***三匹のこぶた編***
「さあ、私の3匹のこぶた達よ。お前達はもう充分に大きくなった。
これからは母さんに頼らないで、独立して自分の家を作るんだよ」
「はぁ〜い、ナキアブタ母さん!」
長男ラムセス、次男カイル、三男イル=バーニは、元気に返事をした。
「ブタは余計じゃ! さっさと、家を作らんか!」
ゴンゴンゴン。
ナキアブタ母さんは、息子の頭をゲンコツで一回づつ叩いた。
叩かれた頭をなでながら、三匹のこぶた達は、それぞれ家の材料を探しに森へ向かって行った。
子供達の姿を、ナキアブタ母さんは、いやらしそうな笑みを浮かべながら見つめたいた。
1.長男の家
「さぁ〜て、家なんか雨風がしのげりゃいいんだ。適当に作ってしまおう!」
長男ラムセスは、ナイルのほとりに茂るパピルスを使って家を作ることにした。
「下エジプトを代表するパピルスだ。上エジプトを代表する蓮の花も使おうか……。
いや、蓮の代わりに薔薇の花を使おう! そのほうがいい!」
(何がいいんだか……)
ラムセスは、簡単な家の枠組みを作り、その上にパピルスを風がしのげる程度に何本も乗せた。
「よぉ〜し、できた。あとは薔薇を飾るだけだ!」
屋根のてっぺんに大きな大きな赤い薔薇をつけ、他にも赤や黄色の色とりどりの薔薇を
散りばめた。ラムセスの薔薇パピルスの家はあっという間に出来あがってしまった。
ラムセスの家に一歩足を踏み入れると、そこはもう、ラムセス薔薇ワールド。
薔薇の匂いたちこめる、簡単だが妖しげな家だった。
2.次男の家
「私は、住む場所にはあまりうるさくないほうだ。どんな家だって、
ユーリが一緒にいればいいのさ! なっ、ユーリ!」
「うん。カイルと一緒なら、バス、トイレ別、三畳一間でもいいわ!」
(ホントか……笑)
ユーリはカイルの腕をギュッとつかみ、嬉しそうに笑った。二人はラブラブである。
結局、次男カイルは、ラムセスよりましな木のお家を作ることにした。
作ることにしたと言っても、カイル自身が作るわけではない。何故なら彼は王子様だからである。
カイルの側近キックリが、木のお家を作ることになったのである。
「カイル様ぁ〜、イチャイチャしてないで、少しは手伝って下さいよー」
「うるさいぞキックリ! さっさと作らんか!」
カイルは全く手伝う気はなし。木の切りだしも、足組みも、カンナ削りも、窓のとりつけも、
みーんな、キックリ一人でやらなければならなかった。側でリュイは応援していたが……。
「キックリ。全室床暖房、フローリング、証明はすべてシャンデリア、サンルーム付き、
電話はISDNだぞ。わかってるな?」
「そ、そんなぁ〜」
「あっ、キックリ。それと、台所はシステムキッチンね。頼むわよ」
ユーリが付け加えた。
「お料理なんかしないくせに……」
ボソっと、リュイが呟いた。
キックリの努力のもと、なんとか『カイルの木のお家』は出来あがったのである。
『こえだちゃんの木のお家』ではないので、間違えないように(笑)
(↑誰かこえだちゃんの木のお家知ってる?BYねね)
3.三男の家
残るは三男イル=バーニ。イルの性格上、雨風を凌げるのはもちろんのこと、
地震や台風にも耐えられる頑丈な家を作りたかった。
まずは、家を作る材料である。この世で一番固い物は何か? それはダイヤモンドである。
ダイヤモンドの家……、そんな物が作れるわけがない。作ったところで、家の壁をゴリゴリ削る奴が
絶えなくなるだろうし、第一、そんな予算があるわけがない。この経済赤字のヒッタイト帝国で……。
そこでイルは考えた。固くて丈夫なものは何だろう? 古代ヒッタイト……、
ヒッタイトを代表する鉱物と言えば……。
―――鉄である!
