとキックリの作った衣装を買うことにしました。
「さあ、ラムセス王! これです。この衣装です!」
カイルはトランクから衣装を出すそぶりをしました。もちろん、衣装なんてあるはずがありません。
カイルがラムセスに恥じをかかせようとしてやっていることなのですから……。
ラムセスには、その衣装は見えませんでした。側にいた側近も同じです。
一瞬、沈黙がありましたが、ラムセスが口を開きました。
「おお! なんて見事な衣装なんだ! これは素晴らしい!」
エジプト王たるものが、悪い心をもっているなど、国の威信にかかわる!
ラムセスは見えるふりをしました。
「本当ですわ! なんて素晴らしいの!」
側近達も、悪い心を持っていると王に知れては大変です。同じく見えるふりをしました。
「そうでございましょう。この胸元の薔薇なんて、一級品でございます。威厳のあるラムセス様には
ぴったりかと……」
カイルは調子に乗っていいました。
(胸の薔薇……)
ラムセスにはどうしても薔薇など見えませんでした。しかし……、
「おお! 私の今、それを言おうと思っていたところだ! 本当に素晴らしいな!」
ラムセスは心の中で……、
(しまった、昨日隠れてアダルトビデオ見ていたのがバレたのかな……)
と心の中を見透かされたようで、なんだか複雑な気持ちでした。
側近達も見えないのに、「素晴らしいですわ!」「お似合いです!」を異常に連呼していました。
嘘を隠すために、みんな大げさになっているのでした。
「よし、明日、この衣装を着て、民衆に見せびらかすぞ! 行進じゃ!」
裸のラムセスは、民衆にその姿をお披露目することになったのでした。
次の日、恒例のラムセス薔薇衣装行進が開かれました。王宮から、市街地まで、
ステージ付きの馬車で行進するのです、ステージは、四方八方から見えるように
クルクル回転しました。スポットライトもラムセスに向けて当てられていました。
『スター○しきの』と言ったところでしょうか?(笑)
「皆の者! 今日の衣装は特別である! 良い心を持った者には見ることができ、
悪い心を持った者には見ることのできない衣装である!」
ラムセスの側近ワセトが民衆に向かってそう叫びました。
パンツ一枚のラムセスが、ステージ付きの馬車に乗っていました。ラムセスは堂々としています。
民衆も悪い心を持っていると知れるのが怖いのか……、誰も見えないなどと言う者は
おりませんでした。
行列を進めて行く中……
「あっ、今日の王様は、裸ね」
という、かわいらしい女の子の声が聞こえました。
「これっ! ユーリ!」
若々しい髪を一つに束ねた母親らしき女がユーリという少女の口をふさぎました。
「むぐぐ、何するの? ハディ母さん!」
(今回はユーリは町娘、ハディはユーリのお母さんね)
「無礼者! 王に何と言うことを!」
ワセトはユーリに向けて怒鳴りました。
「だって、裸は、裸じゃない! いつも薔薇のきれいなお洋服着ているけど、
今日は裸よ」
民衆はざわつきました。こんな素直そうな少女に見えないのだから、私達が見えないのは
当然なのかもと……。
「何を言う! 子供のくせに、お前は悪い心を持っているのじゃ!」
他の側近もユーリに向かって言いました。
「ユーリ悪い子じゃないよ。ピーマンだって、にんじんだって食べるし、夜はテレホ前には
寝てるよ」(それはいい子だ……笑)
大きな澄んだ黒い2つの瞳は、じっとラムセスをみつめていました。
「でも、王様。薔薇衣装も素敵だけど、今日の裸はもっと素敵よ。蜂蜜色の肌がまぶしいわ」
ラムセス王は、にこやかに笑い、ユーリに近寄づいてやさしくユーリを抱き上げました。
「そうか…、コテコテ着飾るより、何も飾らず、自然体が一番なのか……。
黒い瞳の少女よ! よくぞ、本当の事を言った! 私はお前を妻にするぞ!」
ユーリはそのまま、ラムセスに抱きかかえられ、王宮に連れて行かれました。
その後…、エジプトでは上半身は裸がとても流行ったそうです。
一番の自然体であり、一番自分を表わしているから……。
ヒッタイトのインチキ衣装売りカイルとユーリのおかげで、今のエジプトのコスプレは
確立されているのでありました。
♪おわり