ハッティ族の作る鉄。
しかし、鉄は雨に濡れ、月日が経つとサビてボロボロになってしまう。
ヒッタイトの専売品である鉄も、家の材料には向いていないようであった。
考えた結果、イルはレンガのお家を作ることにした。
手間隙はかかるが、一段ずつ、ペタペタとレンガを積み上げて行くことにした。
「おい、いつまで家なんか作ってるんだよ、イル=バーニ。一緒に遊ぼうぜ!」
「いえ、私はこのレンガの家を作り終わるまで、あなた達の相手なんかしていられません
無表情で、返事をし、地道にレンガを積み上げていた。
「ちぇっ、つまんねーの。イル=バーニの奴。
おい、ムルシリ! それより、どうして俺達が『ブタ』なんだ? こんなにいい男なのに!」
「そうだよな、ラムセス。ナキアブタ母さんは納得できるとしても、天河二代ヒーローである
俺達がどうしてブタなんだよ!」
「そうよっ! 私だって、こんなに痩せているのに! ミスキャストよっ!」
お話上、ブタにされてしまった天河のヒロイン・ヒーロー達はかなりご立腹の様子である。
そのころナキアブタ母さんは……。
やっぱり、気味の悪い笑みを浮かべ子供達を見ているのでありました。
4.ウルヒオオカミやってくる
イルのレンガのお家も努力の甲斐あって、やっとのことで出来あがった。
イルには、ひとつのことを成し遂げたという達成感と、出来あがった頑丈なレンガのお家に
対する満足感があった。
「おー! イル=バーニ、頑固なだけあって頑丈な家だな!」
ラムセスが誉めてるのか? けなしているのか分からない言葉を吐いた。
「私は兄さんと違って、軽い頭ではありませんから」
「かわいくない弟だな! そんなんだから、近所のおばさんから愛想がないって言われるんだ!」
ラムセスの言葉は耳に入らなかったように、イルはシカトしていた。
あまりおいしそうに思えないが、そんな子ブタを狙っている二つの青い瞳があった。
ウルヒオオカミである。
オオカミを想像すると、口からはダラダラヨダレを垂らし、キバを剥き出しにし、
うんこ色の毛皮をかぶった汚いイメージがあるだろう。しかし、ウルヒオオカミは違かった。
スラリとした長身、銀色の毛皮、アイスブルーのきれいな瞳の美しいオオカミであった。
実はこのウルヒオオカミ、ナキアブタ母さんに雇われた暗殺者だったのである。
三匹の子ブタにとって、ナキアは義理の母。実の息子であるジュダ赤ちゃんブタに
財産のすべてを相続させるため、悪知恵の働くラムセスブタ、聡明なカイルブタ、
賢いイル=バーニブタを始末したかったのである。
ウルヒはナキアの命令のとおり、ブタの家を壊し、まずそうだが子ブタ達を
食べてしまおうとしているのであった。
まずは、長男ラムセスの家。
「フフン。こんなパピルスの家、簡単に壊せるさ」
そう言うとウルヒは『ふぅ〜』と家に向かって吹きかけた。
まずは家に飾ってあった薔薇の花ポロポロと落ちた。
「な、なんだ? どうしたんだ?」
ラムセスは家の中にいたが、外の異変に気づいた。
実は、薔薇の花にはセンサーがついており、飾った場所から外れると部外者進入の
ランプがつくのであった。(そんなセキュリティーがあって、どうしてパピルスの家……笑)
もう一度ウルヒが息を吹きかけると、パピルスがどんどん吹き飛び、最後には
骨組みだけになってしまった。
「うわああああ。オオカミだぁ〜。助けてー」
そう言いながら、ラムセスは弟カイルの家に逃げ込んだ。
『ドンドンドン』
カイルの家のドアを叩いたが、なかなか家の中には入れてくれなかった。
「またラムセスってば、私とカイルの仲を邪魔しに来たのね。まったくもう!」
ユーリもカイルもいつものラムセスの嫌がらせだろうと思って、家の中には入れなかった。
「おい! ムルシリ、ユーリ! オオカミに襲われたんだよう。助けてくれよう」
ラムセスは情けない声を出した。様子がおかしいことに気づいて、カイルはラムセスを家の中に
入れてやった。
「オオカミが出たのか? 本当にオオカミか? オオカミ少年じゃないよな?
カイルはオオカミが出た真偽を確認した。
「オオカミ少年じゃない。今の話は『三匹の子ブタ』だ! 本当に銀色のオオカミが出たんだよ!」
ラムセスは一所懸命説明した。
「やだわ、この家にも来るかしら……」
ユーリは心配そうな顔をした。
「ふふふふー。次は次男の家♪ 次男はどんな家を建てたのかぁ〜」
ウルヒオオカミは、カイルの家に近づいていた。
「木の家か。これも吹き飛ばせば何とかなるかな? ふぅー!」
ウルヒは息を吹きかけてみたが、ラムセスのパピルスの家よりは頑丈だったため、
ビクともしなかった。
「ダメか……、じゃあ体当たりだ!」
ウルヒは思いっきり木のお家に体当たりした。
『ガラガラガッシャン』
カイル君の木のお家はガラガラと崩れてしまった。
「本当だ。オオカミだ。逃げろー!」
ラムセス、カイル、ユーリは三男のイルの家に逃げ込んだ。
「イル、助けてくれ。銀色のオオカミに俺達の家は襲われてしまったんだ!」
「仕方ないですね、お入りなさい。この家は大丈夫ですよ。頑丈ですから」
イルは少し軽蔑した目で兄達を見つめた。
「本当に大丈夫? オオカミに壊されない?」
ユーリの不安の色は顔から隠せなかった。
「さあ、残るは三男の家。長男も次男もまとめて始末できるわ! はっはっは!」
ウルヒはレンガのイルの家の前まで来た。
息を吹きかけてもだめだろうと思い、最初から体当たりすることにした。
『ドーン』
「きゃああああ」
レンガの家は大きく揺れた。だが、カイルの木のお家と違って、ビクともしなかった。
「大丈夫ですよ。ユーリ様。この家は体当たりしたくらいじゃ壊れません」
イルは自身満々に言った。
「うーん、この家は頑丈だな。どうやって壊そうか……」
ウルヒが考えていると、レンガの家の屋根に目が行った。
屋根の上には煙突があったのである。
(あそこから入ればいいんだ!)
そう思い、ウルヒは屋根によじ登り煙突から忍びこもうとした。
「おい、イル=バーニ! 煙突からオオカミが来るぞ! どうする?」
カイルは皇帝陛下のくせに慌てた。
「大丈夫です、カイル様。煙突につながっている暖炉に火をつけて、大きな鍋に水を張って、
オオカミ鍋にしましょう!」
ラムセスとカイルとイルは必死に薪を炊き、大きな鍋に水を入れて沸騰させた。
そんなことも知らないウルヒは煙突からヒューッと真っ逆様に降りてきた。
「うぎゃああああ」
ウルヒは沸騰したお湯の中に落ちてしまった。
「やったぁ! 銀色のオオカミをしとめたぞぉ!」
ラムセスは大きな声で叫んだ。
「すごいぞ! イル=バーニ!」
カイルも喜んでいた。
「何をはしゃいでいるんですか! すごいじゃありませんよ。カイル様にラムセス将軍!
あなたたちは、仮にも一国を治める皇帝陛下と将軍ではありませんか! 国の代表となるべき者が、
外敵にすぐやられてしまうようなチャチな家を作ってどうするんでうすか!
一国の主となるもの、判断力、精神力、想像力、精神能力、身体能力、五感能力、
耐久性、柔軟性、敏捷性、積極性……すべてを兼ね揃えていなければならないのです。
そんなことでどうするのです! まったく……、情けないです!」
イルに助けられたカイルとラムセスは何も言えなかった。
そこへ、ナキアブタ母さんが自分の子がそろそろウルヒに食べられているかどうか、
確認のためにイルの家にやってきた。
ナキアは呆気に取られた。食べられるどころか、雇ったウルヒが鍋になっていたのだから!
「お・・・おお! 子ブタ達よ。そのオオカミ鍋はどうしたのじゃ?」
「母さん! イルが銀色のオオカミをやっつけたんだよ! 凄いでしょ!」
「おお、さすがは一番賢いイルじゃ。今日はオオカミ鍋が、ご馳走じゃの!」
ナキアブタ母さんと三匹の子ブタ達は、夕食のおいしくオオカミを頂いた。
役立たたなかったオオカミなんか、ナキアにとっては食べてしまってもなんの未練もないようであった……。
♪おわり
なんか怖いぞ! この話!BYねね